「同じ空の下にいるのに…」ガザの日常描く映画自主上映広がる

「いつか、大きな漁船を持つことが僕の夢だ」

海のそばで生まれ、船長になることを夢見る14歳の男の子。海辺のカフェには陽気に話しかけてくる店主も。

一見、自分の身のまわりと変わらない、どこにでもいるようなガザ地区の人々の日常が描かれる映画「ガザ 素顔の日常」。

戦闘で多くの命が失われる中、日本各地で自主上映や劇場での上映が相次いでいます。

描かれるのは、何気ない日常

映画では、個性豊かな人たちの日常が描かれています。

14歳の少年、アフマドは、目の前に広がる地中海で漁をして生活する家族の姿に、自分もいつか船長になりたいと夢見ています。

海のそばで生まれた僕は 海と共に生きていく。いつか大きな漁船を持つことが僕の夢だ

ビーチには多くの人が集まり、若者たちはサーフィンを楽しむ。

カフェの店主は、客に陽気に話しかけています。

いらっしゃい いつものラテだよね?さあどうぞ、お得意さん 愛情たっぷりだよ

連日ニュースで伝えられる戦闘や爆撃の様子とは違う、「素顔の日常」です。

撮影は今回の衝突より前

映画が撮影されたのは衝突が始まる前の2019年。

イスラエルによる経済封鎖が行われてきたガザ地区は、フェンスや壁に囲われている状況から「天井のない監獄」とも呼ばれてきました。

ガザ地区

映画の中では、停電で部屋の明かりが消えたり、突然の空爆で人々が逃げまどう場面もあります。

過酷な状況のなかで、家族を案じながら力強く生きる人々の思いが描かれています。

いま、各地で広がる上映

衝突が始まった10月7日以降、全国各地で自主上映会や劇場での上映が行われています。

配給会社への申し込みは、この2か月で自主上映会は129件、劇場も23件あったということです。

島根県雲南市での上映会

映画は草の根で広がっています。

10月下旬、島根県雲南市で上映された場所は、映画館でも劇場でもなく、古民家を改修したスペースでした。

地元の人が個人で開いた緊急の上映会では、地域の人など10人ほどが鑑賞しました。

松江市から訪れた50代女性
「報道では紛争の様子しか取り上げられないので、ガザ地区の人々の日常を知りたくて来ました。映画を見て、自分たちも傍観者ではいられないと思いました」

上映会を主催した森山奈津子さん

主催した森山奈津子さん
「壁に囲まれて制限されたガザ地区でも私たちと同じように暮らす人たちがいます。映画に出てくるような一人一人の夢や生活が争いによって奪われてしまうことを知ってほしいです」

同じ空の下にいるのに

観客の中には、多くの命が奪われ続ける現実に「なにかしたいけど何をしていいかわからない」という“もどかしさ”から現実と向き合おうと訪れる人が少なくありません。

軍事衝突が始まって2か月を前に、今月6日、東京・渋谷区の映画館で観賞した人たちからもそのような声が相次ぎました。

神奈川県 40代男性
「少しでも自分ごとにしたくて見に来ました。現地にも当然のように、自分たちに近い職業の人や学校に通う子どもたちがいると実感しました」

東京都 40代女性
「同じ人間、同じ空の下なのにこんなに違うのかと、現実を目の当たりにしました。自分はどうしたらいいのかと思いますが、どうすることもできないと感じています」

「もっともっと伝えていかないといけない」

映画を配給している会社の代表、関根健次さんに話を聞きました。

映画はもともとは去年、劇場公開されましたが、今回の戦闘を受けて再上映を呼びかけたものでした。

映画が関心を集める一方で、関根さんが恐れているのは“風化”です。

配給会社 ユナイテッドピープル 代表 関根健次さん

配給会社 代表 関根健次さん
「すでに2か月ほどが経過し、人々の関心が薄らいでしまうことを危惧しています。長くなればなるほど、人々の関心が薄らいでしまうんです。一方で問題は深刻化し続けているのでもっともっと伝えていかないといけない、伝えたいと思います」

関根さんは今、この映画の上映の呼びかけに加えて、ガザの日常を映した別のドキュメンタリー映画の新たな配信や、停戦を求める署名や寄付の呼びかけなども進めています。

関根さんに、改めて映画の見どころを聞きました。

配給会社 代表 関根健次さん
「ガザの『紛争』を描く映画は多いですが、この映画の監督たちはあえて普通の人たちをたくさん取材しています。女子大生がいたり、お母さんがいたり、タクシーの運転手がいたり、カフェや理髪店の店主がいたり。この映画を見ると、世界のどこの街角とも変わらない日常を生きる人々がガザにもいると感じてもらえると思います。

爆弾の落ちる先、攻撃を受ける先には人々の夢があり、平和に暮らしたいだけなのに、命を落としている方がたくさんいるんです」

最後に、関根さんがやりとりしていたガザ在住のジャーナリストの話を伺いました。

避難先が攻撃対象となり、心配な状況が続いているということです。

ジャーナリストの最新のSNSを見ると、親戚の幼い子どもが空爆で亡くなったことについて、次のように綴られていました。

(SNSの投稿)
彼が何かこの世界で悪いことをしたというのがあるのなら、おもちゃを何回か壊したくらいなのに、なぜ死ななくてはいけなかったのか