陸自女性隊員強制わいせつ事件の裁判 12日判決 福島地裁

陸上自衛隊の隊員だった五ノ井里奈さんに無理やりわいせつな行為をしたとして、強制わいせつの罪に問われている上司だった元隊員3人に対して、12日、福島地方裁判所が判決を言い渡します。五ノ井さんが実名で性被害を訴えたことをきっかけに、防衛省が、ハラスメントの実態を調べる特別防衛監察に乗り出す異例の事態となりましたが、3人は無罪を主張していて、3人の行為がわいせつな行為に当たるかどうか裁判所の判断が注目されます。

おととし8月、北海道にある陸上自衛隊の演習場で、隊員だった五ノ井里奈さん(24)を押し倒し、服の上から体を触ったなどとしていずれも元上司で、陸上自衛隊郡山駐屯地の部隊に所属していた元3等陸曹、渋谷修太郎被告(31)と関根亮斗被告(29)、木目沢佑輔被告(29)の3人が強制わいせつの罪に問われています。

検察は3人にいずれも懲役2年を求刑しています。

一方、3人はいずれも五ノ井さんに格闘技の技をかけて押し倒すなどしたことは認めましたが、わいせつ目的ではなかったなどとして無罪を主張しています。

この事件は、いったん不起訴にされましたが、五ノ井さんが実名で性被害を訴えたあと、検察審査会が「不起訴は不当だ」とする議決を行い再捜査した検察が3人を在宅起訴したほか、防衛省が、自衛隊内のハラスメントの実態を調べる特別防衛監察に乗り出す異例の事態となりました。

判決は、午後1時半から福島地方裁判所で言い渡され、3人の行為がわいせつな行為にあたるかどうか裁判所の判断が注目されます。

わいせつ行為に当たるかが争点

裁判では、元上司3人の行動がわいせつ行為に当たるかどうかが争点となっています。

検察は、3人が五ノ井さんに格闘技の技をかけて仰向けに倒し、その上に覆いかぶさってわいせつな行為に及んだなどと指摘し「被害者の証言は合理的で信用でき、3人の行為がわいせつな行為にあたることは明らかだ」と主張しました。

そのうえで「宴会の席を盛り上げるためという自己中心的で、被害者の尊厳を顧みることのない身勝手な動機で及んだもので非難の程度は大きい。被害者の性的羞恥心を大きく害する行為で卑劣で悪質だ」として3人にいずれも懲役2年を求刑しました。

これに対し、3人はいずれも五ノ井さんに技をかけたことや体を押さえつけたことは認めましたが、「服の上から下腹部を接触させていない」などとして性的な意味やわいせつに当たる行為はなかったと、無罪を主張しました。

弁護側は「いずれも強制わいせつ罪は成立しない」としています。

去年10月、五ノ井さんに直接謝罪したことについては、3人は、裁判で、謝罪したのは自衛隊から指示を受けたからで、性的な行為をしたと認めたからではなく、五ノ井さんを不快な気持ちにさせたことへの謝罪だった、と説明しました。

一方、五ノ井さんは、初公判から結審までの6回の審理すべてに被害者参加人として出廷し、ことし10月30日には法廷で意見陳述を行い「3人の『何が悪いのか』という態度にショックを受けた。絶対に許すことはできず罪を認めて償ってほしい」などと訴えていました。

実名で性被害訴え実態調査 異例の事態

この事件をめぐっては、陸上自衛官だった五ノ井里奈さん(24)が性被害を実名で訴えたことをきっかけに、防衛省が、自衛隊内のハラスメントの実態を調べる特別防衛監察に乗り出す異例の事態となりました。

五ノ井さんは、おととし8月に、北海道にある陸上自衛隊の演習場で、隊員らから性被害を受けたとして当初、所属していた部隊の上司に訴えましたが、部隊内では調査が行われませんでした。

自衛隊内の捜査機関の警務隊に被害届を提出し、元上司の3人は書類送検されましたが、去年5月、検察はいずれも不起訴にしました。

このため、五ノ井さんは事実の調査や関係者の処分、謝罪などを求めて活動することを決意。

自衛隊を退職し、実名で声をあげたあと、防衛省は自衛隊内のハラスメントの実態を調べるため特別防衛監察という極めて異例の対応を行いました。

そして、複数のセクハラ行為が確認されたとして、五ノ井さんに謝罪し、去年10月、元上司3人も直接謝罪しました。

防衛省は、去年12月、この3人を含む陸曹5人を免職の懲戒処分にしました。

一方、事件の不起訴を不服とする五ノ井さんの申し立てを受けた検察審査会が「不起訴は不当だ」と議決し、検察は再捜査した結果、判断を見直し、ことし3月、福島地方検察庁が3人を強制わいせつの罪で在宅起訴しました。

このほか、五ノ井さんは、被害を申し出たにもかかわらず、十分な調査や対応がとられなかったなどとして、国と加害者に対し損害賠償を求める民事裁判も横浜地方裁判所に起こしています。

五ノ井さんは、性被害を実名で訴えたことで見過ごされてきた組織の問題を浮き彫りにした行動が評価され、アメリカの雑誌「タイム」の『次世代の100人』やイギリスの公共放送BBCの世界の人たちに影響を与えた『ことしの女性100人』に選ばれました。