海の温暖化 「環境DNA」が映す魚たちの北上

海の温暖化 「環境DNA」が映す魚たちの北上
地球温暖化を超えて地球沸騰化とも言われる時代。その影響は、ふだん見えにくい「海の中」にも確実に忍び寄っています。

魚たちが住みかを北に移していることが、最新の研究結果で明らかになりました。読み解く鍵が、環境DNAです。

(福岡局記者 早川俊太郎、札幌局記者 川口朋晃、おはよう日本記者 梶田昌孝)

“扱う魚ががらっと変わった”

福岡・博多の台所として親しまれている長浜鮮魚市場。九州北部の玄界灘でとれた新鮮な海の幸が連日並びます。
ただ、およそ40年にわたってこの市場を見ている水産加工会社経営の森田武常さん(55)は、取り扱う魚の種類がこの10年でがらっと変わったと感じていました。

この時期はサワラが減った一方で、沖縄などの暖かい海に生息するアカハタやシイラがよくとれるようになったと説明してくれました。
中でも、変化を代表するのがフグだといいます。

本来は、今まさに旬を迎えるはずの天然のトラフグですが、近年は「市場への出荷が全くない」状況だということです。
水産加工会社経営 森田武常さん
「いや、本当に死活問題ですよ。昔のようになってほしいですけど。玄界灘で育った魚はおいしいですからね。守らないといかんです」

漁業者の間で強まる危機感

かつて福岡県は、フグの漁獲量で全国1位を誇っていました。

高値で取り引きされる天然のトラフグは漁業者にとって収入の柱になるだけに、現場では危機感が強まっています。
松本久人さん(61)はフグ漁を始めて8年ですが、水揚げは当初のころと比べて3割ほど減ったと言います。
漁業者 松本久人さん
「冬場はフグ漁がメインなので、とれなければ生活ができません。燃料価格なども値上がりしているので不安です。皆さん、困っています」

北海道でフグが“大漁”

一方、福岡県に代わる形で、フグの漁獲量トップに躍り出たのが北海道です。
こちらのフグは、トラフグではなくマフグですが、オホーツク海で5年ほど前から大量にとれるようになりました。

北海道のフグの漁獲量は10年間で7.7倍に急増。全国の3割余りを占め、3年連続で日本一となっています。

異変の原因は海面温度上昇か

海の生態系を研究している九州大学大学院の准教授、清野聡子さんは、日本周辺の海面の温度がこの100年で平均1.24度上昇したことが異変の原因だと指摘します。
九州大学大学院 清野聡子 准教授
「魚は自分の体で体温が調整できないので、温度が適切な海域に移動していくしかありません。移動できなければその熱に耐えかねて、弱ってしまったり、死滅してしまったりすることになります」

“海の異変” 環境DNAで読み解く

どんな魚が、どの程度、生息域を北上させているのでしょうか。読み解くカギが環境DNAです。

この日、清野さんの姿は福岡市の海岸にありました。助手と一緒にバケツを投げて、海水をすくっています。
何が目的なのかというと……。
「環境DNAで、魚の種類を調べる調査をしています」

環境DNAとは?

環境DNAは、海などの「環境」に溶け出した生物由来の「DNA」のことです。
泳いでいる魚からは細胞片やふんが海中に出されます。海水を採取し、科学的な手法でDNAを解析することで、その海域に生息する魚種などが一定程度、把握できるとされています。
九州大学大学院 清野聡子 准教授
「魚を直接、網などでとるのではなくて、水をくんで、その中に浮いているDNAを調べて種類を決めていくんです。だからこの作業だけで、魚の種類が分かるんです」
清野さんは、東北大学大学院の近藤倫生教授をはじめ全国の研究者とプロジェクトチームを立ち上げ、どの海域にどんな魚が分布しているのか、共同研究しています。
最新のデータから、九州の代表的な魚であるサバやブリ、サワラのDNAが近年、東北や北海道の沿岸で多く検出され、生息域が北上していることが確認されました。
九州大学大学院 清野聡子 准教授
「玄界灘では、そのうちサンゴも普通になってきて、それで徐々に奄美大島みたいな海が10年後、20年後に福岡の目の前に出現する可能性もあるわけですよね。福岡の海というのが、今度、秋田沖とか青森沖とかにシフトすることも考えられます」
フグが大量に水揚げされるようになった北海道のオホーツク海側。

地元の漁業者、船橋恵一さん(69)は戸惑いを感じながらも、消費の拡大を目指しています。
フグを処理できる免許を取得し、これまでなじみの無かったフグのおいしさを伝えたいと考えています。
漁業者 船橋恵一さん
「自分たちとしては主力のホッケやカレイがどんどんいなくなっていくわけだから、困ったなと言いながら、地元で安く、低価格でフグを知ってもらうところから始めました。もっとフグを広く消費してもらえるように挑戦しています」
魚の住みかが北に移っていることについて、水産業担当の佐藤庸介解説委員は次のように指摘します。
佐藤庸介解説委員
「もともと九州や山陰などが主産地だった天然のブリは、北海道でもとれるようになっています。ほかにもサワラ、タチウオ、チダイなどが北上しているとされます。一方で、サンマやサケなど、過去にない不漁に陥っている魚も数多くあります。地球温暖化は陸上だけでなく海の中にも及んでいて、私たちの食卓に影響が出るほど深刻だと認識しておく必要があると思います」
地球沸騰化は、私たちの身近な所でもさまざまな「異変」を引き起こしています。この事実に私たちはどのように向き合えばよいでしょうか。

“沸騰アース”の現場を歩き、継続的に取材していきます。
(11月28日「おはよう日本」で放送)
福岡放送局記者
早川俊太郎
2010年入局
経済部などを経て現在は福岡市政を担当
おいしい魚に魅了され鮮魚市場も徹底取材
札幌放送局記者
川口朋晃
2013年入局
小樽支局、函館局を経て現所属
北海道出身 道民生活34年
今の目標は道内 道の駅スタンプラリー全制覇
おはよう日本記者
梶田昌孝
2015年入局
NHK入局前は制作会社で料理番組を担当
長野局、和歌山局などを経て現所属