【最新】解任のアルトマン氏が復帰!ChatGPTどうなる?

【最新】解任のアルトマン氏が復帰!ChatGPTどうなる?
ChatGPTを開発し、生成AIブームをつくりだしたアメリカのベンチャー企業「オープンAI」。11月17日に会社の顔であるサム・アルトマンCEOが突如、取締役会から解任されました。それからわずか5日、会社はアルトマン氏がCEOに復帰することで合意したことを明らかにしました。シリコンバレーに走った激震、何が起きたのか、この先どうなるのか、見通します。

(アメリカ総局記者 江崎大輔/国際部デスク 豊永博隆)

※11月22日時点の最新情報に更新しました。

アルトマン氏 復帰で合意

衝撃的な解任からわずか5日。「オープンAI」は11月21日夜遅く、旧ツイッターのXでアルトマン氏がCEOに復帰することやほかに3人の取締役を決めたことで合意したことを明らかにしました。

経営を監督する取締役会のメンバーとして、今も取締役を務めるアダム・ディアンジェロ氏のほかに、ラリー・サマーズ元財務長官、それにIT大手セールスフォースの元CEOのブレット・テイラー氏という大物を新たにメンバーに加え、統治機能を強化することをアピールしているようです。

SNSで、会社は「詳細については協力して対応していく。今回のことではご迷惑をおかけした」と、さすがに会社としてもこの5日間が大混乱であったことを認めているかのような表現です。

突然の“解任”辛辣な文章

ChatGPTのサービスを提供する「オープンAI」がアルトマンCEOの退任を発表したのは2023年11月17日(金)。突然の発表で、シリコンバレーに激震が走りました。

プレスリリースを読み込むと奇妙なことに気がつきます。
普通、CEOの退任となれば、いくら英語文化がストレートな表現を好むとはいえ、儀礼上、その人物の貢献などが書き出しで示されるものです。

しかし、2段目のパラグラフは後任として暫定的なCEOについたミラ・ムラティ最高技術責任者がどんな立派な人物かを記す内容。

そして、そして次に辛辣(しんらつ)に近いストレートな表現で以下のように書かれています。
「アルトマン氏の退任は取締役会の検討プロセスを経たもので、取締役会との意思疎通において一貫して率直さを欠き、取締役会の責任遂行を妨げたとの結論にいたった。取締役会は、アルトマン氏がオープンAIを率いる能力に確信をもてない」
そして、ミラ・ムラティ氏こそが会社の調査、製品、安全機能を取りしきるリーダーとして適任だとしています。

この「調査、製品、安全機能」ということばに取締役会の思いが込められているように読み取りました。

このことは後で詳しく説明します。

急成長する生成AI

オープンAIがChatGPTの無料サービスを公開したのは2022年11月30日。

まもなく1年になります。
まるで人間が書いたかのような自然な表現で、高度な内容も短時間で回答できるとして、世界に衝撃が走りました。

公開からわずか5日で100万ユーザーに到達したとの調査もあります。
これはインスタグラムが2か月半、フェイスブックが10か月、旧ツイッターが2年かかったのと比べても圧倒的な早さであることが分かります。

短時間で決まった解任動議

なぜ、アルトマン氏は解任されたのか?内情は詳しくは分かりませんが、オープンAIの社長でアルトマン氏の右腕だったグレッグ・ブロックマン氏(同氏も今回の騒動でみずから社長を辞任すると表明)が旧ツイッターの「X」にそのいきさつを記載しています。

それによりますと次のようになっています。
11月16日夜
アルトマン氏はオープンAIの共同創業者で取締役の1人であるイリヤ・サツキバー氏から17日の正午に話をしようというメッセージを受け取った。

11月17日昼
アルトマン氏が17日正午のオンライン会議に参加すると、ブロックマン氏を除く取締役の全員が会議に参加していた。
サツキバー氏がアルトマン氏に対して解任を伝えた。

11月17日 12:19pm
ブロックマン氏はサツキバー氏から電話をすぐくれとのメッセージを受けた。

11月17日 12:23pm
サツキバー氏はオンライン会議のリンクを送った。
会議でブロックマン氏は取締役を解任されたと伝えられた。
取締役会での解任動議が短時間に行われているようすが伝わります。

解任の原因は権力闘争の末?

アルトマン氏の解任をめぐってはさまざまな報道が飛び交っています。
アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは11月17日、「アルトマン氏は、解任後、取締役会の決定についてショックを受け、怒りを感じたとある人物に語った。そして取締役会のメンバーとの間の権力闘争の結果だと感じたと語った」と報じました。

さらに、関係者の話として、「取締役会と緊張が高まった原因の1つは、サービスの急速な拡大の一環として展開した製品の安全性が十分に考えられているかという点だった」と伝えています。

生成AIのビジネス展開と安全性をめぐる確執か

これまでのさまざまな情報を総合すると、取締役の1人であるイリヤ・サツキバー氏が解任を主導した中心人物として浮かび上がります。
サツキバー氏はソビエトで生まれ、イスラエルで育ち、10代でカナダに移住したとされています。

カナダのトロント大学でAIの世界的な権威として知られるジェフリー・ヒントン博士とともに研究を重ね、AIの機械学習の専門家として知られるようになります。

2015年に当時働いていたグーグルを離れ、アルトマン氏らとともにオープンAIを設立した時には、グーグルや他の会社と違って、オープンAIは商業的な動機では動かないと語っていたといいます。

有力紙、ニューヨーク・タイムズによれば、ChatGPTの人気によってアルトマン氏がテクノロジー業界で最も知られる経営者の1人となっていきましたが、その成功が社内の緊張を高めたといいます。

サツキバー氏は、オープンAIの技術が危険になりうること、アルトマン氏がそのリスクに十分に注意を払っていないことに懸念を強めるようになっていくとともに、彼の社内での役割が小さくなっていることに反対していたとも伝えています。

複雑な組織構造

路線対立とも受け取れるオープンAIの社内事情。

話を複雑にしているもう1つの要因として会社の複雑な構造が指摘されています。
オープンAIは2015年にサンフランシスコに設立されましたが、もともとはAIの開発と普及を目指すための非営利の研究機関でした。

アルトマン氏は当時、スタートアップ企業に資金を出したり、経営の助言をしたりするアクセラレーター、「Yコンビネーター」の社長として、オープンAIの創業に関わりました。

しかし、研究を進めるうえで資金調達などに苦労したことを受けて、2019年に営利企業へと転換したのです。

こうした経緯もあることから、取締役会が監督する非営利の組織が民間企業であるオープンAIを監督する二重構造になっています。
安全なAIの開発や普及に力を入れることに力点を置く取締役会と、ビジネス優先・営利を追求するアルトマン氏とのあいだで意見の相違があったことは容易に想像できます。

冒頭で書きましたように、プレスリリースに「調査、製品、安全機能」を強調していたことの背景には、AIの安全機能を重視する取締役会、もっというとサツキバー氏の思いが込められていたのではないでしょうか。

そのサツキバー氏はどういうことか、アルトマン氏の復帰を求める書簡に署名したと伝えられ、20日、自身のSNSに「取締役会の行動に参加したことを深く後悔しています」と解任の決定に加わった行動を悔いるようなコメントをつづっています。かなりの動揺があったのではないかと推察されます。

復帰を働きかける投資家

アルトマン氏の解任後、さまざまな動きが報じられています。

会社が混乱していることに懸念を示しているのは投資家たちです。

オープンAIに多額の投資を行っているマイクロソフトやベンチャーキャピタルのスライブ・キャピタルなどがアルトマン氏の復帰を働きかけるべく動いていることが報じられました。

11月19日、SNSのXにアルトマン氏は、ゲストパスを持つ顔写真を公開。
「これを着用するのはこれが最初で最後だ」と投稿し、復帰に前向きとも受け取れる発言です。

一方、オープンAIの取締役会はアルトマン氏の復帰に同意せず、動画配信サイト「Twitch」を運営する会社を経営していたことで知られるエメット・シア氏が暫定CEOについたと報じられました。

マイクロソフトが手を差し伸べる

そして、11月19日深夜、日本時間20日夕方になって、なんとマイクロソフトがヘッドハントに動き出しました。

アルトマン氏と、社長で取締役を解任されたグレッグ・ブロックマン氏がマイクロソフトに入社することをマイクロソフトのサティア・ナデラCEOが19日、SNSのXに投稿したのです。

2人は新たに設置する先進的なAIの研究チームを率いるとしています。また、協業関係にあるオープンAIとは新CEOのもとで今後も協業を続けていくとしています。

社員がほぼ全員辞める?

11月20日には今度は社員たちが動きだします。アルトマン氏が復帰しなければ退社し、マイクロソフトに移る可能性があるとする会社宛の書簡に、およそ770人いる社員のうち、全体の9割を超える700人以上が署名したのです。

書簡では次のように書かれています。「取締役会の行動は、オープンAIを監督する能力がないことを明白にした。私たちは、能力、判断力、そして私たちの使命と従業員への配慮に欠ける人たちのために、そしてそういう人たちと一緒に、働くことはできない」

痛烈に取締役会を批判し、解任されたアルトマン氏と社長だったブロックマン氏の復帰と、すべての取締役の辞任を求める内容でした。

アルトマン氏が会社に復帰することで、元の形に戻ることになりますが、果たして経営が正常化するかはまだ見通せません。

AIの安全性とビジネス拡大を巡り、これまでの取締役たちとアルトマン氏との激しい対立が報じられています。新たに任命された大物取締役がどのような仕事をするのかが大きな焦点になりそうです。

また、根本的には会社の二重構造を解消しないと意思決定の複雑さは残ることになるように思います。

革新的なテクノロジーだからこその対立か

小さいベンチャー企業から、世の中にない新しいテクノロジーを生み出すシリコンバレーの企業はこれまでも経営をめぐり、内紛や辞任がたびたび起きてきました。

古くはアップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏も一度は会社を追われました。

起業家のイーロン・マスク氏も経営していた電子決済のペイパルから追い出され、そのときの反骨心から旧ツイッターを買収し、今、思いを実現しようとしているとも言われています。
アルトマン氏の解任は生成AIという革新的なテクノロジーが急成長する過程で起きています。

生成AIはビジネスや人々の暮らしにとっていいことばかりではなく、誤った情報の拡散やフェイク、雇用の喪失などさまざまな負の面もかかえています。

それだけ大きな変化を生むテクノロジーだからこそ、意見の対立も大きく、今回の解任劇につながったように感じています。

(11月20日の「おはBiz」で放送)
アメリカ総局記者
江崎 大輔
2003年入局
宮崎局、経済部、高松局を経て現所属
国際部デスク
豊永 博隆
1995年入局
経済部、アメリカ総局(ニューヨーク)、おはBizキャスター、大阪局デスク、経済部デスクを経て現職