核兵器禁止条約締約国会議 まもなく 核軍縮へ機運高められるか

核兵器の開発や保有、使用などを禁止した、核兵器禁止条約の第2回の締約国会議が、まもなく、ニューヨークの国連本部で始まります。ウクライナに侵攻するロシアが核による威嚇を続け、中国も核戦力を増強するなど、核をめぐる世界の状況が厳しさを増す中、核軍縮に向けた機運を高めることができるのか、問われることになります。

核兵器禁止条約は、おととし発効し、最初の締約国会議は去年6月にオーストリアで開かれ、「核なき世界」の実現を呼びかける「ウィーン宣言」などが採択されました。

第2回の締約国会議は、国連本部で27日午前、日本時間の28日午前0時から始まります。

条約には、これまでに93の国と地域が署名し、69の国と地域が批准を終えていますが、アメリカやロシアなどの核保有国のほか、核の傘のもとにある日本やNATO=北大西洋条約機構の加盟国は参加していません。

締約国会議には、前回に続いてNATOの加盟国の一部がオブザーバーとして参加しますが、日本政府は参加する姿勢を示していません。

一方で会議では広島・長崎の被爆者が証言を行うほか、広島・長崎の両市長も発言することになっています。

世界の核をめぐっては、ウクライナに侵攻するロシアが核による威嚇を続けているほか、中国も予想を上回る速さで核戦力を増強していると指摘されていて、去年8月のNPT=核拡散防止条約の再検討会議は最終文書を採択できないまま閉幕しました。

今回の締約国会議では、12月1日の最終日に政治宣言を採択する予定で、核をめぐる世界の状況が厳しさを増す中でも、核兵器の非人道性や環境への影響などの議論を通じて、核軍縮に向けた機運を高めることができるのか、問われることになります。

締約国会議 アメリカではほとんど報道されず

締約国会議が開かれるアメリカは、ロシアに次いで世界で2番目に多くの核弾頭を保有している国で、核兵器禁止条約にも参加していません。

核兵器禁止条約の締約国会議が開催されることについて、アメリカではほとんど報道されることはなく、注目されているとはいえない状況です。

一方、世界で初めて核実験が行われた西部ニューメキシコ州の「トリニティ実験場」が先月一般公開され、1日だけでおよそ4000人が訪れました。

実験場を管理するアメリカ軍の報道担当者によりますと、通常の公開日より多くの人が訪れたということで、背景には、ことし夏、原爆の開発を指揮した学者を題材にした映画「オッペンハイマー」が公開され、改めて注目が集まったためだとしています。

NHKの取材班は、訪れた人たちに、アメリカで開かれる核兵器禁止条約の締約国会議について聞いてみました。

16組20人余りに話を聞きましたが、締約国会議のことを知っていた人はいませんでした。

その核実験場の前では、核実験で健康被害を受けたと訴えている人たちが、訪れた人たちに被害の実態を伝える活動を行っていました。

核実験場から60キロの場所にある村で育ったティナ・コルドバさんは、祖父母と父親をがんで亡くし、みずからも甲状腺がんを発症しましたが、アメリカ政府による十分な調査も行われず、補償も受けられませんでした。

コルドバさんたちは、核実験の被害者への支援も定めている核兵器禁止条約に期待を寄せていて「核実験は、最初の爆発では生き延びることができるかもしれないが、それは終わりの始まりであり壊滅的で誰かが苦しむ。核保有国が核兵器禁止条約の締約国になることを望んでいる」と話していました。

アメリカで核問題教え続ける日本人は

アメリカで若い世代の核軍縮への意識を変えられないかと地道な活動を続けているのが、中西部シカゴのデュポール大学で教授を務める宮本ゆきさんです。

広島市出身の被爆2世で、20年近く核兵器の非人道性について大学で教えてきました。

宮本さんは、核兵器禁止条約の締約国会議を前に、長崎の被爆者団体がアメリカを訪れるのに合わせて今月13日、教え子の大学生たちとの交流の場を設けました。

長崎の被爆者で、現在は被爆者団体の会長も務める朝長万左男さんや、長崎市出身で被爆3世の大学生、山口雪乃さんらが参加しました。

交流のあと、デュポール大学の男子生徒の1人は「本や教室で学ぶのではなく、個人的に人生が変わった人たちから直接、話を聞けて、自分により関連性があるように感じられた。核兵器は、私たちが一緒に暮らすこの世界の人々に実際に影響を与えるものだとわかった」と話していました。

宮本さんは、より若い世代への教育にも力を入れています。

シカゴで教育にあたっているほかの日本人教師らと一緒にプロジェクトを立ち上げ、地元の小中学生に放射線が人体に及ぼす影響などを教えています。

このクラスに臨時講師として訪れた朝長さんが、被爆の影響が長年続く実情を話すと、子どもたちからは当時の周囲の様子などについて具体的な質問が相次ぎました。

最後に、朝長さんが、「みんなが大人になるころには核兵器のない世界になっていてほしい」と語りかけると、子どもたちから拍手が沸き起こりました。

朝長さんの話を聞いた男子中学生の1人は「以前から原爆は非人道的だと思っていましたが、朝長さんが経験したことを知り原爆への反対意見はさらに強くなりました。土地を永遠に破壊する爆弾を使って誰かを殺したいと思うのは非人道的だと思います」と話していました。

朝長さんは「今の段階でこれだけの知識があるということは、将来、核兵器をなくそうという国民的な世論がアメリカで形成されていくときに、重要なベースになると思います」と話していました。

長年、アメリカで核問題を教えてきた宮本さんは、禁止条約の締約国会議がアメリカで開かれることをきっかけに、市民の間で関心が高まることに期待をしていて「次につながるような、すそ野が広がるような議論が行われることを期待しています」と話していました。

締約国会議を前に NGOが現地で集会

締約国会議が始まるのを前にNGOが現地で集会を開き、核兵器廃絶に向けて議論を交わしました。

この集会は、核兵器廃絶に向けた市民社会の機運を高めようと国際NGOのICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンが開き、世界各地で活動を続けるNGOの関係者や広島と長崎の被爆者など、およそ240人が参加しました。

この中では、ICANのメリッサ・パーク事務局長が「核兵器が存在するかぎり、地球上のすべての生命に危機をもたらします。私たちが力を合わせれば、核兵器を廃絶できると確信しています」と述べました。

また、NGO関係者による講演では、条約にアメリカやロシアなど核保有国が参加していないことを念頭に「核兵器廃絶の議論に核保有国をどのように巻き込んでいくべきか」という質問が出たのに対し、「市民社会が声をあげ続けることが大切だ」という意見が出ていました。

集会には、広島で被爆した日本被団協の箕牧智之 代表委員も参加し「核兵器廃絶に関心を持つ人が世界中から集まっていて心強く感じた。会議に合わせて行う証言を頑張りたい」と話していました。

また、長崎で被爆した木戸季市 事務局長は「今の世界情勢は核戦争が起きかねない危機的状況で絶望的になるが、世界の市民が核兵器をなくそうと努力していることは希望で、私自身命をかけて取り組みたい」と話していました。

核兵器禁止条約とは

核兵器禁止条約は、核兵器の開発、製造、保有、使用を禁じる初めての国際条約で、▽核兵器の保有国や核の傘のもとにある国々が参加するための手続きや、▽核実験などによる被害者や汚染された地域への支援なども定めています。

これまでに93の国と地域が署名し、69の国と地域が批准の手続きを終えて締約国となっています。

一方で、アメリカやロシア、中国などの核保有国や、アメリカの核の傘のもとにあるNATO=北大西洋条約機構の加盟国や日本などは、条約に参加していません。

核兵器禁止条約は、従来の核軍縮の枠組みであるNPT=核拡散防止条約などのもとで核兵器の保有国による軍縮が遅々として進まない中、不満を募らせた非保有国が中心となって交渉を進め、2017年に国連で採択されました。

そして、おととし1月、必要な数の国が批准したことを受けて発効し、去年6月にはじめての締約国会議がオーストリアで開かれて、「核なき世界」の実現を呼びかける「ウィーン宣言」などが採択されました。