万博の前売券 販売スタート 開幕まで500日 建設の遅れも…

再来年の大阪・関西万博の開幕まであと500日となる30日、前売券の販売が博覧会協会のホームページなどで始まりました。売り上げは運営費に充てられるだけに、万博の意義や展示の内容を丁寧に説明し、機運を高めていけるかが課題となります。

前売券の価格・具体的な購入方法は?

再来年の4月13日から大阪 此花区の夢洲で半年間開催される大阪・関西万博。

入場券はQRコードを用いた電子チケットになっていて、会期中に販売される一日券は大人7500円に設定されています。

一方、過去の万博では会期の前半の入場者が少なかった傾向を踏まえて、前売券を早く購入したり、会期の前半に入場したりするものには割安の価格が設定されています。

前売券のうち、大人が会期中いつでも1度入場できる「一日券」
▽来年10月7日以降に買うと6700円ですが、
▽来年10月6日までに買えば6000円となっています。

また、大人が
▽開幕からおよそ3か月後まで1度入場できる「前期券」は5000円、
▽開幕から2週間後まで1度入場できる「開幕券」は4000円に設定されています。

一方、未成年者の前売券の料金は再来年4月1日時点の年齢で2つに分けられ
▽4歳以上11歳以下は大人の料金の25%程度、
▽12歳以上17歳以下は大人の料金の54%から60%程度に設定されています。
▽3歳以下は無料です。

博覧会協会の石毛博行 事務総長は「会期の前半に来場いただけるとチケット代が割安な上、ゆっくり楽しめる。お得なので、ぜひ購入いただきたい」と呼びかけています。

チケットを買うためには、大阪・関西万博のさまざまなサービスで利用する共通の「万博ID」を事前に登録する必要があります。

「万博ID」は17歳以上であれば、博覧会協会のホームページから名前とメールアドレス、電話番号などを入力すると登録できます。万博に来場する日時の予約や、パビリオンやイベントの観覧予約などはすべて「万博ID」を使って行うことになります。

記念イベントで購入を呼びかけ

実施主体の博覧会協会は30日、前売券の販売にあわせて東京都内で記念イベントを開き、購入を呼びかけました。

博覧会協会のトップを務める経団連の十倉会長が「多くの方に来場してもらえるよう、さまざまなチケットを用意した。開幕まで多くの課題が残されているが、1つ1つ解決して、すばらしい万博をつくり上げていきたい」とあいさつしました。

博覧会協会は全体で2300万枚の入場券の販売を目指していて、このうち、およそ6割にあたる1400万枚を前売券で販売したい考えです。建設費の上振れなどの課題がある中、機運を高めていけるかが課題になります。

河森監督「見たこともないような新しいものを」

万博での展示内容の準備も本格的に始まっています。

大阪・関西万博はテーマとして「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げていて、8人のプロデューサーが「いのち」をテーマに、会場の中心部にパビリオンをつくることになっています。

このうちの1人で、『マクロス』シリーズなどを手がけてきたアニメーション監督の河森正治さんは、人間を含む生き物どうしの命のつながりを感じることができるパビリオンにしたいと考えています。

その中心的な展示の一つとして、河森さんが進めているのが映像コンテンツの制作です。

現実の風景に仮想の映像を重ねる技術などを活用していて、ゴーグルを着用した来場者がさまざまな生物の命をめぐる冒険を疑似体験して、命のつながりを感じてもらうコンテンツを目指しています。

河森さんは10分程度の短い時間でも来場者の心を動かすコンテンツにするためにどうすればいいか、試行錯誤を繰り返しているということです。

河森さんは「知識や頭に訴えるのではなく、感情や魂に訴えるためには、ある種の臨界量を突破しないといけない。ドラマチックでエンタメでパワーがあるものにしないと、わざわざ万博で出す必要はない。見たこともないような新しいものが生み出せるように頑張りたい」と話していました。

会場のシンボル 大屋根の工事進む

万博会場の広さは約155ヘクタール。1970年の大阪万博の半分程度の比較的コンパクトな会場で、ことし4月に起工式が行われ、工事が本格的に始まりました。

現時点で目を引くのは、完成すれば世界最大級の木造建築として建設されている円周およそ2キロの大屋根。万博の理念「多様でありながら、ひとつ」を表現する会場のシンボルで、これまでに全体のおよそ3分の1で工事が進められています。

また、会場の中心に位置する「静けさの森」の予定地には土が盛られていて、12月上旬から植樹が始まる予定です。

「いのち」をテーマに8人のプロデューサーが作るパビリオンは、これまでに3つが会場内で着工しました。ただ、目立った建物は、まだありません。

パビリオンの建設会社が決まらない

大阪・関西万博には159の国と地域が参加する予定です。

出展のしかたはもともと3種類で、参加国が独自のデザインをもとに自前で建設するのが「タイプA」と呼ばれるパビリオンです。

実施主体の博覧会協会が準備した建物を使うのが「タイプB」、協会が準備した建物に複数の国で入るのが「タイプC」です。

このうち「タイプA」のパビリオンは建設の遅れが表面化しています。およそ50か国がこの方法で出展する計画ですが、今のところ、着工した国はありません。建設会社が決まっているのは30か国にとどまっています。

遅れの理由としては
▽資材や人件費の高騰によるコストの上昇
▽デザインの複雑さなどのため、建設を請け負う建設会社が見つかりにくい 
ことがあります。

建設を加速するため、博覧会協会は協会が組み立て式の建物を建て、費用を参加国が負担する「タイプX」と呼ばれる方式を、新たに各国に提案しました。これまでにアンゴラとブラジルがタイプAからタイプXに変更しました。

ナイジェリアとスロベニアはタイプAからタイプCに変更しましたが、メキシコとエストニア、ロシアは万博への参加自体を取りやめました。

メキシコとエストニアは国内の財政事情などを理由にしているほか、ロシアはウクライナ侵攻をめぐり、日本や欧米の姿勢に反発した可能性が指摘されています。

一方で、デンマークやフィンランド、チリやカメルーンなど9か国から新たに参加の表明があり、現時点で参加する国と地域はあわせて159となっています。

タイプA以外の工事の進捗について博覧会協会は「順調」としていますが、建設現場にはまだ電気や下水が通っていないため、建設会社が発電機や仮設トイレを持ち込んで作業を進めているほか、今後、工事がピークを迎えたときの道路の渋滞を懸念する声も出ています。

会場の整備の3分の1の工区を担当する企業体の責任者を務める大林組の内林隆文さんは「工事は予定どおり推移しているが、全体のスケジュールは非常に厳しく、今後、施工していく会社もたくさんある。動線の確保など、全体としてどう進めていくかが一番難しいと思う」と話しています。

【深刻な課題】会場へのアクセス手段

開幕まで500日の節目を迎えるなか、深刻な課題として浮上しているのが来場者の会場へのアクセス手段の確保です。

博覧会協会は開催期間中、2820万人が来場し、ピーク時には1日に最大で22万7000人が訪れると想定しています。

ただ、会場がある夢洲は人工の島で、渡ることができるルートは会場近くに駅が設けられる大阪メトロ中央線と、舞洲や咲洲と橋やトンネルで結ぶあわせて3つのルートに限られています。

主な輸送手段は
▽大阪メトロ中央線(12万4000人/日最大)
▽駅からのシャトルバスや空港などからの直行バス(3万5000人/日最大)
▽団体バス・タクシーや会場周辺の駐車場などからのシャトルバス(6万8000人/日最大)
の3つが想定されています。

このうち、大阪市内を中心に10の主要な駅から出発するシャトルバスでは、会場から3.5キロほど離れた場所にあるJR桜島駅と会場を結ぶルートが主力となる予定です。

博覧会協会はこのルートで1日に最大290便を運行し、1万6000人を運ぶ計画をたてていて、府内のバス会社と連携して、70台のEV=電気自動車のバスの確保を進めていますが、運転手の確保は難航しています。

【喫緊の課題】 シャトルバスの運転手の確保

博覧会協会によりますと、府内のバス会社はほかのルートのシャトルバスや通常路線の運行などで手いっぱいとなっていて、運行に必要な180人のうち、現時点では少なくとも100人足りず、さらに不足する可能性もあるということです。

博覧会協会はシャトルバスの運転手の確保を「喫緊の課題」と位置づけて、対策に乗り出しています。

JR桜島駅と会場を結ぶルートで少なくとも100人の運転手が不足している問題を受けて、11月21日に大阪市内で開かれた運転手の確保に向けた説明会には、全国の貸し切りバス会社や旅行会社などおよそ50社が参加しました。

博覧会協会としては、ツアー旅行などを専門に扱う貸し切りバス会社や、そうした会社とふだんから取り引きのある旅行会社に的を絞って、広く、全国から協力してくれる運転手を掘り起こすのがねらいです。

ただ、路線バスの廃止が全国で相次ぐなど、バス運転手の不足が社会的な課題となっている背景も踏まえ、説明会に出席した旅行会社からは「簡単な話ではない」といった指摘も出ています。

大阪 吹田市の旅行会社「ツアーズジャパン」は主に大学生の合宿などのツアー旅行を手がけ、10社以上の貸し切りバス会社と取り引きがあります。

ただ、この旅行会社では、ことしの売り上げが新型コロナの影響で大きく落ち込んだおととしと比べ、すでに7倍以上に回復しているということで、今後も国内旅行の需要や外国人旅行客の増加が見込まれるなか、さらなる運転手の確保は簡単なことではないと考えています。

北野晶久社長は「今までは簡単に手配できたが、ことしはちょっと違うなと感じていた。いくらバス会社とつきあいがあると言っても運転手不足は切実な問題。ただ、浪花節の血が騒いでいるところもあり、できるかぎりの協力はしたい」と話していました。

博覧会協会は旅行会社のネットワークを生かして、全国各地のバス会社に協力を呼びかけるとともに、運転手を派遣してくれたバス会社への営業補償などについても詳細を検討していくことにしています。

博覧会協会の淡中泰雄交通部長は「会場に来るまでに疲れてしまったり、楽しい思い出を作ったのに、帰りが大変だったという思いで終わってしまったりするのは非常に悲しいことだと思う。輸送に携わるチームとして、万博に来てよかったと思うお客さんが1人でも増えるように、しっかり準備していきたい」と話しています。

横山大阪市長「一気に盛り上げていきたい」

大阪市の横山市長は30日の定例会見で、大阪・関西万博の開幕まであと500日となったことを受けて、「いよいよ前売券の販売が始まり、このタイミングで一気に万博機運を盛り上げていきたい。認知度などに課題があることは認識しているが、1人でも多くの方に会場にお越しいただけるよう、また魅力を感じていただけるように発信を強化していきたい」と述べました。

また、海外パビリオンの建設が遅れていることに関して、「当初の予定通り進んでいない工事もあり、危機感は持っているが、開催できないというほどの危機的な状況ではない。いまは各国の契約や施工をスムーズに進めていくことが重要で、大阪市としては関係者の意思疎通を密にしていくとともに、施工環境の整備をしっかり行っていきたい」と述べました。

岸田首相「一緒に未来切り開く万博を」

岸田総理大臣は東京都内で開かれた関連のイベントにビデオメッセージを寄せ、「実質的にコロナ後で初となる万博だ。内向きになりがちなこの時代に、世界中の人々に対面で参加してもらい、世界の未来に思いをめぐらし、課題解決に向け、ともに行動する契機としたい」と述べました。

その上で、「私も楽しみにしており、入場券を購入する。大阪・関西万博の成功に向けて関係する自治体や経済界とも連携し、政府一丸となって準備や機運の醸成を進めていく。一緒に未来を切り開く万博をつくろう」と呼びかけました。