社会

バス路線 全国8600キロ余が廃止 要因の4割が“運転手不足”

利用者の減少などによるバス路線の廃止が相次ぐなか、廃止の際に会社が国に提出する「届出書」をNHKが情報開示請求をして調べたところ、ことし8月までの1年5か月で、全国で合わせて8600キロ余りの路線が廃止され、その要因として、4割で運転手不足が挙げられていることがわかりました。

国土交通省によりますと、バス会社はバスの運行をすべて取りやめる道路がある場合、事前に、国に対し路線廃止のための「事業計画変更事前届出書」を提出することが義務づけられています。

NHKは、全国9つの運輸局と沖縄総合事務局に情報開示請求を行い、文書が保存されている昨年度と、今年度の8月末までに提出された、路線バスや高速バスなどの乗り合いバスの「届出書」を入手し、その内容を調べました。

その結果、道路工事などによる運行ルートの変更での廃止の場合を除いて、1年5か月の間に全国で合わせて8667キロの路線が廃止されていたことがわかりました。

別の会社によって運行が続けられるケースもありますが、これは、直線距離で、東京から西に向かってポーランドの首都ワルシャワに到達する距離に相当します。

理由は“利用者の減少”や“運転手不足”

廃止の理由については複数挙げる会社が多く、具体的に明記されたものでは最も多いのが利用者の減少で、廃止された総距離の66%で要因とされていて、新型コロナが影響したとするものが目立ちました。

2番目に多いのは運転手不足で41%に上り、来年4月から時間外労働の規制が強化されるいわゆる2024年問題に関係するとしたバス会社もありました。

開示された文書には人口減少や人手不足で現状の形態では事業を維持できなくなるとか、将来に対する不安感から大量の退職者が発生し、生活路線の運行に支障をきたす状況になっているなどと書かれています。

また、法令改正を伴う労働状況改善を控えるなか、需要により即した運行が求められているという記述もありました。

関東と九州が突出

ことし8月末までの1年5か月で廃止されたおよそ8667キロの路線を地域別でみた場合、関東と九州が突出しています。

全国9つの運輸局と沖縄総合事務局に出された「事業計画変更事前届出書」の提出先別では、総距離のうち北海道がおよそ7%、東北がおよそ8%、関東がおよそ36%、北陸信越がおよそ7%、中部がおよそ4%、近畿がおよそ3%、中国がおよそ2%、四国がおよそ6%、九州がおよそ27%、沖縄がおよそ0%となっています。

最も割合の多い36%の関東はおよそ3129キロ、次いで多い27%の九州はおよそ2341キロでした。

課題がより深刻化

運転手不足が課題となるなか、ここ数年、運転手1人当たりの負担が増え課題がより深刻化しています。

乗り合いバスの運転手は2011年度には8万1811人いましたが、2021年度には7万4340人と、10年間でおよそ7500人減りました。

この間、運転手1人当たりの負担は増していて、運転手の人数を10万キロ当たりでみた場合、2011年度は2.7人で、この状態が2019年度まで続きますが、2020年度が2.6人、2021年度は2.4人となっています。

国土交通省によりますと、ここ数年、運転手不足が加速している背景には、新型コロナに伴う需要の落ち込みで新規採用の抑制が行われたことや、いわゆる2024年問題への対応があるとみられるということです。

開示文書から読み取れることは

開示された文書からは、各地のバス会社が、人口減少に伴う需要の落ち込みなどに加え、運転手不足やコロナの影響で苦境に陥り、路線廃止に至ったことが読み取れます。

このうち、北海道の会社は「感染拡大の影響により利用者が大幅に減り、現在は緩やかに回復しているものの、生活スタイルの変化によりコロナ前の状況には戻らないと推測できます。コロナ前から人口減少や人手不足は社会問題となっていたことから、バス業界も現状の形態では事業を維持できなくなると考えています。今後は選択と集中により路線を集約し、満足度の高い路線を作っていくことが生き残る道であると決断しました」などとしています。

山形県の会社は「採用活動は継続的に実施しているものの、離職者が採用数を上回っているため、運転士数の増加には至っていない。長年、休日出勤や長時間労働でなんとか運行を維持してきたが、加速度的に離職者が増加したため、いまの運転士数で運行を維持していくのが困難な状況となっている」などとしています。

また、来年4月から時間外労働の規制が強化される、いわゆる2024年問題への対応を理由に挙げている届け出もあります。

石川県の会社は「近年の課題である乗務員不足についても、このコロナ禍の折、深刻さを増しており、法令改正を伴う乗務員の労働状況改善を控える中、限りある乗務員数、バス台数をより効率的かつ需要により即した運行が求められており、利用の少ない路線、系統については厳しい判断を下すところまで来ているのが現状です」などとしています。

広島県の会社は「深刻な運転者不足に陥っています。そのような中、2024年4月からは働き方改革の一環である運転者の勤務間インターバルなどの改善基準が見直され、実施されます。既存のダイヤを見直し、可能な限り新しい働き方や人員充足率に合わせたダイヤにするものです」としています。

さらに、生活路線を維持するために高速バスの廃止を決断したことがうかがえる記述もあります。

高速バスの廃止を届け出た長野県の会社は「感染拡大による旅客の大幅な減少は、経営に大きな影響を与え、会社の存亡に関わる状況にあります。事業を維持するために人件費のカットなどを行ってきましたが、社員の将来に対する不安感から大量の退職者が発生する事態に陥り、生活路線の運行に支障をきたす状況になっている」などとしています。

専門家「業界の構造的な問題」

東京都市大学 西山敏樹准教授

公共交通の問題に詳しい東京都市大学の西山敏樹准教授は「4割が運転手不足だというのは深刻な状況だ。背景には、賃金が低いため人生設計が難しく、20代から40代の若い世代が入らないというバス業界の構造的な問題がある。今後、運転手不足で廃止になる路線が加速度的に増えると考えられ、いま手を打たないといけない」と指摘しています。

そのうえで「ここ1年間で高速バスの廃止が顕著になっている。高速バスで利益を出して地方のローカル路線を維持するというバス事業の一般的な経営モデルが崩れてきていると言える」と話しています。

対策については「若い世代を定着させるために運転手の給料を公的に支援するというやり方もあると思う。そのためには、バス会社が運転手不足の現状をきちんと情報公開した上で、地域の移動手段をどう守っていくのか、みんなが自分事として考える必要がある。また、支援によってどれだけ運転手が増えて、どれだけ路線を維持できたかを可視化することも大切だ」と指摘しています。

石川県の現場では

全国でバスの運転手不足が深刻になる中、石川県では、ことしの春に金沢市とその周辺である民間のバス路線が1割ほど減便されました。

石川県内では鉄道を運行する「北陸鉄道」が路線バスも運行していますが、慢性的な運転手不足が続き、金沢市とその周辺の地域では去年9月末の時点で定員のおよそ13%が不足する状態になりました。

それまでは運転手の残業などによってこの地域の便数を維持してきましたが、やりくりが難しくなったため、ことし4月に全体の便数のおよそ1割を減らす大幅なダイヤ改正に踏み切りました。

さらに、来年春には運転手の時間外労働を減らすための規制強化によって人手不足が深刻化する「2024年問題」が控えていることから、最終バスの運行時間の繰り上げも検討しているということです。

北陸鉄道の高橋航自動車部長は「時間外労働の規制強化は運転手の労働環境の改善につながりますが、バスのダイヤを維持するのは難しくなります。生活の足を守るためにもこれ以上の減便は避けたい」と話していました。

鉄道の廃線めぐる議論にも影響

こうしたバスの運転手不足は、ローカル鉄道の廃線をめぐる議論まで左右する事態になっています。

石川県の金沢市と白山市を結ぶ北陸鉄道石川線は、年間の利用者数がピーク時の4割ほどの90万人近くにまで減り、赤字の額はここ5年間の合計でおよそ6億円にのぼっています。

北陸鉄道は沿線の自治体とともに石川線の存続について話し合う協議会を開き、一時は、廃線にする代わりに、線路の跡地を専用道路に整備して「BRT」と呼ばれるバスを走らせる案も検討しました。

しかし、沿線の自治体は、北陸鉄道のバス部門が抱えている運転手不足の状況を踏まえて検討した結果、ことし8月に開いた会合でBRTへの転換を断念しました。

石川線は運転士1人で400人を運ぶことができますが、BRTに転換すると運転手1人あたり110人にとどまることから、運転手を確保するのは難しいと判断したのです。

これによって石川線は鉄道として存続することが決まりました。

金沢市 村山卓市長

金沢市の村山卓市長は「公共交通を残そうという意識を地域全体で作っていくことが大事だと考えている。石川線の赤字をどう改善していくかや、利便性をどう上げていくかなどを会社とともに考えていきたい」と話しています。

鉄道の存続 自治体の財政的支援が課題

北陸鉄道石川線は鉄道としての存続が決まりましたが、赤字でも経営を維持できるように、自治体がどこまで財政的な支援をすべきかが課題となっています。

金沢市や白山市など北陸鉄道石川線の沿線自治体は、公金を投入して財政的な支援を行うことを前提とした2つの案を中心に検討しています。

いずれも、北陸鉄道の経営の負担となっている経費を軽減させるものです。

このうち「上下分離」という方式は、沿線自治体が土地や車両を保有することで固定資産税や減価償却費の負担をなくし、設備の維持管理費用も負担するものです。

北陸鉄道は運行に必要な人件費などを負担するだけになります。

もう1つの「みなし上下分離」という方式は、沿線自治体が設備や線路の維持管理費用だけを負担するものです。

この場合、維持管理費用をすべて負担するのか、一部にとどめるのかも議論になります。

沿線自治体は、今後、具体的な負担額を試算した上で、どの方式を採用するか、年内にも決める方針です。

いずれの場合も多額の公金の投入は避けられず、金沢市には市民の一部から否定的な意見も寄せられているということです。

今後は住民の理解が不可欠で、自治体には丁寧な説明が求められます。

こうした中、沿線自治体と北陸鉄道は、経営の改善に向けて利用促進のための新たなプランの検討も進めています。

具体的には、運行本数を増やしたり、利便性を高めるためにキャッシュレス乗車券の普及に努めたりする案などを議論しています。

金沢市交通政策課の近藤陽介課長は「民間の交通事業者になぜ公金を投入するのかという厳しい声もありますが、市民の生活の足を守るためにも行政支援が必要と考えている。具体的な支援のあり方や金額を早急にまとめたい」と話しています。

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