ベビーカーでエスカレーターは危険 でもエレベーターは乗れず

ベビーカーでエスカレーターは危険 でもエレベーターは乗れず
「エレベーターに乗るのを諦めて、やむをえずエスカレーターを利用しています」

NHKのニュースポストに寄せられた、ベビーカーの母親の声です。

「電車を乗り継いで、娘の病院に通っています」

ベビーカーでのエスカレーター。
そこには危険がいっぱい。

でも、どうすればいいの?

(大阪放送局 記者 井上紗綾 的場恵理子)

待っても乗れない

声を寄せてくれた奈良市の花田美波さん。

生後4か月の娘は、まだしっかりと首がすわっていません。
口の周りには医療器具を付けています。

日常の動作に気をくばる必要があり、だっこひもに入れる際も、医療器具が当たってけがをしないよう、首を支えながら慎重に進めます。

娘の治療のために月に2回、2時間近くかけて大阪の病院に通っていて、安全な移動にはベビーカーが欠かせません。

ところが、駅のエレベーターがいつも混雑していて乗れないといいます。
花田美波さん
「駅のホームから、エレベーターを待つ人がたくさんいます。通院を始めたばかりの時期でしたが、5分、10分は粘ったのかなあ。それでも乗れなかったので、その後は乗るのを諦めています」
私たちは、花田さん親子の通院に同行しました。
JR大阪駅につく2駅前の電車内。

通勤・通学の時間と重なり満員です。
立っていると隣の人と肩が触れてしまうくらい。

この状況で、花田さんは娘をベビーカーからだっこひもに移し替え始めました。

そもそもエレベーターに乗ることは諦めているため、エスカレーターに乗る準備をしているのです。

階段を使える人も?

電車は大阪駅に到着。

一応、エレベーターを見に行くと、たしかに混雑しています。

一見して分からない障害や病気もあるので断言はできませんが、見たところ、エスカレーターや階段を使えそうな人もいました。

「しかたがないですね」とつぶやいた花田さん。

いつものようにエスカレーターに向かいます。
左手で娘の首を支え、右手でベビーカーを持って、エスカレーターに乗ります。

何かあって転んでも手をつくことはできません。
こうした移動をJR大阪駅での乗り換えだけでも複数回繰り返さなくてはなりません。

JR西日本は「必要なお客様がエレベーターを優先的に利用できるよう呼びかけている」とコメントしています。
花田さんは余裕をもって家を出ていますが、娘は3時間おきに授乳が必要。

今より早く出発すると、途中で授乳の時間になってしまいます。
花田美波さん
「エスカレーターでも行けそうな方は、やっぱり譲ってほしいと思いました。他の施設でも、満員のエレベーターが来て、中にいる人が誰も譲ってくれないと、悲しい気持ちになりますね」

エスカレーターには危険が

混雑しているエレベーターを諦めて、やむをえずエスカレーターに乗るケースは決して少なくありません。
こうした中で、事故も相次いでいる実態が取材で浮かび上がってきました。

大阪府では、条例に基づき、エスカレーターなど特定の設備で事故があった場合、管理者などに届け出を求めています。

この届け出についてNHKが調べたところ、ベビーカーや車いすがエスカレーターで転倒するなどして人がけがをした事故が、2022年度までの10年間に、あわせて35件あったことがわかりました。
このうち、ベビーカーが関わる事故は26件、車いすが関わる事故は9件ありました。

去年12月には、ベビーカーが転倒して乗っていた男の子が顔を打って歯を折るなどのけがをする事故が起きています。

業界団体は、事故のおそれがあるとして、ベビーカーや車いすではエスカレーターに乗らず、安全に移動できるエレベーターを利用するよう呼びかけています。

どうすればいいの?

とはいえ、ベビーカーや車いすの人に注意を呼びかけるだけでは、問題は解決しません。

どうすればよいのか?対策を提案している当事者もいます。

東京のグラフィックデザイナーで車いす利用者の女性。「さしみちゃん」という名前で活動しています。
エレベーターを待つことは「日常」。

雨の中で30分以上待った経験もあるといいます。

SNSを通じて、そんな日常の発信を続けています。
さしみちゃん
「決してわがままを言っているんじゃないんです。車いすやベビーカーは、上下に移動するための選択肢がエレベーターの一択しかない。そこはみんなに知ってほしいし、考慮してほしいです」

“譲りやすい”行動の後押しを

こうした中、うれしい出来事があったといいます。

混雑するエレベーターに乗れずに困っていたところ、先にエレベーターに乗っていた若者数人がさしみちゃんに気付き、エレベーターを降りて、スペースを譲ってくれたのです。

その場所がこちら。
横浜市の商業施設、横浜ビブレのエレベーターです。

車いすなどの優先表示が、エレベーターの表側だけでなく、内側にも大きく目立つ形で記されていました。

若者たちは、この表示を見て、降りてくれたのだといいます。
さしみちゃんはこの経験などをもとに、ことし春からオンラインの署名活動を始めました。

必要とする人たちのため、エレベーターの優先表示を徹底するよう求めるものです。

すでに1万人を超える賛同が集まっています。
さしみちゃん
「車いすの人やベビーカーの人がいると気づいても、とっさに譲るなどのアクションを一瞬で起こすのは難しい場合もあると思います。そうした人たちの行動の後押しになるような表示を広めていきたいです」

フロア直通の専用エレベーターも

一方、ベビーカーのための工夫を行っているデパートもあります。

大阪・天王寺区の近鉄百貨店上本町店にあるこのエレベーター。

「赤ちゃんエクスプレス」と名付けられています。

店内のエレベーターのうち1台を、子ども用品を扱うフロアへの直通にしているのです。

ほかの階に止まらないため、混むことが比較的少なく、ほとんど待たずに乗れると子育て世帯から好評だといいます。
利用者
「ほかの店では、上の階のレストランから降りてくるお客さんとかが結構多いので、子どもフロアから乗るのは難しいです。こういうエレベーターがあると、このデパートに行こうという気持ちにもなるし、めちゃくちゃありがたいです」
ほかにも大阪の多くの主要デパートでは、エレベーターにスタッフを配置して、必要な人への優先利用を直接呼びかけています。

しかし、一般の人から「並んでいるのに不公平だ」とクレームを受けることもあるそうです。

「取材には応じられない。取り組みを紹介されると、さらなる反発を招くおそれもある」と悩みを打ち明けてくれた担当者もいました。

解決に向けた難しさを感じました。

必要な人にとっては“ONLY WAY”

エレベーターは多くの人にとって「EASY WAY(楽な移動手段)」

しかし、必要な人にとっては「ONLY WAY(唯一の移動手段)」

エレベーターを利用するとき、少し立ち止まって周りを見てみませんか?

誰もが安心して移動できるよう、引き続き取材していきます。

(11月10日に「ほっと関西」で放送)

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