IOC パリ五輪 ロシアとベラルーシ 参加容認「個人資格の選手」

IOC=国際オリンピック委員会は、ウクライナへの軍事侵攻を理由に来年のパリオリンピックへの参加の判断が保留されていたロシアとその同盟国のベラルーシの選手について、「中立な立場の個人資格の選手」を条件に参加を認めると発表しました。

IOC「中立な立場の個人資格の選手」条件に参加認める

IOCはウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアとその同盟国のベラルーシの国籍を持つ選手について、来年夏のパリオリンピックへの参加の判断を保留してきましたが、8日、理事会を開いたあと声明を発表し、『AIN』と呼ばれる国や地域を代表しない「中立な立場の個人資格の選手」を条件に、参加を認めることを決めたと発表しました。

参加にあたっては、IOCがことし3月に両国の選手を国際大会に参加させる条件として国際競技団体などに勧告した
▽軍の関係者や軍事侵攻を積極的に支持する選手は認めないこと
▽チームとしての出場は認めないこと などが適用されるということです。

IOCによりますと、参加の条件を満たす両国の選手はごく少数にとどまる見通しだということです。

この問題をめぐっては、今月5日に開かれた主要な国際競技団体などの代表者を集めた『オリンピックサミット』で、競技団体側がIOCに対して両国の参加を認めるよう要望し、206の国と地域のオリンピック委員会が加盟するオリンピック委員会連合なども支持を表明していました。

一方、パリパラリンピックについては、IPC=国際パラリンピック委員会がすでに、同様の「中立な立場の個人資格の選手」を条件に両国の選手の参加を認める決定をしています。

ロシアスポーツ相「差別的 五輪の基本原則に反している」

IOC=国際オリンピック委員会がロシアとベラルーシの選手について、「中立な立場の個人資格の選手」を条件にパリオリンピックへの参加を認めると発表したことについて、ロシアのマティツィンスポーツ相は8日、ロシア国営のタス通信などに対し、「オリンピックへの参加がアスリートの夢であることは否定しないが、私たちが提示された条件は絶対的に差別的であり、オリンピックの基本原則に反している。IOCの指導者らはオリンピックそのもののイメージを傷つけている」と述べ、IOCの決定を批判しました。

ウクライナ外相「恥ずべき決定だ」

ウクライナのクレバ外相は8日、旧ツイッターのXに投稿したメッセージの中で「恥ずべき決定だ」と強く非難しました。

クレバ外相は「IOCはオリンピックを武器として使うことにゴーサインを出した。プーチン政権はすべてのロシアやベラルーシの選手を自国のプロパガンダ戦争の武器として使うだろうからだ」と述べ、ウクライナの友好国に対してIOCの決定を強く非難するよう呼びかけています。

ウクライナ オリンピック委員会「私たちの声届いていない」

ウクライナのオリンピック委員会は8日、SNSを更新し、「われわれは協力関係にある国とともに外交面で戦ってきたが認められることはなかった。軍や民間人の犠牲者が出たり、インフラ、占領地の破壊が行われていたりしているにもかかわらず、私たちの声は届いていない」としました。

そのうえで、「われわれの戦いは続く。両国の選手の『中立』の条件が順守されているかどうかを厳密に監視し、IOCや国際競技団体に違反や悪用の事案を通知していく」としています。

国際体操連盟 渡辺会長「スポーツは政治から分離」

両国の参加に賛成する考えを従来から示している国際体操連盟の渡辺守成会長は9日、NHKの取材に対し、「スポーツは政治から分離したものであり、国家の行為によって選手が罰せられるべきでないというのが原則だ。楽観的と批判されるかもしれないが、両国の選手もウクライナの選手もいずれも大会をボイコットすることなく競い、勝ち負けにかかわらず握手をしてほしい。それこそが平和への強いメッセージになる」と話しました。

世界陸連会長 改めて参加に反対する立場強調

ロシアによる軍事侵攻開始以来、両国の選手の国際大会参加に一貫して反対してきた世界陸連のセバスチャン・コー会長は8日に開いた会見で、今回のIOCの決定によって立場を変える可能性があるか問われたのに対し、「ありえない。パリ大会では両国から何人かの中立な個人資格の選手を見ることができるかもしれないが、陸上競技ではない。選手の参加資格や選考については国際競技団体の判断が最も優先される。それぞれの競技のために判断を下すのが正しいことだ。われわれの組織の立場はすでにほぼ満場一致で決定されており、変わることはない」と、改めて参加に反対する立場を強調しました。

《これまでの経緯》

去年2月、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が開始された直後、IOC=国際オリンピック委員会は各国際競技団体などに対して、両国の選手を国際大会に参加させないよう勧告し、大会から除外する動きが広がりました。

しかし、ことし1月になって、IOCは両国の選手の国際大会への復帰を検討し始めます。

そして、軍事侵攻の開始から1年余りがたったことし3月。国際競技団体などに対し、両国の選手を国際大会に復帰させる際の条件として
▽国や地域を代表しない中立の立場と認められる個人に限り、チームでの参加は認めないこと
▽軍の関係者や軍事侵攻を積極的に支持する選手は認めない
などとすることを勧告しました。

IOCのバッハ会長はこの判断について、「いかなる選手もパスポート(国籍)を理由に競技に参加することが妨げられてはいけない」としたうえで、国連の人権理事会から両国の選手の国際大会からの除外について、「深刻な懸念」を示されたことが背景にあると説明しました。

この方針転換に対し、パリオリンピックの開催都市であるパリ市長がロシアの選手について、「人権を象徴する都市のパリでは行進できないだろう」と参加に反対する姿勢を示すなど、ヨーロッパを中心に各国で賛否が分かれ、政治を巻き込んだ議論となりました。

《各競技で対応分かれる》

◆柔道

国際柔道連盟はことし5月の世界選手権で、個人の資格としてロシアとベラルーシの選手の出場を認めました。これに対し、ウクライナは大会をボイコットしました。

国際柔道連盟のビゼール会長は「全ての選手が大会に出場できることは当たり前のことだ。私たちの競技には戦争や政治、差別の場所はない」と判断の正当性を強調しましたが、分断を生む結果となりました。

◆フェンシング

フェンシングでは国際競技団体が両国の選手が出場できると判断したことを受けて、ドイツやフランスなどヨーロッパの国の競技団体がオリンピック予選を兼ねたワールドカップを相次いで中止し、選手の選考に影響が出る事態となりました。

◆そのほかの競技

体操や卓球、レスリングなどが両国の選手の国際大会への参加を認める一方
陸上やバスケットボールなどでは除外を継続する方針を示していて、今回のIOCの決定を受け、各国や競技団体がどう対応するのか注目されます。