韓国高裁 元慰安婦への賠償裁判で日本政府に賠償命じる判決

韓国の元慰安婦や遺族などあわせて16人が日本政府に損害賠償を求めていた裁判で、ソウルの高等裁判所は原告側の訴えを退けた1審の判決を見直し、日本政府に賠償を命じる判決を言い渡しました。

日本政府は国際法上の「主権免除」の原則から裁判に出席しておらず、最高裁判所に上告しなければ判決が確定することになります。

韓国の元慰安婦の女性や遺族などあわせて16人は「精神的、肉体的な苦痛を強いられた」として、日本政府に対し、1人当たり2億ウォン、日本円で2200万円余りの損害賠償を求めています。

おととしの1審判決は「国際慣習法や韓国の最高裁判所の判例にのっとり、外国の主権行為について損害賠償の訴えは認められない」として、主権国家がほかの国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則が適用されると判断し訴えを退けたため、原告側が控訴していました。

23日、2審のソウル高等裁判所は「国際慣習法上、韓国の裁判所での裁判権を認めるのが妥当だ。朝鮮半島で原告を動員する過程での不法も認められ、慰謝料を支払わなければならない」と指摘し、「主権免除」の原則は認められないという判断を示しました。

そして、訴えを却下した1審判決を見直し、日本政府に対して請求どおり1人当たり2億ウォンの賠償を命じる判決を言い渡しました。

日本政府は「主権免除」の原則から、訴えは却下されるべきだとして裁判には出席しておらず、最高裁に上告しなければ23日の高裁判決が確定することになります。

上川外相「断じて受け入れることできず」

今回の判決を受け、上川外務大臣は談話を発表しました。

この中では、「今回の判決は国際法と日韓両国間の合意に明らかに反するもので極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない」としています。

そして、韓国に対し、「国家としてみずからの責任で直ちに国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講ずることを改めて強く求める」としています。

外務事務次官 韓国の駐日大使を呼び抗議

今回の判決を受け、外務省の岡野事務次官は23日、韓国のユン・ドンミン駐日大使を呼び、判決は極めて遺憾だとして、抗議しました。

この中で、岡野次官は韓国のユン・ドンミン駐日大使に対し、「国際法上の主権免除の原則の適用が否定され、原告の訴えを認める判決が出されたことは極めて遺憾であり、日本政府として判決を断じて受け入れられない」と述べ、強く抗議しました。

そして、慰安婦問題を含む日韓間の財産・請求権の問題は1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みだとして、韓国政府に対して国際法違反を是正するために適切な措置を講じるよう求めました。

1審判決は裁判ごとに判断分かれる

慰安婦問題をめぐる裁判で被告となった日本政府は、主権国家はほかの国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則から、一貫して裁判に出席してきませんでした。

そうした中で、これまで言い渡された1審判決では裁判ごとに判断が分かれました。

今回の裁判の1審判決はおととし4月に言い渡され、原告側の訴えが退けられましたが、同様に日本政府に賠償を求めた別の原告団の裁判では、おととし1月にソウル中央地方裁判所が「計画的かつ組織的に行われた反人道的な犯罪行為だ」として、「主権免除」の原則が適用されないという判断を示し、日本政府に対して賠償を命じました。

これに対し、司法手続きに応じない日本政府が控訴しなかったため判決が確定し、原告側は韓国国内にある日本政府の資産の差し押さえに向けた手続きに着手しましたが、日本側は対応していません。

原告「判決に沿った法的賠償を」

判決について、原告の1人のイ・ヨンスさんは記者会見で、「長い裁判だったが、やっとこういう判決が出た。日本は原告らに対して心から謝罪し、判決に沿った法的賠償をすべきだ」と述べました。