ボクシング 男性に戸籍変更の選手 男性プロ選手とスパーリング

女子プロボクシングの元世界チャンピオン、真道ゴー選手が、男性に戸籍を変更した選手としては国内で初めて、男性のプロ選手と公式戦に近いルールでスパーリングを行いました。

WBC=世界ボクシング評議会女子フライ級の元チャンピオンでその後、性別適合手術を受けて戸籍を変え、男性のプロボクサーを目指してきた36歳の真道選手について、JBC=日本ボクシングコミッションは、安全管理の面で不安が残るとしてプロテストの受験は許可しなかったものの、公式戦が行われる会場で男性のプロ選手とスパーリングをすることは認めました。

これを受けて真道選手は10日、大阪 浪速区の大阪府立体育会館で行われた試合の中でプロ5戦2勝の石橋克之選手とスパーリングを行いました。

スパーリングは3ラウンド制で、JBCのレフェリーが試合を裁いて採点したうえで勝敗を決する方式で行われ、選手はともに公式戦と同様、ヘッドギアを着用せず、8オンスのグローブで臨みました。

真道選手は第1ラウンド、持ち味のスピードを生かしながらフックやワンツー、それにボディーへのパンチを打ち込むなど、序盤は主導権を握りました。

しかし、第2ラウンド以降は、打ち合いの中で相手に捉えられる場面が増え、最終の第3ラウンドには左のパンチでカウンター気味に顔面を打ち込まれてダウンを喫しました。

真道選手はその後、攻め込んだものの判定の結果、0対3で敗れました。

それでも試合終了後にはおよそ1200人の観客から大きな拍手を受けていました。

男性に戸籍を変更した選手が男性のプロ選手と公式戦に近いルールでスパーリングを行うのは今回が国内では初めてで、真道選手はMRI検査や血液検査などの健康診断をクリアしたうえで臨んでいました。

真道ゴー「本当に幸せ」

真道ゴー選手は「結果が負けということで満足しているかと言われれば悔しいが、拳を交えて戦えたのは純粋に楽しかった。パンチが来たときに『やっぱり重たいな』とかいろいろなことをかみしめていた。全体的に技術などで劣っていたとは思っていない」と試合を振り返りました。

そのうえで「自分がどう生まれたから何かを諦めるのではなくて、信念があれば協力してくれる人が生まれる。私自身本当に幸せだし、ありがたい人生を歩ませてもらっている。どう生まれたからと言って絶対にうまくいかないと思うのではなく、『前を向けば自分のやりたいことを形にできるよ』ということが伝わればいい」と話しました。

そして、今後については「きょうという日に向けてやってきたので、これからのことは考えていない。体のことも年齢のこともある。自分1人では決められないのでこれから考えたい」と述べました。

石橋克之「男性のプロ選手でやっていけると思う」

対戦相手の石橋克之選手は、真道ゴー選手について「パンチ力は本当にあったし、効いていた。最初は負けたくないと思ったが、やっている間に楽しくなって勝ち負けは考えなかった。ジェンダーの問題は詳しくは分からないが、実際に対戦した僕が通用すると思うのだから、男性のプロ選手でやっていけると思う」と話しました。

JBC「プロと遜色ない打ち合いをした」

JBC=日本ボクシングコミッションの安河内剛 本部事務局長は、真道選手について「安全性という部分がいちばん不安だったが、非常にいいパフォーマンスを見せてくれた。勝ち負けはあくまでも参考だ。公式戦に極めて近い形ということを考えたときに、はたで見ていてもかなり威力はあったし、かなりの技術力があった。プロと遜色ない打ち合いをしたという部分では『これは全然ダメだ』という評価を下す人はいないと思う」と高く評価しました。

そのうえで、これまで真道選手が希望してきたプロの道に向けては「試合後の体の検査なども行って理事会で今後どうしていくのか、議論していく」と述べたうえで、「もし認められた場合はほかのトランスジェンダーの選手について真道選手の実力が大きなメルクマールになると思う」と話していました。

スパーリング実現までのいきさつ

真道ゴー選手は和歌山市出身の36歳。20歳の時にボクシングを始め、2013年にはWBC=世界ボクシング評議会の女子フライ級でチャンピオンになりました。

性同一性障害であることを公表しながら活動していましたが、2017年に性別適合手術と戸籍の変更を経て男性となり、女性と結婚したことを受けて現役を引退しました。

その後は、障害がある子どもたちに対してスポーツを通して学習を支援したりする施設の代表として経営に専念してきましたが、その中で「自分が成長する姿を子どもたちに見せたい」と感じてきました。

さらに、自分の子どもから「パパはなんでリングに上がらないの」と尋ねられたことがきっかけとなり、男性としてプロを目指すことを決め、去年JBC=日本ボクシングコミッションにプロテスト受験の書類を提出しました。

JBCは、検討を進める中でジェンダーに関する専門家や医師などで作る委員会に諮問し、委員会からは真道選手の実績や体力測定の結果を踏まえて「テストケースとして受験を認めることは可能だ」と答申を受けました。

しかし、JBCはことし7月の理事会で、試合で受けるダメージなど、安全管理の面での知見が十分でないなどとしてプロテストの受験を認めませんでした。

その代わりに女性として生まれてその後、男性として社会生活を送る選手について、血液検査で男性ホルモンの「テストステロン」の基準値などをクリアした場合に限って公式戦の会場で男性の選手とスパーリングを行うことができる新たなルールを定めました。

さらに、真道選手については特例でプロの男性選手とのスパーリングを許可し、真道選手も「プロテストを受験できず、海外に行くことも考えたが、プロの選手と同じルールのもとで試合ができるのであればやってみたいと思った」として今回のスパーリングが実現しました。