EVに欠かせないパワー半導体 東芝とローム 共同生産へ

EV=電気自動車に欠かせないパワー半導体の事業を強化するため、国内メーカーが手を組み共同生産を行う計画が明らかになりました。東芝と半導体大手のロームは、両社の工場で生産を分担する方式で協業し、経済産業省が最大で1200億円余りを補助する方針です。

関係者によりますと、東芝とロームは、パワー半導体の共同生産を新たに始めることで近く合意する見通しで
▽東芝が石川県能美市で建設を進める新工場と、
▽ロームが宮崎県国富町で来年稼働を予定する新工場で、半導体の生産を分担する方式で協業する計画です。

さらに、
▽現在、海外から調達している半導体ウエハーについても、新たに国内生産を始めます。

両社は、この計画について、経済産業省に対し補助を求める申請を行っていましたが、経済産業省は国内の半導体の安定供給を図る一環として、両社の事業費の総額3800億円余りのうち、最大で1200億円余りを補助する方針です。

パワー半導体はEVをはじめ、産業機器などさまざまな製品に使われる半導体で、需要の拡大が続く一方、複数の国内メーカーが乱立し、高いシェアを持つ海外メーカーに対する競争力の弱さが課題となっていました。

両社は「SiCパワー半導体」と呼ばれる耐久性や省エネ性能が高い半導体など、それぞれが得意とする製品に生産や開発への投資を集中し、供給能力の拡大を進めることにしています。

パワー半導体 国のねらいは

車や産業機器の電気制御を行うパワー半導体は、需要の拡大が見込まれ、東芝やロームのほかにも多くの日本企業が開発や生産を手がけ、投資にも力を入れています。

一方で、経済産業省は、日本企業が規模の面では海外メーカーに劣ることから、激化する国際競争に勝ち抜けないとして日本国内での連携や再編を促しています。

イギリスの調査会社のオムディアによりますと、パワー半導体の2022年の世界シェアで、10位以内に日本メーカーは4社入っていて、三菱電機の4位を筆頭に富士電機が5位、東芝が7位、ロームが9位と一定の競争力を持っています。

しかし、各社のシェアはいずれも1ケタで、21%余りのシェアを占める最大手のドイツ「インフィニオンテクノロジーズ」には大きく差をつけられています。

経済産業省では、クルマの電動化や社会のデジタル化に備えて、パワー半導体の競争力を強化し、消費電力の削減などの性能向上やサプライチェーン=供給網の強じん化を図ることが重要だとして、ことし1月には2000億円以上の設備投資に限り、集中的に支援する制度を立ち上げていました。

1社では負担が重い2000億円以上の設備投資を支援の条件とすることで、連携や再編の呼び水としたいというねらいがあり、今回の東芝とロームは、新たな制度を活用した初めての支援となる見通しです。

パワー半導体の需要拡大 成長見込まれる

半導体は
▽高度な演算処理を行う「ロジック半導体」
▽データを記録する「メモリ半導体」など、用途に応じてさまざまな種類があります。

このうち電力の変換や制御などを行う「パワー半導体」は、自動車や鉄道、それに家電などに幅広く使われ、性能を向上させることで消費電力の削減にもつながることから、クルマの電動化や産業機器のデジタル化の進展で需要が拡大しています。

調査会社の「富士経済」によりますと、パワー半導体の世界での市場規模は2022年は2兆6827億円でしたが、2035年には5倍の13兆4302億円まで成長することが見込まれています。

特に、従来のシリコンより省エネ性能が高い「SiC=炭化ケイ素」を素材として使った製品は、次世代のパワー半導体の一つとして注目されています。

従来のパワー半導体よりもコストは高いとされるものの、電気自動車に使うと消費電力を抑えながら航続距離が伸びることなどから、多くの自動車メーカーで導入が見込まれ、2035年のSiCパワー半導体の市場規模は、2022年の31倍にあたる5兆3300億円に増えると推計されています。

しかし、SiCの分野では欧米のメーカーが世界の半分以上のシェアを占め、近年では“EVシフト”が加速する中国のメーカーも投資を拡大させていて、業界関係者の間では日本メーカーの出遅れが指摘されていました。