成田空港 増便など受け入れられる見通し3分の2に 人手不足で

コロナ禍のあと、国際線の航空需要が伸びる一方、成田空港では航空機の地上誘導などを担う「グランドハンドリング」の深刻な人手不足の影響で、新規就航や増便希望のうち、今年度中に受け入れられる見通しが立っているのは3分の2にとどまっています。

これは成田空港会社が30日、開いた会見で発表したものです。

コロナ禍での航空需要の減少で、航空機の地上誘導や荷物の積み降ろし、チェックインカウンター業務などを行う「グランドハンドリング」の従業員の数は4年前と比べて全国で15%近く減少し、人手不足が深刻になっています。

一方で、最近の外国人観光客の増加などで航空需要は伸びていることから、国際線の利用客が最も多い成田空港では、航空機の受け入れへの人手不足の影響を把握するため、初めての調査が行われました。

その結果、海外の航空会社の新規就航や増便の希望は週152便あり、空港の発着枠には余裕があるにもかかわらず、今年度中に受け入れられる見通しが立っているのは101便と、3分の2にとどまったということです。

今回の調査でインバウンド需要を十分には取り込めていない実態が初めて明らかになり、対策のさらなる強化が必要な状況が浮き彫りになった形です。

成田空港会社の田村明比古社長は会見で、「成田空港は日本の表玄関で、外国からのお客様を迎えられない、日本から海外に飛べないということだと困る。今後もさらに増便の要望はあるので、人材確保の努力を継続しないといけないと思っている」と述べました。

「グランドハンドリング」の人手不足をめぐっては、国内大手の「スイスポートジャパン」の労働組合が、12月から一切の時間外労働を行わないと会社に通告していましたが、会社側によりますと、その後の労使の協議で、12月については航空機の運航への影響は回避できるめどがたったということです。

「スイスポートジャパン」労組 “時間外拒否 見送り”

航空機の地上誘導やチェックインカウンターでの受け付けなどを担うグランドハンドリング会社の「スイスポートジャパン」は、外国の航空会社の便を中心に羽田や成田など6つの空港で業務を行っています。

労働組合は11月、航空の需要回復に人材確保が追いついておらず、長時間労働が改善されないとして、会社に対し、12月から一切の時間外労働を行わないと通告しましたが29日、この通告内容を見送ると明らかにしました。

労働組合などによりますと、業務の一部を別の会社に委託するほか、新規採用や離職防止への取り組みを強化するなど、会社側から長時間労働を是正する方針が示されたということです。

そのうえで、新たな労使協定を結んだということで、航空機の運航への影響は回避される見通しとなりました。

スイスポートジャパンの吉田一成社長は「ご心配とご迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げます。今後は適切かつ厳格な労働時間管理や、長時間労働を生み出さない受注体制の構築により、再発防止に取り組みます」とコメントしています。

グランドハンドリング会社「打診受けたいが受けられず」

成田空港で中国やベトナムなど海外の航空会社およそ20社の地上業務を受託しているグランドハンドリング会社では、コロナ禍で離職者が相次ぎ、地上業務を担う従業員はコロナ前には446人いたのが、一時、その4割程度まで減少しました。

新型コロナに伴う入国制限が大幅に緩和されてから、需要の回復に合わせて毎月、採用を行うなど、人材の確保に努めてきましたが間に合わず、ことし4月以降、中国や韓国、中東など合わせて15の航空会社から新規就航や増便の打診があったのに対し、11社の打診を断らざるをえなかったといいます。

11月中旬には、来年2月の中国の旧正月、春節を前に増便させたいという中国の航空会社の担当者がこの会社を訪れ、これまで週に3便だった成田便を来年1月からコロナ前と同じ週7便に戻したいと申し出ました。

しかし、会社では、
▽従業員の採用が間に合わず、採用しても現場に出られるようになるには時間がかかるほか、
▽ほかにも複数の航空会社から増便の打診があり、新規の受託は難しいと伝えました。

グランドハンドリング会社「FMG」旅客部の岩佐泰仁部長は「本当は航空会社の打診はすべて受けたいが、品質を保つためには従業員の教育にも時間がかかるので、打診はあったが受けられず、悔しい」と話していました。

国土交通省によりますと、グランドハンドリング会社の社員の平均年収は現在、およそ357万円と、類似業種と比べても低い水準となっていて、人材確保のためには処遇の改善が急務となっています。

この会社では人材の確保のため、ことし4月から正社員の給与を平均で5%程度引き上げていて、来年からさらに引き上げる方針だということです。

国内空港の国際線旅客数 コロナ前の6割余にとどまる

世界各地の空港管理者でつくるACI=国際空港評議会の9月時点の予想によりますと、ことしの世界の国際線の旅客数はおよそ33億人に達し、新型コロナ前の2019年の89%まで回復する見通しだということです。

一方、国土交通省によりますと、ことし1月から9月までの国内の空港の国際線旅客数は速報値で5011万人余りで、新型コロナ前の同じ時期と比べて6割余りにとどまっています。

▽グランドハンドリングの人手不足に加え、
▽世界の主要国が先んじて水際対策を緩和していたのに対し、日本が大幅に緩和したのは去年の秋となったことなどが主な要因とみられるということです。

国土交通省はグランドハンドリングの人手不足対策として、
▽空港ごとに就職説明会を開く経費や、
▽従業員教育などにかかる経費を補助するなどして従業員の確保を促し、今年度末までに、コロナ禍前の2019年に近い水準まで人数を回復させることを目指しています。

専門家「空港会社や国がリーダーシップを」

空港の業務のあり方に関する国の検討会で座長を務める慶応大学の加藤一誠教授は「日本は新型コロナの水際対策を大幅に緩和するのが諸外国より遅れたため、国際線の利用者の戻りが遅くなったが、今は円安の影響もあって非常に多くの人が日本に来たいと希望している。その需要を取り込めないということであれば、日本経済にとっては大きなマイナスになる」と指摘しています。

一方、グランドハンドリング会社の社員の平均年収が比較的低い水準であることについては、「これまでは低い賃金でも航空業界への『憧れ』で人が集まってきたが、コロナ禍でこの業界が不安定だという認識に変わってしまった。賃金改善など抜本的な労働環境の向上をするべきで、それによる運賃の値上げについても利用者も理解していく必要がある」とし、「これまで人材確保はそれぞれの会社が行ってきたが、限界を迎えている。空港会社や国がリーダーシップを取って取り組むべきだ」と話しました。