和菓子を作っているのは、京都大学4年生の村野俊樹さん。
3年前から毎月1回のペースで、親しい同級生などを招いて、茶会を開いています。
“感謝の和菓子” 卒業を前に…
趣味の和菓子作りが高じて毎月、茶会を開いている大学生。
“お世話になった人たちに感謝の気持ちを伝えたい”
卒業を控え、腕によりをかけて「特別な和菓子」を創作しました。
(大阪放送局ニュースリポーター 高野祐美)
コロナ禍のなかで
村野さん
「日々の豊かさ、何気ない日常の幸せ、それをテーマに和菓子を作っています」
村野さんが和菓子を作るようになったきっかけは3年前の春、コロナ禍でスタートした大学生活でした。
入学式もなく、授業はオンライン。
ふるさと愛媛を離れ、人と会う機会は限られました。
村野さん
「同級生の多くが感じたように箱に閉じ込められているようで、すごく孤独を感じていました。なんで京都にいるんだろう、なんで大学に来たんだろうと。ナイーブに、落ち込んでいたこともあって…」
独学で
もともと、和菓子を食べることが好きだった村野さん。
「気分転換に」と、オリジナルの和菓子作りを独学で始めました。
京都市内を散策しては、美しいと感じたものをスケッチ。
菓子として表現するためのイメージをふくらませました。
村野さんは勉強の合間を縫って、月に2回、大阪・岸和田を訪れています。
80年以上続く和菓子店の店主、石田嘉宏さんに和菓子作りを学ぶためです。
食べたときに体や心まで幸せを感じられるような和菓子を。
そんな石田さんの姿勢にあこがれ、1年ほど修行をさせてもらっています。
石田嘉宏さん
「村野くんを見ていると『純粋な気持ちで作っているな』と感じるから。あとくちだったり余韻とかに、この子の素の部分があらわれるんじゃないかな」
試作中の和菓子を食べてもらうと…。
石田さん
「これは、おいしい。自分の中の経験を入れるとだんだんとお菓子に深みが出てくるので。いろいろな人に聞いて、いい部分だけを足していけばいいと思う」
友人を通して
村野さんがひときわ感謝している友人がいます。
同じ大学に通う藤森弥子さん。
藤森さんはストレスや不安から食べることに抵抗を感じていた時期がありました。
ただ、村野さんの和菓子については…。
藤森弥子さん
「思いとか世界観がこもっていて。伝えたいことが込められている。食べて栄養を摂取する以上のものが得られる」
食べることの幸せ。
その意味を、村野さんは藤森さんを通じて深く考えるようになったといいます。
感謝の気持ちを
そして迎えた特別な茶会の日。
“感謝”をテーマに、友人や知人など、お世話になった人たちを迎えました。
“感謝の茶会”の舞台として借りたのは、京都の町家。
美しい庭園で知られています。
10人ほどを招き、大福や、もなかなど、5種類の和菓子を順番に出しました。
こちらは”静”(せい)
静かに置かれた石をモチーフにした大福です。
村野さん
「大学に入学した時、コロナもあった中で、京都で文字通り、箱に閉じ込められたような日々を過ごしていまして。箱に静的なものを閉じ込めたお菓子になります」
そして”動”(どう)
コロナ禍を経て、自分の心も、社会も動き始めた様子を表現しました。
キンモクセイの花などがあしらわれています。
子どもの家庭教師をした縁で、何かと支えてくれた女性にふるまったのは”秋の母の日”と題した、ひとしな。
秋の七草のナデシコをそえ、中には、くりが入っています。
感謝を込めたオンリーワンの和菓子です。
女性
「おいしかったです。母の日か…言われたらそうだと思います。村野くんって本当に素直なんですよ。いろいろな人にかわいがってもらっての集大成がこの和菓子」
よく相談をしていた藤森さんにも和菓子を通して「ありがとう」を伝えました。
藤森さん
「楽しかったですね、食べていて。いろいろ学びがあって、私もがんばろうというのを日々感じさせてくれるので。茶会でも刺激を受けて、すごく感謝しています」
村野さん
「自分が好きなものを好きなように表現しているんですけれど。それが食べていただく方にとっての出会いになっているというのがうれしいかな。たくさんのご縁があって、このような機会をいただけているので。
和菓子を通じて、日々の豊かさとか幸せとか人生の余白みたいなものをみなさんに伝えていけたら」
感謝の気持ちを伝えることができた村野さん。
大学卒業後は東京の企業で働く予定で、「社会人になっても時間を見つけて和菓子作りを続けたい」ということです。
(11月16日 ほっと関西で放送)