“脱炭素技術”を産油国に売り込みへ 動き出した日本企業

“脱炭素技術”を産油国に売り込みへ 動き出した日本企業
世界で深刻化する気候変動にどう対応すべきか。対策を話し合う国連の会議「COP28」が、中東の産油国・UAE=アラブ首長国連邦で開かれています。石油資源によって豊かさを実現してきた中東の産油国でも脱炭素への機運が急速に高まるなか、日本が持つ脱炭素の技術を売り込もうと、スタートアップ企業も動き出しています。UAEなどで現状を取材しました。
(経済部記者 佐々木悠介)

産油国が「脱炭素」そのわけは

COP28の会場の一角を占めるガラス張りの展示ブース。各国のスタートアップ企業が集まり、自社の革新的な脱炭素の技術を発信する場となっています。
気候変動対策を話し合うCOPの会場に、こうしたスタートアップ企業の大規模な展示ブースが設けられたのは初めてで、COP28で議長国を務めるUAEが設置を決めました。

背景には、石油資源に依存してきた中東の産油国が脱炭素への転換を急いでいることがあります。温室効果ガスの排出削減が待ったなしとなる中で、経済を支えてきたオイルマネーを次世代の経済の柱となる新たな技術へと投資しようとしているのです。
このうち議長国のUAEは中東地域で脱炭素の目標を初めて掲げ、太陽光など再生可能エネルギーへの投資に1630億ドル、日本円で24兆円の投資を予定していて、スタートアップ企業への投資も加速させる方針です。

革新的な手法で次世代の燃料を

中東の国々が新たな技術を探し求めるなか、注目を集めているのが日本のスタートアップ企業です。

東京工業大学発の「つばめBHB」は、次世代の脱炭素燃料として期待されるアンモニアの製造技術が強みです。
アンモニアは燃焼しても二酸化炭素を出さないことから、重油の代わりに船の燃料にしたり、火力発電用の石炭の代わりに活用したりすることが期待されています。

一方、アンモニアの製造は100年以上前に確立された「ハーバー・ボッシュ法」という方法が今も一般的ですが、高温、高圧の環境で合成しなければならず、製造には大がかりな設備が必要となります。

これに対し、このスタートアップ企業は独自の触媒技術を活用して、低温・低圧の条件で製造に成功しました。
小規模な設備でもアンモニアを安全に製造でき、コスト削減にもつながるといいます。

この技術が認められてUAEの国営石油企業と協力することになり、現地での製造開始を目指して調査を進めています。
つばめBHBの中村公治CEOは「UAEの安い再生可能エネルギーとわれわれのアンモニアの製造技術を活用して、エネルギーや肥料分野の脱炭素に貢献できるような道筋をつくっていきたい」と話しています。

ペットボトル リサイクルでCO2排出量半減

脱炭素につながる革新的なリサイクル技術で注目される日本企業もあります。

日本の首相の立ち会いのもと、COPの会場でUAE企業との協業を発表したのは、ペットボトルのリサイクルを手がける川崎市のスタートアップ企業「JEPLAN」です。
石油からできるペットボトルのリサイクルも二酸化炭素の削減では重要です。日本を例にとっても、2022年度に出荷されたペットボトルの本数は241億本、二酸化炭素の排出量は211万トンにのぼっています。
この企業のリサイクル技術を活用すれば、新たにペットボトルを製造する場合と比べて、二酸化炭素の排出量をおよそ半分に抑えることができます。

これまでのリサイクルは回数に限度も

今でも販売されるペットボトルの約86%がリサイクルされていますが、そこから再びペットボトルにリサイクルされる割合は29%程度にとどまるとされています。

リサイクルの過程で多くの不純物が含まれてしまうことがその理由です。
例えば、使用済みペットボトルを自動販売機の横の回収BOXなどで集める際に、ラベルやキャップ、飲み残し、時には瓶のようなガラスなどが混ざっていることがあり、リサイクルの際に品質の低下につながります。
このため、ペットボトルからペットボトルへと何度もリサイクルするのは難しいといいます。

ペットボトルのリサイクル向上へ 新技術が登場

そこで、この企業が開発したのが「ケミカルリサイクル」という新たな技術です。
まず、使用済みのペットボトルを砕いたものをエチレングリコールという物質で溶かし、分子レベルに分解します。

そして、活性炭などを使って不純物を除去することで、新しいペットボトルと同等の品質に再生することができ、何度でも繰り返しリサイクルできるとしています。
JEPLAN 高尾正樹社長
「ケミカルリサイクルの大きなメリットは不純物の除去能力の高さにあります。いったん市場に出て、ゴミとして回収されたペットボトルには細かくて小さい非常に多くの不純物が含まれていますが、僕らの技術を使えば、非常に高純度に除去することができます」
日本ではすでに敷地面積で東京ドーム1個分に相当する4万8000平方メートルの規模のリサイクル工場を建設。
年間2万2000トン、500mlのペットボトルに換算して10億本をリサイクルすることができます。

ペットボトルを細かく砕いたフレークを分子レベルに分解するなど、通常のリサイクルよりも工程が多く、施設の規模も大きくなります。このため、従来のリサイクル品と比べると価格が高く、どうコストを下げながら事業を拡大するかが課題です。

中東で新たな工場の建設検討

そこで今、目指すのがUAEへの進出で、この会社の技術に注目する現地企業と大規模なリサイクル工場の建設に向けて協議を進めています。
UAEは日照量が多く、広大な平地が広がっていることから太陽光の発電コストが安いのが強みです。

太陽光の発電コストは日本のおよそ4分の1にあたる1キロワットアワー当たり3円台で、このスタートアップ企業では工場の稼働にかかる費用の低減を期待しています。

豊富な資金を手に脱炭素の技術を求めるUAEと、技術はあっても資金力に乏しい日本のスタートアップ企業が手を組むことで、ウィンウィンの関係を作ろうとしています。
JEPLAN 高尾正樹社長
「これまでは日本の大企業がUAEを含めて中東で事業展開してきたが、スタートアップでも事業拡大のチャンスが得られることが今回わかったし、それを発信できるCOPの機会はうれしい。UAEで大規模なケミカルリサイクル工場が実現できたらいいなと思う」

日本政府も海外展開を支援

こうしたスタートアップ企業の海外展開を、日本政府も後押ししてきました。

ことし1月には西村経済産業大臣とUAEのジャーベル産業・先端技術相が出席し、UAEの企業との関係作りに向けて新たな政府間の枠組みを設け、UAEとの連携強化に動きました。
すでに協力が始まった分野だけでなく、バイオテクノロジーやヘルスケア、食品、宇宙開発など幅広い領域で、日本のスタートアップ企業とUAEの企業の連携を目指しています。

一方、こうしたねらいを達成するには、スタートアップ企業と政府や関係機関が連携して、対象となる国の課題を解決する技術やビジネスモデルの組み合わせを一緒に提案し、実現していけるかがカギとなりそうです。

気候変動危機 ピンチをチャンスに

大規模な洪水や記録的な猛暑といった気候変動による被害が深刻化する中、脱炭素の取り組みをいかに加速させていくかが世界共通の課題となっています。

一方、革新的な技術を持つ日本企業にとっては、見方を変えれば、世界の脱炭素の進展に貢献しつつ、ビジネスをグローバルに展開するチャンスともいえます。

日本の脱炭素を着実に進めながら、そこで生まれた技術を世界へと広げる。これを実現できるかが日本の脱炭素と経済成長の両立を図れるかの試金石となりそうです。
(12月12日「おはBiz」で放送予定)
経済部記者
佐々木悠介
2014年入局
静岡局を経て現所属
経済産業省を担当