社会

子どもの国際学力調査 日本は順位上昇 世界トップレベルに

世界各国の15歳の子どもの学力を測る国際学力調査の結果がまとまり、日本は課題とされていた「読解力」が大幅に改善し、すべての分野で平均得点や順位が上昇して世界トップレベルとなりました。文部科学省は、コロナ禍での休校期間が他国に比べて短かったことや、学校現場の取り組みなどが影響したとみています。

目次

国際学力調査「PISA」世界で約69万人が参加

「PISA」と呼ばれるこの国際学力調査は、OECD=経済協力開発機構が行っているもので、世界の15歳の子どもを対象に数学や科学の活用能力、それに読解力の3つの分野の学力について3年に1度調査しています。

今回は新型コロナの影響で予定より1年延期され、去年、4年ぶりに実施されました。

世界81の国と地域からおよそ69万人が参加し、このうち日本からは183校およそ6000人の高校1年生が参加しました。

日本は3分野すべてで順位上昇 世界トップレベルに

その結果、前回の2018年と比べ3分野すべてで平均得点が上昇し、81の国と地域における順位は、課題とされてきた「読解力」が前回の15位から3位に上昇し、「数学的リテラシー」は6位から5位に、「科学的リテラシー」は5位から2位となり、いずれも世界トップレベルとなりました。

1位は3分野いずれもシンガポールでした。

一方、OECDに加盟し調査に参加した37か国の平均得点は、前回と比べ数学の分野でこれまでで最も大きい下げ幅となるなど、3つの分野すべてで低下しました。

文部科学省は今回の結果について、コロナ禍で休校した期間が他国に比べて短かったことや、学校現場で授業における取り組みが進んだこと、それにICT環境の整備が進み、パソコンで受けるPISAの試験に慣れたことなどが影響したとみています。

「教員の献身的な取り組みで学習機会確保 結果につながった」

文部科学省の寺島史朗学力調査室長は「感染予防の工夫を講じながら早期に学校が再開され、教員の献身的な取り組みにより学習機会が確保されたことが、3分野すべてで世界トップレベルという結果につながったのではないか。教育の質の向上を持続可能な形で図るには、教員の献身さに頼るだけでなく働き方改革や処遇の改善を進める必要がある」と話しています

コロナ禍が学習環境などに与えた影響 OECDが分析

感染拡大後としては初めて実施された今回の国際学力調査。

OECDは、コロナ禍が各国の子どもの学習環境や学力に、どう影響したかについても分析しました。

「3か月以上休校」したと答えた子どもは?

「新型コロナのため3か月以上休校した」と回答した生徒の割合は、OECDに加盟し調査に参加した37か国の平均は50.3%だった一方、日本は大幅に少ない15.5%でした。

「3か月以上休校した」という回答が少ない国や地域では、今回の調査で中心的分野となった数学の平均得点が高い傾向にあったということです。

3つの要素で比べると…日本は“レジリエントな”国

コロナ禍での各国や地域の対処の状況を調べようと、「学校ではすぐに友達ができる」といった学校への所属感や、教育の社会経済的な公平性などを表す指標、それに数学の成績の、3つの要素を感染拡大前の前回と比較しました。

その結果、3つの要素がすべて安定または向上していたのは、日本のほか韓国や台湾、それにリトアニアだけだったということです。

これらについてOECDは「新型コロナ流行の混乱を乗り切り、不利な状況下でも学習が継続できるようよりよく準備された“レジリエントな”国や地域」と評価しています。

“みずから学ぶ自信” 日本は最下位?

一方、学校が再び休校になった場合に学校の勉強にやる気を出すとか自分で勉強の予定を立てるといった8項目で、自律的に学習する自信を尋ねたところ、「自信がない」と回答した割合が日本はほとんどで過半数を超えました。

8項目の回答から算出された指標は、OECD加盟国でこの指標が算出できた34か国で最下位でした。

文部科学省は「全体としてはよく対処できたと思うが、変化の激しい社会において子どもたちがふだんから自律的に学ぶことができるようになるのは重要で、環境を整える取り組みを進めたい」としています。

PISAの数学 どんな問題?

国際学力調査では、毎回3分野のうち1つを中心的な分野として重点的に分析していて、今回は「数学」が対象でした。

レベル1から6までの難易度がある問題を具体的に見ていきます。

レベル3の問題「空欄の惑星は何?」

例えば「レベル3」の問題では、太陽から各惑星までの平均距離が表で示されたうえで、それを参考に、惑星間の距離のみが記された3つの惑星が何か答える内容となっています。

太陽からの距離の差が惑星間の距離だと読み取る問題で、日本の生徒の正答率は67.5%で、OECDに加盟し調査に参加した37か国で2位でした。

レベル6の問題「森林面積の変化は?」

難易度が最も高い「レベル6」の問題では、各国の国土面積に対する森林面積の割合の推移が示され、2005年から2010年と、2010年から2015年の2つの期間の変化の差が大きな国はどこか、表計算ソフトを使って答えるよう求められました。

複数のデータを目的に応じて処理し、結果を解釈する力が問われ、日本の正答率は33.5%でしたが1位でした。

日本の課題だった「読解力」とは

文章や図表から必要な情報を探し出し、評価などを行う「読解力」。

第1回の調査から世界トップクラスを維持してきた「数学」と「科学」に比べ、低い順位が続き課題とされてきました。

日本の「読解力」の順位は、1回目の2000年が8位、2003年は14位に下がり、「ゆとり教育」による学力低下だとして「PISAショック」と言われた一因になりました。

その後、改善が見られたものの前回2018年は15位と再び低下していました。

今回の2022年は3位と改善に転じ、平均得点は516点で2015年と同じ水準まで上昇しました。

今回出された読解力の問題では、ある商品について、販売元の企業とオンライン雑誌という異なる立場から発信された文章が課題文として示されました。

そこから必要な情報を探し出して答える問題や、信憑性を評価したうえで自分ならどう対処するか根拠を示して説明する記述問題などが出されました。

「読解力」向上の取り組み 国語以外の教科でも

これまで課題とされてきた「読解力」を向上させようと、国語以外の教科でも音読などを取り入れて理解し、表現する力を意識した授業も広がっています。

東京 板橋区の板橋第一中学校では読解力の向上につなげようと、国語以外の教科でも教科書などの内容を音読したり、文章にまとめる機会を積極的に設けています。

この日は1年生が地理の授業でEU=ヨーロッパ連合の成り立ちを学び、生徒たちが教科書のポイントになる部分を音読したあと、教員が「統合」や「離脱」といったつまずきやすいことばの意味を生徒に尋ねながら一つ一つ丁寧に説明していました。

また「国民総所得」などの用語は教科書の巻末の用語解説で確認し、わからないことばを自分で調べる手順を学んでいました。

そして、各国にとってのEUに加盟するメリットを自分のことばでまとめてプリントに書き込み、生徒どうしで教科書のどの部分を参考にすればいいのか教えあっていました。

女子生徒の1人は「教科書には難しいことばもありますが、意味を調べると理解が深まり、わかるようになります」と話していた。

ほか、別の女子生徒は「自分がわかりやすいようまとめる際に読み返すので、理解が深まると思います」と話していました。

「回数を重ねるうちに語彙が増えるなど変化感じる」

宮城健太郎教諭は「最初のころは大人からすると『こんなことばが』と思うようなことばがわからないこともあったが、回数を重ねるうちに語彙が増えるなど変化を感じます。文章やグラフの意味の読み取り方を学び自分のことばで説明できるところまで到達してほしいです」と話していました。

コロナ禍の学力への影響を懸念 取り組み始めた現場も

今回の調査では、他国に比べ感染拡大の混乱を乗り切った国の一つとされましたが、コロナ禍による今後の学力への影響を懸念して取り組み始めた現場もあります。

茨城県笠間市では、新型コロナで休校やオンライン授業となったことで、基礎学力の定着が懸念されるなどとして、ことし6月からモデル校に指定した小学校で放課後に算数を教える教室を週2回開いています。

連携するNPO法人によりますと、コロナ禍で登校できなかった時期に進んだ単元など、基本的な内容が部分的にわからない子どもがいるといい、思考力を高めながら基礎学力をつけようとしています。

この日は小学4年から6年の30人が参加し、まずプリントで前回までの学習が理解できているか確認したうえで、児童たちが互いに話し合いながら「折り紙で星の形を作るには何回折ればいいか」といった問題の答えを求めていました。

表現力も高めようと、正解がわかったらほかの児童に解き方を教えるまでを課題にしていて、6年生が4年生に角度の求め方を教えながら一緒に考える姿も見られました。

「本当に身についたか疑問も 基礎学力の定着が重要」

NPO法人「E-nnovation」の佐々木康喬理事長は「コロナ禍の学校に来なかった単元の部分がごっそり抜けてしまっている子もいて、わからなければ、かけ算割り算に戻ってやる形をとっています。学校はオンライン授業などでいろいろ対応していたが、同級生どうしで話し合う機会が少なくなるなど本当に学力として身についたか疑問もあります。基礎がないと中学校でわからなくなってしまうので、基礎学力を定着させることが重要だと考えています」と話していました。

「各科目で読解を解像度高く考えようという動きが改善の要因」

読解力について研究し、東京大学への合格を目指す人工知能の開発にも携わった国立情報学研究所の新井紀子教授は「テクノロジーが大きく変化し先が見通せない時代に、学び続ける力を問うPISAのメッセージが現場に浸透し始めている。資料を読み解きながら本文を解釈する力を得る授業が実践されるようになり、各科目で読解ということを解像度高く考えようという動きがあったことが、読解力も含めて全体が改善した大きな要因ではないか」と分析しています。

文部科学省が進めてきた教育政策については「これが思考力・判断力・表現力なんだという明確なメッセージが定着し始めた4年間だった。日本が今やっている方向性は正しいということが、科学的に調査結果として出てきたので、いま重要になっている教員の働き方改革に逆行せずにこの方向性で深めていこうと一致団結して進んでいけるとよい」と指摘しています。

生成AIの登場などIT技術が変化する社会においては「AIが代替できる面も多く、人間は新しい技術をどんどん勉強するというより、学校では新しい技術を身につける基盤となるリテラシーを各科目でしっかり習得することが、これから求められる学力観や人間像として重要だ」と話していました。

「教員の増員など環境改善や着実な授業改善の取り組みが大切」

学力問題に詳しい早稲田大学教職大学院の田中博之教授は「PISAの問題は資料を組み合わせて考え、自分の考えを記述するという、かなり複雑な応用問題で日本の子どもたちは苦手だった。今回の結果は、学校の教員がコロナ禍でもしっかりと授業改善を進め、新しい教材なども積極的に活用しながら、子どもたちの思考力や表現力が伸びるようしっかり取り組んだことで大きな成果につながったと思う」と評価しました。

そのうえで「他国との競争だけが教育の目的ではないが、コロナ禍が明けて各国で取り組みが進められる中、日本で今後も同じような教育を続けて学力や順位が維持できるかは疑問だ。いま学校の教員は働き方改革が求められ、疲弊している状況にあり、限られた時間数の中で負担を増やさずに、さらに学力向上を図るのは難しい問題だが、教員の数を増やすなどの学校現場の環境改善や、1人1台端末の有効活用など着実な授業改善の取り組みが大切だ」と話しています。

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