ブルーカーボンって何?最前線に迫る

ブルーカーボンって何?最前線に迫る
「ブルーカーボン」ということばをご存じでしょうか。
森林などが吸収する二酸化炭素を「グリーンカーボン」と呼ぶのに対し、海藻など海の生き物を通じて海の中で吸収される二酸化炭素を「ブルーカーボン」と呼びます。
いまブルーカーボンをめぐるさまざまな動きが活発になっているんです。その最前線を取材しました。
(仙台放送局記者 北見晃太郎)

海草の再生がブルーカーボンに

11月中旬、宮城県塩釜市の港に親子連れなどおよそ50人が集まりました。
目的は、地元の松島湾に海草の「アマモ」を復活させることです。

「海のゆりかご」とも呼ばれるアマモ。
さまざまな魚のすみかとなったり、光合成によって二酸化炭素を吸収したりと、環境に優しい海草です。
かつて、アマモは松島湾にも繁殖していましたが、東日本大震災で海底ごと流されそのほとんどが失われました。
このため、地元の漁師などでつくる団体は11年前から松島湾にアマモを再生させる取り組みを進めています。
この日は、地域の子どもたちも参加して、最初にヤシの繊維を使ったマット100枚にアマモの種と泥を一緒に挟みました。
そして、船で沖合1キロほどの湾内に向かい、マットを海底に沈めました。
1年後、1メートルほどに成長したアマモを海に根づかせることが目標です。
松島湾アマモ場再生会議 伊藤栄明 副会長
「震災以前、松島湾はアマモがいっぱいある豊かな海だったんですけれども、それが底ごと無くなってしまった。アマモが二酸化炭素を吸収し、酸素を出して環境保護には寄与している部分なので、アマモの再生活動については今後も力を入れてやっていきたい」

全国各地で広がる取り組み

森林などが吸収する二酸化炭素を「グリーンカーボン」と呼ぶのに対し、海藻など海の生き物を通じて海の中で吸収される二酸化炭素は「ブルーカーボン」と呼ばれています。
松島湾での活動のように“海の緑”を再生させる活動も二酸化炭素の吸収量を増やすとして、いま改めて注目されています。

3年前からは、日本の認証機関が認めた自治体などのブルーカーボンは、企業などと売買できるようになりました。
認証機関によりますと、昨年度までに全国21か所のブルーカーボンが認証され、あわせて3700トン余りが取り引きされているということです。

このうち、大阪府阪南市では、地元の漁協と小学校などが協力して海にアマモを植栽する取り組みを行っています。
この活動でこれまでにあわせて3.4トンのブルーカーボンが認証され、売却で得た資金は、海の保全活動などに使われています。

また、大分県の名護屋湾では海の中で大量に発生したウニが海藻を食べ尽くしてしまう「磯焼け」の対策として、ウニを回収して陸上で育てることで海藻を復活させる取り組みが進められています。
自治体にとってはブルーカーボンの売買で得た資金を地域活性化の活動に使えることなどから、認証を目指して各地で取り組みが本格化しています。

全国初 カキ養殖でブルーカーボン

さらに、意外なものに着目したブルーカーボンもあります。
宮城県南三陸町の特産、カキです。

カキの養殖を行うと、養殖棚にコンブやアラメなどといった種類の海藻が付着します。
このカキ棚の海藻が吸収する二酸化炭素について、町はブルーカーボンの認証を目指すことになりました。
認証機関によりますと、カキの養殖でのブルーカーボンが認められれば、全国初になるということです。

ブルーカーボンが地域経済の活性化につながる可能性があると、関係者は期待を寄せています。
東北大学大学院 近藤倫生教授
「自然資本をきちんと管理することで融資を受けられる時代になってきている。地方がうまく自分のところで持っている自然を活用することで、経済の流れも良くすることができるのではないか」
さらに町の調査では、海水に残った生物由来のDNAを解析することで、海藻が付着したカキ棚の周辺には、ハゼやアユなどの5種類の魚が生息していることがわかりました。

「磯焼け」で行き場を失った小魚の新たなすみかになっている可能性があり、カキの養殖が海の生態系の維持にも役に立っていると考えています。
東北大学大学院 近藤倫生教授
「魚にとっては本来の住みかでは無い場所だけど、住みよい場所が見つかったので住んでいる。カキ養殖の思わぬ副産物と言える」
町は、この結果をブルーカーボンの新たな価値として付けることを目指しています。
認証機関によりますと、カキ棚が海の生態系の維持に役立つことが証明できれば、ブルーカーボン単体で販売した時と比べて、より高値での取り引きが見込まれるとしています。

南三陸町は、来年2月の認証を目指して準備を進めていくことにしています。
南三陸町自然環境活用センター 鈴木将太さん
「カキ養殖場がただ単に養殖産物をつくるだけでなく『海の健康状態を維持している』ということを発信できる。そうなれば今以上に付加価値がついてくるのではないか」

地域経済の活性化につながるか

南三陸町の関係者は、取り組みを継続的なものにするためにはブルーカーボンの役割や海の生態系を保護する大切さを地域全体が理解することが大切だと話していました。

各地で広がるブルーカーボンの取り組み。

海の環境保全と地域経済の活性化を両立するカギになるのか、取材を続けていきます。

(11月29日「てれまさ」などで放送)
仙台放送局記者
北見晃太郎
2019年入局
気仙沼支局や県警キャップを経て現在は経済担当