宝塚歌劇団 遺族側 “パワハラ否定のまま解決はありえない”

宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡した問題で、遺族側の代理人は、11月24日に歌劇団側と面談し、過重労働やパワハラを認めた上で謝罪と補償を行うよう、改めて求めたことを明らかにしました。

代理人によりますと、歌劇団側は、遺族の主張を真摯(しんし)に受け止め、引き続き協議する考えを示したということです。

宝塚歌劇団の宙組に所属していた25歳の劇団員はことし9月、兵庫県宝塚市で死亡しているのが見つかり、自殺とみられています。

歌劇団は11月14日、いじめやパワハラは確認できなかったとする一方、長時間の活動などで強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できないとする調査報告書の内容を公表しました。

これを受けて、遺族側の代理人の弁護士が27日にコメントを出し、11月24日に歌劇団側の代理人と面談したことを明らかにしました。

遺族側は「パワハラが否定されたままで合意解決することはありえない」として、歌劇団側に過重労働やパワハラを認めたうえで謝罪と補償を行うよう、改めて求めたということです。

遺族側の代理人によりますと、歌劇団側はこれに対し、現時点で特定のパワハラの存在は認めていないものの、遺族の主張を真摯に受け止めて引き続き協議するほか、そのほかの要求についても前向きに対応していく考えを示したということです。

遺族側は経緯を調査した弁護士事務所に、歌劇団を運営する阪急電鉄に関連する企業の役員が所属しており、調査報告書には独立性がないなどと批判しており、今後、調査報告書の問題点を指摘した書面を、証拠とともに歌劇団側に提出するほか、12月後半には代理人どうしで再び面談を行うとしています。

遺族側 労基署に必要な措置講じるよう求める

遺族側の代理人は、27日に出したコメントの中で、労働基準監督署が11月22日、宝塚歌劇団に立ち入り調査を行ったことにも触れ、十分な調査を行ったうえで必要な措置を講じるよう求めていく考えを示しました。

この中で、遺族側は「入団後5年間は阪急・劇団側も雇用契約であると認めているが、亡くなった劇団員の5年間の賃金明細書などを見ても『基準外手当』の名目で支給されている時間外労働手当はごくわずかであり、月にゼロ円というときも少なくない。日常的な稽古などの労働時間は、1日8時間、週40時間を大きく超えていることが常態化している」と主張しています。

また、入団6年目以降は委託契約とされている点について「実質的には労働契約であり、亡くなった劇団員も労働基準法上の労働者であったと判断するのが相当だ」として、立ち入り調査を行った西宮労働基準監督署に対し、十分な調査を行ったうえで必要な措置を講じるよう求めています。

さらに、歌劇団の診療所についても「劇団員のいのちと健康を守るために不可欠だ」として、法令に違反する実態がなかったかどうかを検証しなければならないとしています。

宝塚歌劇団「継続して話し合いの場 誠実に協議」

宝塚歌劇団は、今回の面談について、コメントを出しました。

この中で「このたびの宝塚歌劇団宙組生の急逝を受け、ご遺族の皆様には、心よりおわび申し上げます。また、多くの宝塚歌劇ファンの皆様ならびにご関係の方々に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことをおわび申し上げます。11月24日に、ご遺族の代理人と当方代理人によるお話し合いをさせていただきました。弊団は、ご遺族の大切なご家族がお亡くなりになったことについて大変重大なことと受け止めており、冒頭で、ご遺族に対する謝罪の気持ちをお伝えいたしました。弊団としては、今後、継続してお話し合いの場を持たせていただき、11月14日に公表した調査報告書の内容のみにとどまることなく、ご遺族のお気持ちやお考えを真摯(しんし)に受け止め、誠実に協議してまいる所存です。ご遺族には、改めて正式な謝罪を申し上げる機会をいただけるように努めてまいりたいと考えております」としています。

2年前に労基署から是正勧告 裁量労働制めぐり

宝塚歌劇団が、一部のスタッフに適用していた「専門業務型裁量労働制」をめぐり、2021年、労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。

「専門業務型裁量労働制」は、業務の進め方や時間配分などを労働者の裁量に委ね、実際に働いた時間ではなく労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなして賃金が支払われる制度で、19の業務に限って適用できます。

宝塚歌劇団によりますと、2021年9月、「専門業務型裁量労働制」で働く演出助手の休日労働などの取り扱いについて、西宮労働基準監督署から是正勧告を受けていたということです。

宝塚歌劇団は「詳細については回答を差し控えます。労働基準監督署の指摘を真摯に受け止め今後も適切に対応していきます」とコメントしています。

宝塚歌劇団をめぐっては、ことし9月に宙組の25歳の劇団員が死亡した問題で、西宮労働基準監督署が11月22日に労働基準法に基づき立ち入り調査を行っています。

元劇団員「時代に合った新たな環境を」

宝塚歌劇団を数年前に退団し亡くなった劇団員を知る20代の女性がNHKの取材に応じ「歌劇団には時代に合った新たな環境を作り上げてほしい」と訴えました。

女性は宝塚音楽学校で学んでいた当時から亡くなった劇団員と知り合いだったということで、その人柄について「上級生から言われたことを素直に聞くタイプで、とても真面目な印象だった」と振り返ります。

亡くなった劇団員が所属していた宙組は同期生が8人いましたが、調査チームの報告書によりますと、退団などにともない、ことし9月の時点では実質的に2人にまで減っていました。

これについて女性は「亡くなった劇団員の代は、ことしは『長の期』と呼ばれる年にあたり、みずからが出演する本公演に加え、新人公演という1つの大きな舞台を作り上げる責任を負っていました。少ない人数で下級生を束ねるのは相当大変なことで、大丈夫だろうかと心配していました」と話しています。

女性によりますと、歌劇団は年間を通して公演と稽古の過密なスケジュールをこなさなければならず、睡眠時間を十分に確保できない日々が続いたといいます。

下級生の頃は稽古用の小道具を手作りする業務も担い、夜を徹して作業にあたったこともあったということです。

当時の生活については「音楽学校にいた頃から『劇団に入ったら寝られない』とか、『大変だよ』ということはまわりから聞いていて、覚悟を持って入団したので、これが当たり前だと思っていました。今考えると、見えている世界が狭かったなと思います」と話しています。

当時は宝塚の舞台に立つという夢をかなえるためにすべてをささげていたという女性ですが、睡眠不足に加え精神的な負担などが積み重なったとして、数年前に退団しました。

今回、劇団員が亡くなったことについて、女性は「私自身も苦しかったので、このようなことが本当に起きてしまったんだと率直に感じました」と話していました。

また、歌劇団の厳しい上下関係については宝塚音楽学校で教え込まれたということで「上級生の言うことは絶対でした。私が在籍していた当時は、怒られる時は上級生よりも目線を下げるためにひざを床について謝り続けたり、ノートに反省文を書いて一言一句暗唱したりしていて、中には過呼吸になる子もいました」と振り返ります。

さらに、内部の事情を外部の人に話すことは「外部漏らし」と呼ばれ禁じられていたということで、女性は「親にも悩みを相談したり、愚痴を言ったりすることができなかったのでつらかった」と話していました。

歌劇団は今月14日、劇団員が死亡したことについて、いじめやパワハラは確認できなかったとする一方、長時間の活動などで強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できないとする調査報告書の内容を公表しました。

これについて女性は「幹部がパワハラは確認できなかったと断言していましたが、かつて歌劇団に所属していた身としては違和感がありました。ご遺族にとっては不快だったと思いますし、所属しているたくさんの劇団員たちも内容には不満を持っていると思います」と話しています。

そのうえで「今でも歌劇団のことを話す時はためらいがあります。でも黙っていたら何も変わらない、やはり声を上げるのは私のような近くにいた人しかいないと思い、取材を受けることにしました。宝塚歌劇団は私の青春でもあるし、これからもずっと続いてほしいと願っています。だからこそ、時代に合った新たな環境をこれから作り上げてほしい」と訴えていました。

別の元劇団員「改善していく姿勢を示してほしい」

宝塚歌劇団の元劇団員で、亡くなった劇団員を知る別の女性は「歌劇団は劇団員に寄り添い、労働環境を改善していく姿勢を示してほしい」と訴えています。

この女性は、亡くなった劇団員について「優しい性格で、正義感が強い人という印象でした」と振り返ります。

女性はみずからが所属していた当時の宝塚歌劇団について「これまでの伝統を重んじるあまり、下級生への厳しい指導などにつながっていた側面もあると思います。『古き良き』と言える文化もありますが、組織の特殊性からか、劇団も劇団員も改革への意識は低いように思いました」と話しています。

また、女性は現役時代、公演や稽古の過密なスケジュールなどについて劇団側に見直しを求めたこともあったということで「人の命が失われないと改善策を検討できないのか、その必要性を劇団側が本当に認識しているのか、今でも疑問に思います」と話しています。

そのうえで「歌劇団は劇団員に寄り添い、労働環境を改善していく姿勢を示してほしい」と訴えていました。