COP28 UAEで開幕 各国の気候変動対策強化につながるか焦点に

国連の気候変動対策の会議「COP28」が日本時間の30日夜、UAE=アラブ首長国連邦で開幕しました。COP28は、これまでの世界全体の気候変動対策の進捗(しんちょく)を評価する初めての機会となり、各国の対策の強化につなげられるかが、焦点となります。

COP28は日本時間の30日午後7時過ぎ、各国の代表が参加してUAEのドバイで始まりました。

今回の会議では、気候変動対策の枠組み「パリ協定」の目標達成に向けて温室効果ガスの削減など世界全体の対策の進捗を5年に1度評価する仕組み、「グローバル・ストックテイク」が初めて行われます。

国連は、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ1.5度に抑えるためには各国の削減目標が不十分だと指摘しています。

会議の冒頭、議長に選ばれたUAEのジャベル産業・先端技術相は「私たちがこれまで歩んできた道では、時間内に目的地にたどりつけない。科学は明確に語っている。いまこそ新しい道を見つけるときだ」などと述べ、2030年に向けて対策を加速させる野心的な合意が必要だと訴えました。

会議では再生可能エネルギーの拡大や石炭や石油といった化石燃料の段階的な廃止などが議論される見通しで「グローバル・ストックテイク」を踏まえ、対策の強化につなげられるかが焦点です。

「グローバル・ストックテイク」とは

8年前(2015年)のCOP21で採択され、気候変動対策の国際的な枠組みとなっている「パリ協定」は、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度未満に保つとともに、1.5度に抑える努力をすることや、世界全体の温室効果ガスの排出量を今世紀後半に実質的にゼロにすることを目標に掲げています。

目標達成に向けて各国は温室効果ガス削減の計画を設定していて、5年ごとに世界全体の取り組みなどの進捗を評価する「グローバル・ストックテイク」が、今回のCOP28で初めて行われます

ただ、国連はCOP28を前に、11月20日に報告書を公表し、各国が2030年までの温室効果ガスの削減目標を達成したとしても、世界の平均気温は今世紀末までに2.5度から2.9度上昇するという見通しを示しています。

対策の不十分さが指摘される中、先進国のみならず200近くにのぼる国が参加するCOP28で、排出削減を世界全体で加速させるための取り組みを強化する戦略を打ち出すことができるのかが注目されています。

「COP」とは

「COP」は、1992年に採択された国際条約「気候変動枠組条約」の「締約国会議」を意味します。

「気候変動枠組条約」には、現在198の国と地域が参加していて、1995年以降、毎年のように「COP」を開催して気候変動への取り組みを前に進めてきました。

1997年に京都で行われた「COP3」で、先進国に温室効果ガスの削減を義務づける「京都議定書」を採択したほか、2015年にフランスのパリで開かれた「COP21」では、発展途上国を含むすべての国が削減に取り組むことを定めた「パリ協定」を採択しました。

また前回のCOP27では、とくにぜい弱な途上国を対象に気候変動による被害「損失と損害」に特化した新たな基金の創設で合意しました。

各国の二酸化炭素排出量と目標

環境省によりますと、2020年の世界全体におけるエネルギー起源の二酸化炭素の排出量は、317億トンに上ります。

各国の排出量は、2020年では
▼中国が最も多く、100億8000万トンで31.8%
▼アメリカが42億6000万トンで13.4%
▼EUの27か国で23億9000万トンで7.6%
▼インドが20億8000万トンで6.6%
▼ロシアが15億5000万トンで4.9%
▼日本が9億9000万トンで3.1%となっています。

「パリ協定」に基づく各国は排出量の削減目標です。
【中国】
2030年までに二酸化炭素の排出量を減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロを実現できるよう努力するとしています。
【アメリカ】
2030年までに温室効果ガスの排出量を2005年に比べ50%から52%削減し、2050年までの実質ゼロを目指すとしています。
【EU】
2030年までに、温室効果ガスの排出量を1990年に比べ少なくとも55%削減し、2050年までの実質ゼロを目指すとしています。
【インド】
2030年までに、GDPあたりの二酸化炭素の排出量を2005年に比べ45%削減し、2070年までに実質ゼロを目指すとしています。
【ロシア】
2030年までに、温室効果ガスの排出量を1990年に比べ30%削減し、2060年までに実質ゼロを目指すとしています。
【日本】
日本は2030年度までに温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて46%削減し、2050年には実質ゼロにすることを目標にしています。

一方、国連が11月公表した報告書によりますと、2022年の世界の温室効果ガスの排出量は574億トンで、2021年と比べ1.2%増加し、過去最も多くなったということです。そして、各国が2030年に向けて掲げた温室効果ガスの削減目標を達成したとしても、世界の平均気温は今世紀末までに産業革命前に比べ、2.5度から2.9度上昇するという見通しを示しています。

各国の進捗は

世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるため、各国とも温室効果ガスの排出量の実質ゼロに向け、高い目標を掲げていますが、排出削減が目標に沿って進んでいない国もあります。

EU=ヨーロッパ連合は2030年に1990年と比べて、少なくとも55%の削減を目標として掲げていますが、2021年の「排出・吸収量」は、およそ32億4000万トンで、目標に沿った排出量の削減と比べて、5億トン以上多くなっています。

また、アメリカの2021年の「排出・吸収量」もおよそ55億9000万トンと2030年に向けた目標に沿った排出量の削減と比べると、10億トン以上多くなっていて、世界全体で排出削減の目標を達成する上で、各国が足並みをそろえていけるかが課題となっています。

日本の削減目標への進捗と対策

日本は、2030年度までに温室効果ガスの排出量を2013年度と比べて46%削減する目標を掲げています。

環境省によりますと、国内の温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いた2021年度の「排出・吸収量」は、二酸化炭素に換算しておよそ11億2000万トン。

2013年度との比較では、およそ20%減少していて、目標に沿う形で削減が進んでいるとしています。

気候変動対策が世界的な課題となる中、日本政府は温室効果ガスの排出量を2050年には実質ゼロにすることを目指して、
▽自動車の電動化や、車に搭載する蓄電池の性能の向上、
▽洋上風力や太陽光発電といった再生可能エネルギーの拡大、
▽水素社会の実現などを進めることにしています。

また、国際的な枠組み「パリ協定」で、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるよう努力するという目標の達成に向けて、政府は2030年度までに温室効果ガスの排出量を、2013年度と比べて46%削減する目標も掲げています。

こうした目標の実現に向けて、ことし2月には、二酸化炭素の排出量に応じて企業などがコストを負担するカーボンプライシングの導入などを盛り込んだ、「GX=グリーントランスフォーメーション実現に向けた基本方針」を閣議決定し、官民で取り組みを加速させていくとしています。

日本企業「脱炭素」の取り組み

COP28では、「グローバル・ストックテイク」を踏まえて、石炭などの化石燃料を段階的に廃止していくべきかも議論の焦点となる見通しですが、日本は石炭火力発電の燃料の一部を二酸化炭素を排出しないアンモニアに転換することで、段階的に排出削減を進めていくことを目指しています。

東京電力と中部電力が出資する発電事業者の「JERA」は、現在、国内6か所で石炭火力発電を稼働させています。

脱炭素を進めるため、この会社では2030年までに二酸化炭素の排出量が多い石炭火力の停止や廃止を進めるとともに2050年に向けては燃料を石炭から二酸化炭素を排出しないアンモニアへと転換することを目指しています。

来年2024年3月からは、愛知県の碧南火力発電所で、燃料の20%をアンモニアにして試験的な発電を始める方針で、現在は試験運転の実施に向けて、アンモニアをためるタンクなどを取り付ける工事が進められています。

試験運転は3か月にわたって行われることになっていて、これまでの石炭火力と比べて、どの程度、二酸化炭素を削減できるかや、アンモニアを燃やすと発生する有害な窒素酸化物を専用の装置で回収できるかどうかなどを検証する方針です。

さらに会社は、培った削減技術をタイやベトナムなど当面は石炭火力に依存せざるをえない国々に普及させることを検討していきたいとしています。

JERAの高橋賢司 脱炭素推進室長は、「日本やアジアで石炭火力から排出される二酸化炭素を削減することは、最重要課題と考えている。将来の脱炭素燃料であるアンモニアや水素を活用して世界全体の削減に貢献したい」と話しています。

思わぬ課題 大量廃棄の太陽光パネル どうリサイクル?

国は再生可能エネルギーとして太陽光発電の拡大を進める中、2030年代後半には太陽光パネルは大量廃棄の時期を迎えると推計され、拡大とともにリサイクルをどう進めていくかが課題となっています。

COP28のテーマの一つとなる再生可能エネルギーが国内の電源に占める割合は2022年度は21.7%で、国は2030年度までに1.8倍の38%程度に拡大し、再生可能エネルギーの中でも最も多い割合を占める太陽光発電は、2022年度の9.2%から1.7倍の16%程度に拡大するとしています。

ただ、太陽光パネルの耐用年数は20年から25年とされ、2030年代の後半には年間50万トンから80万トンが使用期限となり、大量廃棄の時期を迎えると推計されることからリサイクルをどう進めるかが課題となっています。

関東地方にある発電会社が設置しているおよそ4000枚の太陽光パネルによるメガソーラー発電の施設は、ことし9月に台風による大雨で、およそ50枚のパネルが泥に押し流されるなどして破損し使えなくなりました。

会社は近隣のリサイクル業者に問い合わせましたが、太陽光パネルのリサイクルをしたことがないとか、大きく変形したパネルは処理できないなどの理由で断られ、やむをえずそのまま現場に置いています。

発電会社の副社長は「受け入れ先がなく困っている。国内でリサイクルが進んで、パネルの資源化や資源を生かして国内で太陽光パネルを作ることができたら、一番いいと思う」と話していました。

環境省によりますと、太陽光パネルのリサイクルができる施設は令和3年度時点で全国で25か所にとどまっていることから、国は今年4月、専門家や業界団体による検討会を立ち上げ、リサイクル施設の増設やリサイクルしたガラスの活用方法の検討を始めました。

業界を代表して会議に参加した大阪に本社があるリサイクル会社では、国の資金支援を受けて2年前、太陽光パネルのリサイクル専用の設備を導入しました。

専用の高温に熱した刃物で金属などを含んだ部分を分離してガラスを取り出すことで、用途が多い板ガラスとして再利用できる状態にし、大きく破損したパネルは粉砕した上で別のガラス製品の原料としてして販売しますが、リサイクルしたガラスの販路の拡大が課題だとしています。

リサイクル会社の社長は「ガラスのリサイクルは難しく、不純物を嫌うため、できるだけ不純物が混ざらないようにということを目標にしている。ガラスの用途がまだ確立されておらず、出口戦略となるリサイクルした先の需要をしっかりと確保することが課題だ」と話していました。

専門家 “エネルギー安全保障とのバランス 考慮を”

エネルギーや気候変動の政策に詳しい東京大学公共政策大学院の有馬純特任教授は「日本のようにエネルギーの原料を海外に依存している国にとって、エネルギー安全保障とエネルギーコストの安定、それと温暖化防止のバランスをとって進めていかなくてはいけない」と指摘しています。

その上で、再生可能エネルギーの拡大については、「太陽光に限らず、風力についても耐用年数が、原発や石炭火力発電に比べて短いため、再生可能エネルギーを導入するときに、ライフタイム(耐用期間)を終えた後の処理をどうするか、拡大に伴う問題が出てくるのでエネルギー全体の組み合わせを考えてやっていかなくてはいけない」と話していました。

専門家 “焦点は具体的な削減の取り組みに合意できるか”

今回の会議について気候変動対策の国際交渉に詳しい東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に触れ、「今回のイスラエルとガザ地区の問題はアメリカやロシアなど大国間の関係や、開催地である中東地域の国際関係にも影響を与える。国際社会の協調体制に影を落としているなかでの気候変動交渉の会議だ」と述べ、ロシアによるウクライナ侵攻に加えて、ガザ地区の情勢は会議での合意形成を難しくさせるという見方を示しました。

そして「気温の上昇を1.5度に抑えるためには、2030年までのあと数年でかなりの排出削減を実現しなくてはならない。削減を具体的に進められるかが論点だ」と述べ、2030年までに再生可能エネルギーの容量を3倍に引き上げるなど具体的な取り組みで各国が合意できるかどうかが、焦点のひとつだと指摘しました。

その上で世界全体の気候変動対策の進捗を5年に1度評価する仕組み「グローバル・ストックテイク」が初めて行われることについて「各国が今後提出する削減目標について、いかに気候変動対策として効果的な水準に引き上げることができるかが注目点だ」として、削減目標の強化につなげていくことが重要になるとしています。

議長国UAEは世界有数の産油国

COP28の議長国、UAEは世界でも有数の産油国として知られています。

イギリスのエネルギー研究所の報告書によりますと、2022年、UAEは石油で世界7位、天然ガスで世界14位の生産量を誇るなど、豊富な化石燃料をいかして経済成長を遂げてきました。

COP28の議長を務めるUAEのジャベル産業・先端技術相は、国営石油企業、アドノックのCEOも務めています。

国際的なNGOは、アドノックは石油の新規開発を続け、気候変動対策と逆行していて、ジャベル氏が議長を務めれば、利益相反にあたり、会議での議論が化石燃料産業の影響を受けるとして批判しています。

開幕の直前にはイギリスの公共放送BBCが、調査報道を行うジャーナリストと協力して入手したとする内部文書をもとに、UAEがCOP28の場で中国やコロンビアなど15か国とLNG=液化天然ガスといった化石燃料の開発に関する商談を計画していたと伝えました。

これについてジャベル産業・先端技術相は、29日に行われた記者会見で、「これらの疑惑は誤りで、真実ではなく、間違っていて不正確だ。私はこうした資料を見たことも使ったこともない」と述べ報道の内容を否定しました。

UAEは近年再生可能エネルギーなどへの投資を拡大し、2050年には温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目標に掲げていますが、今回の報道を受けて、ジャベル氏が議長を務めることへの批判が一層強まることも予想されます。

米 バイデン大統領は欠席

アメリカのホワイトハウスは29日、「COP28」について、バイデン大統領が欠席し、代わりにハリス副大統領が出席すると発表しました。

ハリス副大統領は会議でアメリカが気候変動対策で世界を先導していくことを示すとしています。

バイデン大統領は気候変動対策を最優先課題の1つに掲げ、就任以来、2年連続でCOPに出席していて、欠席するのは初めてです。

欠席の理由についてホワイトハウスは明らかにしていませんが、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは政権高官の話としてバイデン大統領がイスラエルとイスラム組織ハマスによる戦闘への対応にあたるためだなどと伝えています。

岸田首相 “排出量実質ゼロへ 日本がリードする決意示す”

岸田総理大臣は午後2時半すぎ、COP28の首脳級会合に出席するため、UAEに向けて出発しました。

これに先立ち、脱炭素社会の実現に向けた国際社会の取り組みを日本が主導する決意を示す場にしたいという考えを示しました。

岸田総理大臣は、COP28の首脳級会合に出席するため、12月3日まで4日間の日程でUAE=アラブ首長国連邦のドバイを訪問することにしていて、午後2時半すぎ、現地に向けて政府専用機で羽田空港を出発しました。

これに先立って、岸田総理大臣は記者団に対し2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする『ネットゼロ』を共通の目標として目指す必要性を示した上で「世界の排出量の半分を占めるアジアで、わが国の技術や金融力を総動員してリードしていく決意をはっきりと示す場にしたい」と述べました。

また、現地では、会合に出席するイスラエルのヘルツォグ大統領のほか、エジプト、ヨルダン、カタールの首脳と個別に会談することを明らかにした上で「地域の平和と安定に重要な役割を果たす各国と、事態の早期の沈静化、人道状況の改善などに向けて連帯していく思いを確認したい」と述べました。

さらにことしのG7=主要7か国の議長国として、来年2024年の議長国を務めるイタリアのメローニ首相とも会談し、国際情勢について意見を交わしたいという考えを示しました。