忘年会は業務ですか?残業代、出ますか? 調べてみると…

「忘年会は業務ですか?」
「残業代、出るんですか?」

昨今、若手社員からの問いかけに困惑する上司たちがいるようだ。忘年会はベテラン管理職には大切な“飲みニケーション”の場かもしれない。しかし部下からすれば“出たくもない忘年会に出させられた”としたら、それは「業務」になるんだろうか… 本当のところを探ってみた。
(ネットワーク報道部 記者 杉本宙矢)

意味深なメール

都内に住む40代会社員の元に、先月下旬、意味深なタイトルのメールが届いた。

「【業務外】忘年会のお知らせ」

発信元は会社の若手社員で、部署内への一斉送信メールだった。

受け取った男性は「業務外」という表記に違和感を覚えたという。

(都内の40代の男性)
「おそらく上司や先輩の指示ではないかと思うのですが、なぜ『業務外』と打ち出してまで、会社としての忘年会にこだわるのか不思議です。私自身、今はお酒を飲むのをやめているので、行きたい人だけで個々に声がけするのではだめなのでしょうか」

キーワードは「残業代」?

きたる忘年会シーズン。
今年は、新型コロナウイルスが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に位置づけられてから初めて迎えることになる。

コロナ禍で飲み会が自粛されてきて、若手社員の中には、初めて参加する忘年会に期待する一方で、戸惑う声も少なくない。

SNS上では、忘年会にまつわる悲喜こもごもの意見があふれる中、特に目を引いたのは「残業代」というキーワードだ。

「何で強制参加で上司の機嫌とらないといけないの?令和の時代に上が昭和だと…」
「このご時世に泊まりでの忘年会。残業代つけてほしい」
「忘年会、なぜ残業代が出ないんだろう…」

専門家を訪ねると…

どうやら、やるせない思いで忘年会に参加している人が少なからずいるようだ。

ここで疑問が浮かぶ。

“本当に忘年会に残業代は出ないのか?”

真偽を確かめるべく、労働の専門家を訪ねた。

話をしてくれたのは、社会保険労務士の久保田慎平さん。

普段は中小企業の経営者からの相談を受けているそうだが、特に近年「忘年会に残業代は出ますか?」と部下から言われて、困惑した経営者や上司からの相談が相次いでいるという。

素朴な質問をぶつけてみた。

Q.忘年会は業務になる?
A.会社として“強制参加”させたり、“参加しないことで不利益がある”ようなことを言ってしまうと、それは労働時間と考えられ、給料や残業代が発生すると考えられます。

Q.会社としての“強制”とは?
A.上の立場の人が「参加しなさいよ」と言うと、会社の指示と捉えられかねません。
中小企業であれば社長からとか、経営の幹部や上司、先輩などですね。
また、誘う際に「みんな参加しているんだから」といった言動があると、強制参加の印象が強まります。
ダイレクトな“強制”とまで見えなくとも、業務と捉えられる可能性があります。

Q.“不利益”があるとは?
A.不利益というのは、参加しないことにペナルティがあるということですね。
出ないことによって給料がカットされるといったものから、例えば「参加したほうが評価が上がるよ」というように、参加の有無が評価につながっている、もしくはつながる可能性があると匂わせる場合もそうですね。

Q.そもそも労働時間とは?
A.裁判の判例では、使用者・事業者の「指揮命令下にある時間」と考えられています。
自社だけでなく、取引先との忘年会でも「出なさい」と上司から言われれば、労働時間と考えるのが妥当でしょう。
断る自由があれば別ですが、きれいに分けられない場合もあると思いますので、会社側としては誘い方も含めて、慎重な判断が必要でしょう。

Q.誘われて困ったら?
A.「それは業務ですか?残業代、出るんですか?」という返事にはトゲがあるので、悪気がなくても、その後の職場の人間関係がやりにくくなってしまう可能性もあります。
その職場で働き続けるならば「用事があります」などと言って濁すほうが無難でしょう。

Q.背景にどんな変化が?
A.40~60代ぐらいの世代では、とにかく飲みに行く「飲みニケーション」、飲み会のほかにコミュニケーションの取り方がわからない人もいると思いますが、今の若い世代では「プライベートを大切にしたい」とか「飲みに行くのが苦手」という人が増えています。
ワークライフバランスの重視だったり、コロナ禍で歓送迎会もなくなったりして、必ずしも飲み会をやるのが普通ではなくなってきています。
ですから、強制参加にならないように、出たい人に出てもらう誘い方が重要ですし、普段から出たいと思わせるような雰囲気作りも大事だと思います。

久保田さんの話をまとめるとこうなる。

業務時間内ではダメ?

いっそ、忘年会を業務にしてはどうなのか?
そんなことを考えながら取材を続けていると、SNSで、ある経営者の投稿を見つけた。

「忘年会は日中開催で給料も払います」

業務時間内に忘年会を行い、その分の給料も支払っているという企業だ。

取材で向かった先は、広島県福山市にある従業員11人の不動産会社。

うち女性従業員が7人で、5人は子育てや介護のため働く時間に制約があるという。

迎えてくれた副社長はこう話す。

「従業員の生活実態に合わせて、より快適に過ごしてもらうことを考えていたら、自然と日中の開催になりました」

実際に5年前に開催した忘年会の写真を見せてもらうと、たしかに窓の外が明るい。

テーブルにはビールも並ぶ。

副社長によると、勤務時間内の忘年会は、多くの従業員が参加しやすくなり、社内の一体感が高まるため、経営者の立場からしても生産性のアップが期待できるメリットがあるという。

山陽不動産 角田千鶴副社長
「勤務時間外の夜にやると、残業代が出るのか不安もあるし、いつ終わるかという不安もあると思います。私も子育てをしていますし、勤務時間内に給料を払って開催するのがみんなが参加しやすいと考えました。若い人が楽しくないということは、その上司や開催する人が楽しもうとしている会になってしまっているのかもしれません」

今月下旬には、コロナ禍を経て4年ぶりに、再び昼間の飲食店で忘年会を行うという。

専門学校を卒業し、今年就職したばかりの20歳の従業員は、初めての忘年会を前に、こう語ってくれた。

新卒20歳の従業員
「勤務時間内ということで参加しやすいです。私自身、忘年会に参加したことがないので、未知の世界でもあるんですけど、楽しみにしています」

誰もが気兼ねなく参加できる忘年会であってほしい。
そう感じる取材でした。

※この記事の内容は12月2日(土)の「ニュース7」で放送しました。NHKプラスで放送後1週間まで見逃し配信をしています。(配信は12/9(月) 午後7:30 までです)