“クリケットのまち・佐野” 五輪採用を追い風に

“クリケットのまち・佐野” 五輪採用を追い風に
来年開かれるパリ五輪の次の大会、2028年のロサンゼルス五輪で、クリケットが実施されることになりました。
クリケットは、世界の競技人口がサッカーに次ぐ3億人以上とも言われていますが、日本ではあまりなじみがないスポーツです。
そのクリケットが盛んで、小学校の授業でも行われているというまちが、栃木県にあります。
(宇都宮放送局記者 齋藤貴浩)

世界ではメジャーなスポーツ

クリケットは、イギリス発祥の野球に似たスポーツです。

円形のグラウンドで、投手が投げたボールを打者がバットで打ち返し、打球が処理される間に決められた場所を繰り返し走ることで、得点が入ります。
ヨーロッパやインド、オーストラリアなどで盛んに行われていて、プロリーグのトップ選手の中には、年間30億円以上を稼ぐ選手もいるほどです。

国際オリンピック委員会(IOC)はことし10月、「クリケットのファンは世界中に25億人いる」として、2028年の五輪で128年ぶりに採用することを決めました。
日本ではあまりなじみがなく、競技人口は4000人ほどにとどまっていますが、最近ではプロ野球の広島などで活躍した木村昇吾選手が、引退後にクリケットに転向し、日本代表に選ばれる例なども出ています。

地方都市が“クリケットのまち”に

そのクリケットの普及に取り組んできたまちが、栃木県佐野市です。

ことし10月に開かれたイベントでは、イギリスやインドなど9か国のチームが対戦。
競技場の隣には初心者向けの体験ブースも設けられました。

参加した子どもたちは、野球とは違う形のバットを振ったり、打球を素手でキャッチしたりしながら、クリケットの魅力を体感しました。
体験した中学生
「結構簡単で、でも難しいところもあって、またやりたいなと思いました」
「はじめてやりましたが、とても楽しかったです」
佐野市とクリケットの関わりは、10年以上前から続いてきました。

当時、競技の普及に本格的に乗り出していた日本クリケット協会と、活動に理解を示した佐野市が連携。

協会は、本部事務所を東京から市内に移転しました。

また県立高校の跡地に、日本で初めて、国際試合が行える全面天然芝の競技場を整備し、毎月のようにイベントを開催しました。
次第に中学生や高校生のチームが作られるようになり、子どもから大人まで参加できる市民大会も定期的に開かれています。

日本代表の選手たちも佐野市に移住するようになり、人口およそ12万人の地方都市が日本のクリケットの中心地になっていったのです。

3万人の児童が授業で体験

こうした普及活動の根幹となっているのが、小学校の授業です。

佐野市の多くの小学校は、体育や総合学習、それに英語の時間に、クリケットを取り入れています。
この日は日本代表の選手たちが訪れ、4年生の児童に、ボールの投げ方やバットの振り方などを教えました。

子どもたちは大喜びで、初めて習う“まちのスポーツ”を楽しんでいました。
参加した児童
「ボールを素手でキャッチするのが難しかったです。最近転校してきましたが、前の学校ではクリケットをしたことがなかったので、珍しいと思いました」
「実際に打てたり、ボールを捕れたりしたときは、うれしかったです。クリケットは、佐野の誇りだと思っています」
クリケットの経験がない先生でも指導できるように、教員用のガイドブックも作られました。

投げる、打つ、走るなどの基本動作や、45分間で行える授業の見本も掲載されています。
こうした取り組みによって、クリケットに触れたことがある佐野市の児童は、この10年あまりで3万人以上にのぼっているということです。
担任の教諭
「クリケットは日本ではなじみがないスポーツですが、授業で経験できるのは良い機会です。子どもたちが、体を動かすためのきっかけになればいいと思っています」

五輪採用を追い風に人を呼び込め

2028年のロサンゼルス五輪で採用されたことをチャンスと捉え、“クリケットのまち”に多くの人を呼び込もうとする取り組みも動き始めています。

そのひとつが、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた「ワーケーション」の誘致です。
全国で働く人たちに佐野市を訪れてもらい、市内のワーキングスペースで仕事をしながら、空いている時間に、珍しいクリケットを楽しんでもらおうという取り組みです。
経営コンサルタントやワーキングスペースの運営会社などとともに、具体的なプランの打ち合わせが進められています。
経営コンサルタント
「クリケットがロサンゼルス五輪で盛り上がることを、もっと佐野市に結びつけられる案はないかなと、市内を訪れた人に、おもしろい体験を提供できないかなと考えています」
日本クリケット協会 宮地直樹事務局長
「市内でレベルの高い大会が多く行われる時期があるので、それにあわせて、例えばクリケット場でグランピングをしながら、大型連休を楽しむとかできないですかね」
佐野市の「ワーケーション」には、すでに東京の企業から事前の申し込みが入っているということです。

今後は行政とも協力しながら、佐野ラーメンや熱気球の体験など、市内の名物とクリケットを組み合わせた周遊プランなども準備することにしています。
佐野市役所スポーツ推進課 長谷川凌主事
「選手や観客など、クリケットで佐野市を訪れる人に、市内のグルメや観光名所などを巡ってもらい、『また来たい』と思わせるような仕掛けができないか検討しています」

クリケットの花を咲かせたい

国内では佐野市のほかにも、大阪の貝塚市などで専用の競技場が整備され、行政と一体になって、クリケットを通じたまちづくりに取り組もうとする動きが出始めています。
日本ではまだ「マイナースポーツ」と呼ばれるクリケットですが、128年ぶりとなった五輪採用を追い風に、競技の普及と地域おこしの取り組みが、佐野市を中心に広がろうとしています。
日本クリケット協会 宮地直樹事務局長
「五輪に採用されたことは、クリケットというスポーツを、多くの人に知ってもらえるチャンスだと感じています。ロサンゼルス五輪が開かれる前年の2027年には、競技人口や応援してくれる企業などを今よりも増やして、クリケットの花の開花のときを迎えたいと考え、5か年戦略を立ててきました。選手だけでなく、ファンや、応援してくれる企業の輪をさらに広げることを目指したいです」
(11月20日「とちぎ630」で放送)
宇都宮放送局記者
齋藤貴浩
2021年入局
県警・司法担当を経て佐野市を含む両毛地域を担当
自宅から車で10分のところにクリケット場がありすでに通って体験しています