台湾総統選 民進党候補がトップ保つも 最大野党候補が追い上げ

4年に1度行われる台湾総統選挙の投票日まで13日であと1か月となりました。世論調査の支持率では中国と対立する与党・民進党の候補がトップを保っていますが、中国との交流に積極的な2位の最大野党・国民党の候補が差を詰めていて、選挙戦は激しさを増しそうです。

来月13日に投票が行われる台湾総統選挙には与党・民進党から今の副総統の頼清徳氏、最大野党・国民党から現職の新北市長の侯友宜氏、野党第2党・民衆党から前の台北市長の柯文哲氏の合わせて3人が立候補しています。

選挙戦の大きな争点の1つが台湾への圧力を強める中国との向き合い方です。

民進党の頼氏は「台湾は中国の一部だ」という中国の主張を認めず、アメリカなどとの関係強化によって、中国を抑止しようという現職の蔡英文総統の路線を引き継ぐ姿勢です。

国民党の侯氏は「民進党政権が中国との武力衝突の危機をもたらしている」と批判し、中国との交流を密にして衝突のリスクを下げると主張しています。

民衆党の柯氏は「民進党は中国から相手にされず、国民党は中国に従順すぎる」と2大政党を批判し、文化や経済の分野を先行して中国との交流を進めるとしています。

主な世論調査の支持率では頼氏が30%台でトップを保っていますが、2位の侯氏が30%前後に上昇して差を詰めています。

柯氏の支持率は民衆党の内部調査では侯氏を上回る2位とされていますが、ほかの世論調査ではおおむね20%を割り込み、3位となっています。

各候補は今後、台湾各地で大規模な集会を開くなどして支持の拡大を図ることにしていて、選挙戦は激しさを増しそうです。

また、国会議員にあたる立法委員の選挙も総統選挙と同時に行われます。

現在は与党・民進党が過半数の議席を占めていますが、今回の選挙ではどの党も単独での過半数の確保は難しいという見方が出ていて、選挙後に安定した政権ができるかどうかも注目されます。

専門家“台湾の有権者 中国との関係は現状維持を望む”

台湾の総統選挙について、政治大学の蔡中民教授はNHKのインタビューに応じ、中国政府は与党・民進党の頼清徳候補ではなく、野党・国民党の侯友宜候補の当選を望んでいると分析する一方、「これまでも蔡英文総統のもとで民進党政権が続いており、中国政府は民進党と付き合う感覚を身につけている。中国政府にとって民進党は対話したくない相手だろうが、頼候補の当選を特に大きく懸念することはないだろう」と指摘しました。

また、蔡教授はアメリカ政府は頼候補の当選を望んでいるとみるのが自然だと分析したうえで、「アメリカ政府は『1つの中国』政策を堅持し、台湾の独立を支持しないとする立場を表明し、民進党側に明確なメッセージを送っている。頼候補はきわめて現実主義的な人物であり、台湾独立を求めているというイメージを持たれないようにしており、当選すれば徐々に距離を置くだろう」と指摘しました。

さらに、蔡教授は、台湾の有権者は中国との関係について、「現状が悪化しないという意味で現状維持を望んでいる」と述べたほか、総統選挙の3人の候補者についても、「決して軍事衝突になってはならないという点で共通している」と指摘しました。

総統選挙を前に候補者をめぐる偽情報が広がる

総統選挙を前に台湾では候補者をめぐる偽情報が広がっています。

インターネット上に出回る情報の真偽を確かめて公表する活動を行っている台湾のNPO「台湾ファクトチェックセンター」によりますと、先月24日に立候補の受け付けが締め切られて以降、候補者に関する誤った情報などがSNSなどで広がるケースがより増えているということです。

このうち、台湾当局で駐米代表を務めてきた与党・民進党の副総統候補の蕭美琴氏について、「アメリカ国籍を維持しながら立候補した」という情報が広がりました。

蕭氏は父親が台湾籍、母親がアメリカ国籍で、台湾ファクトチェックセンターによりますと、蕭氏自身もアメリカ国籍を持っていましたが、2002年に放棄しているということです。

また、最大野党の国民党の副総統候補、趙少康氏が1994年の台北市長選挙の際に、選挙運動で使われなかった当時所属していた政党の資金を横領したという情報が出回りましたが、台湾ファクトチェックセンターによりますと、残金は党本部が使用し、横領はなかったと、所属していた政党がその後、明らかにしたということです。

さらに、野党第2党の民衆党の総統候補の柯文哲氏が「中国で歓待された」として女性と映っている写真が拡散されましたが、実際には台北市で行われたイベントなどに参加した際に撮影された写真だったということです。

こうした誤った情報を誰がどのような目的で発信しているかはわかっていませんが、台湾では中国が偽情報によって選挙に介入してくることに懸念が高まっています。

台湾ファクトチェックセンターは「私たちは選挙に関連した真偽が不確かな情報のファクトチェックを続けていく。有権者が誤った情報ではなく、検証された事実に基づいて、十分な情報を得た上で、意思決定できるように取り組んでいく」としています。

台湾政策担当 中国の報道官「台湾同胞の正しい選択信じる」

台湾総統選挙まで1か月となるなか、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は13日、定例の記者会見を開きました。

この中で、朱報道官は台湾との農業分野での協力をめぐり、「多くの台湾の人が世代をこえて中国大陸で農村の振興に身を投じ、両岸の農業の融合と発展に貢献している」と述べ、成果を強調しました。

一方で、朱報道官は台湾総統選挙をめぐり、与党・民進党の候補者で、アメリカなどと連携して中国の圧力に対抗する姿勢を示す頼清徳氏を「トラブルメーカー」だとしたうえで、「脅威をでっちあげ、台湾の人の暮らしを台なしにしている」と述べ、頼氏を非難しました。

そして、「多くの台湾の同胞が民進党当局の欺まんに満ちた選挙の宣伝を見破り、平和と戦争、繁栄と衰退にかかわる正しい選択をすることを信じている」と述べました。