国立大学法人法の改正案 あす成立へ 大学側から危惧も

大規模な国立大学法人に、中期計画や予算などを決定する「運営方針会議」の設置を義務づけることなどを盛り込んだ国立大学法人法の改正案は、12日の参議院文教科学委員会で採決が行われ、自民・公明両党や日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決されました。

国立大学法人法の改正案は、管理運営や研究体制の充実を図るためとして、大規模な国立大学法人を「特定国立大学法人」に指定し、学長と3人以上の委員でつくる「運営方針会議」の設置を義務づけたうえで、中期計画や予算・決算を決定する権限を与えることなどが盛り込まれています。

立憲民主党は「運営方針会議には懸念がある。大学の自治や学問の自由に対して理解のない人は、運営方針委員に選ばれることはないと考えていいか」と質問しました。

これに対し盛山文部科学大臣は「大学みずからが運営の当事者として、ともに発展に取り組んでいきたいと考える人を学内外から人選してもらい、運営方針会議としての責任と役割を果たすことが重要だ。民間企業の実務経験がある人などを想定しているが、大学に関する理解を深めることができる取り組みをしてもらうことが重要だ」と述べました。

そして採決が行われ、自民・公明両党や日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決されました。

改正案は、13日の参議院本会議で採決され、可決・成立する見通しです。

衆議院と同様に付帯決議が可決

参議院文教科学委員会では、衆議院と同様に付帯決議が可決されました。

それによりますと
▽運営方針会議が重要事項を決定する権限を有する組織であることを踏まえ、委員の選任では、ジェンダーバランスをはじめとする多様性に留意し、選定過程の透明性・公正性が担保されるよう検討を行うことや

▽文部科学大臣が委員を承認するにあたっては過去に政府の意に沿わない言動があった人などについて、言論活動や思想信条を理由に恣意的(しいてき)に承認を拒否することのないよう、大学の自主性・自律性に十分に留意することなど
が盛り込まれました。

これまでの議論は

国立大学法人法の改正案では、国立大学法人のうち、学生や教職員の数、収入・支出の額などが特に大きい法人を「特定国立大学法人」に指定し、「運営方針会議」の設置を義務づけるとしています。

「運営方針会議」は学長のほか、3人以上の委員で構成され、中期計画や予算・決算を決定し、その内容に基づいて運営が行われていない場合は学長に改善を求めることができるとしています。

そして委員は、特定国立大学法人の申し出に基づいて文部科学大臣が承認したうえで、学長が任命すると規定されています。

これについて、立憲民主党や共産党などは
▽時の政権と主義主張が異なる人物は大臣が承認しないおそれがある
▽大学運営から教職員を排除する仕組みとなっていて、学問の自由を大きく侵害する可能性がある
などと指摘しています。

これに対し、政府は
▽もともと国立大学法人は文部科学大臣が学長を任命することになっており、今回の法案では学長の権限の一部を「運営方針会議」に移譲する形となっていることから、大臣が委員を承認する必要があると説明しています。

また、委員について
▽大学の申し出に手続き的な不備や違法性がある場合
▽明らかに不適切と客観的に認められる場合
を除き、大臣は承認を拒否することはできないとしています。

衆議院文部科学委員会では付帯決議が採択され
▽委員の選定過程の透明性・公正性が担保される選任のあり方を検討することや
▽委員の承認に当たっては、過去に政府の意に沿わない言動があった人物などについて恣意的に承認を拒否することのないよう大学の自主性・自律性に十分留意することなどが盛りこまれました。

強い危惧や廃案求める声も

国立大学法人法の改正案をめぐっては、国立大学協会が強い危惧を示す声明を出したほか、廃案を求める署名活動や集会の動きも出ていました。

このうち「国立大学協会」は、11月24日に永田恭介 会長名で声明を発表しました。

この中では、改正案で大規模な国立大学法人に「運営方針会議」の設置を義務づけていることについて「国立大学法人が区分され、差異のある取り扱いがなされる可能性があることに強い危惧がある」としました。

そのうえで、
▽会議の設置の有無などで、取り扱いに差を設けないことや
▽会議を設置する国立大学法人の自主性・自律性を尊重することなどを求めています。

また、改正案で会議の委員は文部科学大臣の承認を必要としていることなどから、有志の大学教授らが「大学の自治を侵害している」として、廃案を求めるおよそ4万3000人分の署名を12月1日、文部科学省に提出していました。

教授らの団体「大学の自治、学問の自由を葬り去るもの」

改正案が参議院文教科学委員会で可決されたことを受け、廃案を求める署名活動や集会を行ってきた有志の大学教授らでつくる団体が抗議の声明を出しました。

声明では、『運営方針会議』に中期計画や予算・決算を決定する権限を与えることなどが盛り込まれていることについて、「学長の重要な権限を移譲すると定めている点で、学内の民主的な意思決定の仕組みを根底から覆し、学外者による大学支配を可能とし、『大学の自治』さらに『学問の自由』を葬り去ろうとするものだ」としています。

そのうえで、「政府・与党は改正を必要とすべき立法事実の説明をまともに行わず、法案の策定過程にかかわる公文書も断片的にしか提出しなかった」として、法案の審議過程についても批判しました。