関西のスーパー“競争激化” 関東や東海地方から次々と出店

関西のスーパー“競争激化” 関東や東海地方から次々と出店
私たちの暮らしに欠かせないスーパーマーケット。地方を中心に、閉店や倒産が相次いでいます。

一方で、私の暮らす関西ではこのところ、関東や東海に地盤があるスーパーの進出が相次いでいます。

各社がしのぎを削る関西で、勝負を挑むスーパーと対じする地場のスーパー。その動向を取材しました。(大阪放送局 記者 寺田麻美)

関西での売り上げ 倍増を目指す

ことし10月半ば、大阪・堺市に店舗をオープンさせたのは、東海地方を地盤とする「バローホールディングス」です。
岐阜県が本社で、スーパーマーケット事業だけではなく、ドラッグストアやホームセンターなど、幅広く事業を行い、東海地方を中心におよそ1300店舗を展開しています。
大阪には2016年から進出していますが、まだそれほど店舗はありません。正直なところ、大阪で生まれ育った私にとって、あまりなじみのないスーパーです。

関西の消費者に受け入れられるのかを探ろうと、オープン当日、取材に向かいました。

まず目を引いたのが、生鮮売り場です。
カニやサバ、タイなどの魚介類が、まるごと並べられていて、まるで大きな魚屋のようです。お客さんに話を聞くと、「まるごと魚があるのはこのへんでは珍しい」「魚をさばいてもらえるのがいい」という声も。

新規の出店にあたっては、海鮮だけでなく、精肉も含めた生鮮売り場を強化しているということです。
もう一つの特徴は、「エブリデー・ロープライス」。
特売期間などを設けるのではなく、日常的に低価格で販売するという戦略です。この日も、500ミリリットルのお茶が税込みで42円、カップめんが117円で売られていました。
自社ブランドを強化して、企画開発から、製造、物流までワンストップで行っているほか、グループ会社のドラッグストアやホームセンターと仕入れを共通化することで、割安価格を実現させていると言います。

この会社では、滋賀県を除く関西での売り上げを、2027年度までに現在のおよそ250億円から500億円に倍増させる目標を掲げ、出店を強化する方針を打ち出しています。

この一環として、来年10月には大阪・枚方市に物流施設を新たに整備。さらに神戸市を中心に展開していた、創業50年を超える「トーホーストア」のスーパー事業を譲り受けるなど、拡大に向けて、次々と手を打っています。
バローホールディングス 小池孝幸社長
「関西は人も多いし、いろいろな新しいものに興味を持っていただけるので魅力がある。今後の人口などを考えると、関西のような人口の多いところで挑戦をしておいたほうがいい。競争相手は厳しいが、ぬるま湯につかっていたほうが危険だ。早めに課題をあぶり出し、もっともっとレベルを上げていく」

関西への出店 再挑戦も

関西エリアではこのほかにも、低価格を強みにしたスーパーの進出が相次いでいます。
神奈川県に本社を置く「ロピア」は、2020年に関西エリアに初進出。現在、兵庫や大阪などに16店舗を展開しています。

さらに来年には、同じく神奈川県に本社がある「オーケー」が、関西1号店となる店舗を東大阪市にオープンさせる予定です。

会社は2年前、阪急阪神百貨店などを運営する「エイチ・ツー・オー リテイリング」との間で、兵庫県伊丹市に本社がある「関西スーパーマーケット」をめぐり激しい争奪戦を繰り広げました。

しかし最終的には買収を断念。今回、自前での関西出店に挑む形です。

今回の取材で関係者に話を聞く中でも、東京や神奈川などで140店舗以上を展開するオーケーの進出が、関西のスーパー業界にどの程度のインパクトを与えるのか、警戒する声が多く聞かれました。

低価格のスーパーの進出や拡大が続く関西エリア。まさに「スーパー戦国時代」と言える様相となっています。

在阪スーパーどうする?

こうした中、在阪のスーパーはどのような戦略を立てているのでしょうか。

取材したのは、大阪発祥のスーパー大手、「ライフコーポレーション」の大阪・港区の店舗です。
おととし4月、この店舗からおよそ300メートルの距離に、「ロピア」の店舗が進出してきました。

その結果、4月から5月にかけての売り上げは、前の年の同じ時期に比べ大きく低下。2021年度全体では、前の年度からおよそ15%減少しました。
この流れを食い止めようと、会社では、数億円の資金をかけて、この店舗全体の改装を実施しました。さらに、地域の変化するニーズに対応して、商品のラインナップも見直しました。
店舗がある「弁天町」は、昔からの住民が多く、1人暮らしのお年寄りも多い一方、タワーマンションの建設ラッシュで子育て世帯も増えているエリアです。

このため主力の食品売り場では、単身世帯向けに、総菜は食べきりサイズのものを増やしました。
またファミリー層向けには、素材へのこだわりや健康志向を打ち出した自社ブランドの売り場を拡大しました。

さらに、ライバル店にはない衣料品については、品ぞろえを増やしたり、ディスプレーを工夫したりするなど強化しました。
こうした対策を重ねた結果、売り上げは徐々に回復。

ことし2月からことし9月までの売り上げは、ライバル店が進出する前の年(2020年)の同じ時期と比べて、5%の減少となるところまで戻ってきているということです。
ライフコーポレーション広報部 中村陽菜 担当課長代理
「一時期は売り上げがガクッと落ちてしまったことで、競合店にない当社の強みをもっと磨いていこうとリニューアルした。企業の成長に競争は不可欠なので、その中で価格だけの競争ではなく、『同質化競争』を脱却し、品ぞろえの充実を図って、関西で勝ち残っていきたい」
一方、阪急阪神百貨店などを運営する「エイチ・ツー・オー リテイリング」は今後、食品スーパー事業で、これまでなかった価格訴求型の業態を開発していく方針を明らかにするなど、スーパー各社は新たな戦略を打ち出して、競争に打ち勝とうとしています。

専門家「都市部での競争 今後さらに激しく」

他のエリアからの進出や拡大が相次ぐ関西。流通アナリストの中井彰人さんは、関西など都市部での各社の競争は今後さらに激しくなると見ています。
流通アナリスト 中井彰人さん
「今後5年後、10年後に人口が減少することを考えると、これまでのように郊外にどんどん店を広げていくのは難しいことを、みんなわかってきている。地方を拠点にするスーパーにとっては、しばらくは今のままでビジネスとして成り立つものの、人口が多い地域に勝負をかけていかないと、厳しくなるのは時間の問題となっている。大阪や東京といった人口密集地、特に公共交通が買い物の移動手段というのが主流になっているような首都圏と京阪神というエリアは、マーケットの重要性が高まっていて、各社が狙っていっている。一方、消費者の側からすると選択肢が増えるということなので、期待できる環境になる可能性はある」
価格や品質に厳しいと言われる関西の消費者の心をどう捉えていくのか。

限られたパイを奪い合う状況が続く中、各社の戦略と取り組みに引き続き注目していきたいと思います。

(10月20日「ほっと関西」で放送)
大阪放送局記者
寺田麻美
2009年入局
高知局、経済部を経て、4月から現職
小売りなどを担当