ウクライナ軍 反転攻勢から半年もこう着状態か 悪天候も

ウクライナ軍が反転攻勢を始めて半年となりますが、全体としては、こう着した状況が続いていると見られるうえに、このところ、雪や雨が降る悪天候に見舞われ、戦闘のペースが落ちているという見方が出ています。

ウクライナ軍は、ことし6月に東部や南部に大規模な部隊を展開し、反転攻勢を始めましたが、ロシア軍は防御陣地を固めて応戦を続けています。さらに、ロシア軍はことしの秋以降、東部のドネツク州やルハンシク州で攻勢を強めています。

このうちドネツク州のウクライナ軍の拠点、アウディーイウカについてウクライナ軍は3日、ロシア側が航空戦力の支援を受けながら、街を包囲しようという試みを続け激しい戦闘が起きていると発表しました。

各地で一進一退の攻防となり、全体としてはこう着した状況が続いていると見られるなか、ウクライナでは、先月の終わりごろから各地で雪や雨が降り、強風が吹くなど悪天候に見舞われています。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、天候の影響で地面がぬかるんで進軍が難しくなるなどして、戦闘のペースが落ちているという見方を示しました。

また、ウクライナ軍のざんごうに大量のネズミが発生しているとの情報もあるとしていて、本格的な冬を迎える中、厳しい寒さと劣悪な環境のもとでの戦闘が続いています。

ウクライナは東部で防衛強化 南部で攻撃継続

ウクライナ軍は、ロシア軍の攻撃が激しさを増す、東部ドネツク州のアウディーイウカなどで防衛を強化するとともに、南部ザポリージャ州やヘルソン州、それにクリミアを中心に攻撃を続けています。

アウディーイウカは、ウクライナ軍が補給などの拠点としていて、ドネツク州全域の掌握を目指すロシア軍も戦略的に重視しています。

ロシア軍は、ことし10月から戦車を含む大規模な兵力を投入して複数の方面から攻撃を仕掛け、街を包囲しようとしています。

犠牲もいとわず多くの兵士を投入するなどして、一部で前進したと伝えられていますが、ウクライナ軍による抗戦で損失も甚大だと指摘されています。

ゼレンスキー大統領は、先月14日の動画メッセージで、アウディーイウカの戦況について「ロシア軍による猛攻撃が続いている」と述べ、ロシア側はプーチン大統領が来年3月に予定されている、大統領選挙への立候補を表明するとみられている今月前半までに、戦果を得たいと考えていると指摘しました。

そして、ゼレンスキー大統領は「アウディーイウカ近郊でロシア軍が破壊されればされるほど、この戦争の全体的な状況は敵にとって悪くなる」と述べ、アウディーイウカで勝利することが全体の戦況を好転させるとして、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。

また、ゼレンスキー大統領は先月30日の動画の演説では防衛線を強化するため、アウディーイウカや東部ハルキウ州のクピヤンシクの前線などで要塞の建設を進める考えを明らかにしました。

一方、ウクライナ軍は、ザポリージャ州で攻撃を続けているほかヘルソン州では、ロシア側が占領するドニプロ川の東岸に、複数の拠点を築き、さらにクリミアにあるロシア軍の拠点も攻撃するなど、南部で反転攻勢を続けています。

ウクライナ軍の報道担当「兵士たちは士気で疲れを克服」

アウディーイウカの前線でロシア軍と激戦を繰り広げているウクライナ軍の第110独立機械化旅団で報道担当を務めるアントン・コツコン氏が先月28日NHKのインタビューに応じました。

アウディーイウカの戦況についてコツコン氏は「ロシアの攻撃は、歩兵部隊だけでなく戦車やロケット砲、航空隊など多くの部隊が関わっていて、毎日ノンストップで機能している」と述べました。

そのうえでロシア側は、数万人にのぼる兵士を集中的に投入するなど、これまで以上に戦力を強化していると明らかにしました。

また、インフラ施設や住宅などにも攻撃が相次いでいるということで「産業の中心となっていたコークス工場は空爆され、非常に深刻な破壊を受けた。彼らはアウディーイウカを破壊し尽くしている」と述べました。

ロシア側がアウディーイウカにこだわる理由としてコツコン氏は、この街がウクライナ軍にとって補給などの拠点になっているからだとしたうえで「ロシア軍はアウディーイウカをウクライナの領土から切り離しわれわれをドネツクから撤退させたいのだろう」と指摘しました。

一方、コツコン氏は「戦争が2年近く続く中で、特に歩兵は疲労を感じている。寒さや雨、雪の中、極限状態だ」と述べ、冬を迎えて前線の部隊が一層厳しい状況に置かれているとしています。

ただ「兵士たちは前線で戦う意味を理解し、士気で疲れを克服している。この戦いは相手を全員殺したときに終わる」と述べ、徹底抗戦を続ける姿勢を強調しました。

アウディーイウカ市長「弾薬の供給が減っている」

アウディーイウカでロシア側と戦うウクライナ軍と連携しているビタリー・バラバシュ市長は、先月28日NHKのインタビューに応じ、戦況や街の今の様子を明らかにしました。

この中でバラバシュ市長は、去年2月にロシアによる軍事侵攻が始まって以降この2か月間はもっとも激しい戦闘が続いているとしたうえで「正確な数字では言えないが、ロシア側の弾薬のほうが間違いなく何倍も多い。私たちの弾薬は不足していて確実に供給が減っている」と述べ、中東情勢の緊迫を受けてアメリカなどからの弾薬の供与にも影響が出ているという見方を示しました。

バラバシュ市長は「弾薬が不足しているので、われわれの兵士は狙撃手のように一人一人を狙うような細かい作業をしている」と述べたうえで「もしロシア人をここで止めることができなければ、彼らは暴走していくだろう。だからこそ、全世界がわれわれを助けなければならない。これは文明的な世界全体に対する戦争でもあるのだ」と述べ、欧米各国に軍事支援の継続と強化を求めました。

一方、バラバシュ市長は、街の現状について、行政施設や住宅などはほとんど破壊されたとしたうえで、侵攻が始まる前には3万3000人いた住民が、今ではその4%にあたるおよそ1300人しか残っていないと明らかにしました。

こうした住民は、自宅の地下室などで生活していますが飲料水や電気などが不足しているということです。

また、戦闘によってこれまで死亡した市民は、157人でけが人は354人に上り、ロシアが攻撃を激化させたことし10月以降、死者が増加しているということでさらに犠牲が増えることに懸念を示しました。

ウクライナ高官 反転攻勢の成果得られない要因を指摘

ウクライナ大統領府の高官は、反転攻勢で期待されていた成果が得られていない要因として、欧米からの軍事支援の遅れのほか、兵士の命を全く顧みずに大量の兵力を投入するなど、ロシア側の戦術が十分想定できていなかったことなど、4つの点を指摘しました。

ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、先月28日NHKの単独インタビューに応じました。

この中でポドリャク顧問は、ウクライナ軍が進める反転攻勢で現時点で、多くの人が期待したような成果は得られていないという認識を示しました。

その要因として欧米からの軍事支援が遅れたことに加え、支援のなかでウクライナにどのような兵器が送られるのかという情報が事前に広く伝わり、ロシア側に対応する余地を与えたことを挙げました。

これに加えてロシア軍が兵士の命を全く顧みずに大量の兵力を投入するというロシア側の戦術が十分想定できていなかったことや、ロシア軍が防御陣地の制空権を握っていることの合わせて4つの点を指摘しました。

ポドリャク顧問は「こうした複数の要因が重なり合っていたために反転攻勢がこう着状態に陥ることは運命づけられていた。そもそも電撃的で迅速な攻勢などはなから期待することはできなかった」と述べ、当初から反転攻勢で成果を得るには時間がかかるという認識だったと強調しました。

そのうえで「ロシア軍は防御が精いっぱいで身動きがとれなくなっているが、ウクライナ側は各方面でロシア軍に圧力を加え続けている」と述べ、ウクライナ軍としてはこう着状態を打開するため攻勢を強めていきたい考えを示しました。