大麻“使用”禁止盛り込む 改正大麻取締法 参院で可決・成立

大麻草を原料にした医薬品の使用を認める一方、若者などの乱用を防ぐため、「使用」の禁止を盛り込んだ改正大麻取締法などが、6日の参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。

医薬品の使用など認める

大麻草を原料にした医薬品は欧米各国で難治性のてんかんの治療目的などで使用されていますが、国内では大麻取締法で使用が禁じられていて、患者などから解禁を求める声が出ていました。

改正法では
▽大麻草を原料にした医薬品の使用を認めるほか
▽大麻草の栽培を医薬品などの原料を採取する目的でも認めるとしています。

乱用防ぐため「使用」禁止 盛り込む

一方、若者などの乱用を防ぐため「麻薬及び向精神薬取締法」で取り締まる「麻薬」に位置づけ、すでに禁止されている「所持」や「譲渡」などに加え、「使用」の禁止を盛り込んでいます。

改正大麻取締法などは6日の参議院本会議で採決が行われた結果、自民・公明両党と立憲民主党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決・成立しました。

大麻取締法 使用に対する罰則について

大麻取締法は、戦後、GHQの指示により1948年に制定されました。

大麻取締法では、大麻を輸入や栽培をしたり、所持や譲渡をしたりした場合は懲役刑が定められていますが、使用については罰則がありません。

これは、大麻草の栽培農家が刈り取り作業を行う際、大気中に大麻の成分が飛散し、それを吸い込み「麻酔い」という症状が出て、処罰されかねないことが考慮されたためと言われています。

しかし、改正の議論を受け、厚生労働省が栽培農家に対し、作業後の尿検査を行ったところ、麻薬成分は検出されず、「麻酔い」は確認されなかったということです。

さらに、2018年には国際連合の機関の1つ、国際麻薬統制委員会が、大麻の健康に対する悪影響として、▽意識障害や▽認知障害、▽自動車運転中の運動能力や判断力の低下のほか、特に若い世代については、▽心筋梗塞や▽脳卒中、▽依存性が高いとする報告書を公開しています。

こうしたことなどから、厚生労働省で大麻の規制について議論してきた専門家の委員会は、大麻に依存を生じさせるリスクがあることも踏まえ、乱用を防ぐためには使用に対する罰則を明確にする必要があると結論づけました。

法改正のきっかけ 医薬品解禁求める声 検挙数の増加

法改正のきっかけとなったのは、大麻草を原料にした医薬品の解禁を求める声と、大麻で検挙される人の増加です。

警察庁によりますと、去年1年間に大麻の所持や栽培などで全国の警察に検挙されたのは5342人で、過去最多だったおととしの5482人に次いで過去2番目に多くなりました。

年代別にみると、
▽10代が912人
▽20代が2853人と
20代以下の若年層が全体の70%余りを占めています。

また、警察庁が3年前の2か月間に、大麻を所持したとして検挙された748人を対象に、現在の法律に大麻の使用罪がないことを知っていたか尋ねたところ、82%余りが「知っていた」と回答しました。

さらに、使用罪の規定がないことと大麻を使用したこととの関係について尋ねたところ、
▽「禁止されているか否かにかかわらず使用した」と答えたのは67.8%だった一方、
▽「大麻の使用に対するハードルが下がった」は19.7%、
▽「大麻を使用する理由となった」は7.5%で、
使用罪の規定がないことが一定の要因となっていることがうかがえる結果になりました。

松野官房長官 “若年者の乱用 歯止めを期待”

松野官房長官は午後の記者会見で「近年、若年者による大麻の乱用が増加傾向にあることから、今回の改正が乱用の歯止めになることを期待している。また大麻のみならず薬物全体について、まずは『手を出さない、出させない』という一次予防の取り組みが大変重要で、若者に対する啓発の取り組みを強化していく」と述べました。

大麻を原料にした医薬品の承認を心待ちにする患者家族も

今回の改正では、これまで禁止されていた大麻を原料にした医薬品の使用が認められることになり、薬の承認を心待ちにしている親子からは期待の声があがっています。

東京 大田区に住む長友微笑さん(43)の、次女、穂乃さん(8)は、難治性てんかんの一種「ドラベ症候群」の患者です。

診断されたのは1歳半のころで、今もてんかんの発作でけいれんが1分から2分ほど続くことがあり、発作が長引いたり繰り返したりすると脳の神経が傷つき命の危険もあるため、常に見守りが必要です。

いまは既存の抗てんかん薬の服薬を続けていますが、「ドラベ症候群」は成長とともに発作の頻度や種類が変わってくるため、効果がある薬を見つけるのが難しいといいます。

一方で、海外で使われている大麻を原料にした治療薬は「ドラベ症候群」に効果があると言われていて、今回の法改正後、薬が承認されれば国内で使用できることになるので、治療薬の選択肢が増えると期待を寄せています。

長友さんは、「いったん薬の効果が出たとしても、しばらくすると合わなくなり、これで発作がよくなったというところには、いきつかないのが現状です。ドラベ症候群の子たちにとっては、よりよく生きていくための薬になると思うので、法律の改正で一日でも早く承認していただいて、選択肢のひとつとして使わせていただければ大変ありがたい」と話していました。

専門家「薬物全体に対する注意が必要」

薬物の有害性に詳しい湘南医療大学の舩田正彦教授は、大麻について「10代から使用すると薬物依存になるリスクが最大で7倍程度あがり、長期間使用すれば記憶や認知にも影響が出ることが分かっていて、若い方には使用させない対策が求められてきた」と話しています。

そのうえで、使用に対する罰則が適用されたことについては、「大麻の乱用を食い止めるのはもちろんだが、いま問題になっているような危険ドラッグのようなものが今後さらに出てくる可能性もあり、薬物全体に対する注意が必要だ」と指摘しました。

さらに「使用するきっかけとして、仲間内で誘われるケースもあれば、ストレスや生きにくさから使用してしまうケースもあるので、薬物に関する悩みを専門の機関に早く相談できる体制を構築することが、若い方の乱用を防ぐ重要なポイントになる」と話していました。

一方、大麻草から製造された医薬品の使用が認められたことについては、「大麻に含まれている『CBD』という成分は、医薬品として海外で利用されてきた。日本でも薬として使用が可能になるが、大麻由来なので、薬を日常生活の中で使用していくということを考えるとハードルが高くなってしまう。患者の立場に立って使いやすい利用方法を考えていく必要がある」と指摘しました。