アジアプロ野球CS 日本が2連覇 韓国にサヨナラ勝ち

野球の国際大会「アジアプロ野球チャンピオンシップ」は19日夜決勝が行われ、日本が延長10回、巨人の門脇誠選手のサヨナラヒットで韓国に4対3で勝ち、大会2連覇を果たしました。

日本代表が劇的勝利で大会連覇

「アジアプロ野球チャンピオンシップ」は東京ドームで行われ、日本、台湾、韓国、それにオーストラリアの4チームが若手選手を中心に構成された代表メンバーで戦い、予選リーグを3連勝で1位通過した日本は19日夜、決勝で予選2位の韓国と対戦しました。

日本は3回に2点を先制され、今大会、初めてリードを許す展開となりましたが、5回、4番のDeNA、牧秀悟選手がソロホームランを打って1点差に迫ると、6回には阪神の佐藤輝明選手の犠牲フライで同点に追いつきました。

5回以降、日本は3人の投手リレーで韓国打線に得点を許さなかったものの、打線が勝ち越すことができず、試合は延長に入りました。

延長10回からはノーアウト一塁二塁から始まるタイブレークが採用され、日本は5人目のヤクルト、吉村貢司郎投手が相手の攻撃を1失点にしのぎました。

そのウラの攻撃で、5番の広島、坂倉将吾選手の犠牲フライで同点に追いつくと2アウト満塁から7番の巨人、門脇選手がレフト前にタイムリーヒットを打って日本が4対3でサヨナラで勝ちました。

日本は、先月就任した井端弘和監督の初陣となった今大会で負けなしの4連勝と強さを見せ、優勝を果たしました。日本は2017年の第1回大会に続く大会2連覇です。

《日本代表 選手・監督談話》

ソロホームランの牧「なんとか得点になってよかった」

5回に反撃のソロホームランを打ったDeNAの牧秀悟選手は、3回に自分のエラーから先制されたことに触れ「自分のミスから失点に絡んでしまった。なんとか2アウトからだったが得点になってよかった」と話しました。

今大会、若手中心に編成されたチームの中で25歳の牧選手は周りから「キャプテン」と呼ばれていたということで「年下のメンバーが多かったので、のびのびとやれるようにと考えていた。のびのびとやってくれてよかった」と話していました。

そして大会を振り返り「勝てたのはよかったが、個人としてはもう少し緊張感のある、大事な短期決戦のときに打てるように準備していきたい」と話しました。

サヨナラヒットの門脇「監督の声かけで初心に」

4試合すべてにセカンドでフル出場し、決勝ではサヨナラヒットを打って大会のMVPに選ばれた巨人の門脇誠選手は、試合後の会見で「初めての日の丸で緊張することが多かったが、持ち味を出せたのはよかった。MVPは最後に打てたからというだけで、それまでにチャンスで打てなかったことを反省して次につなげたい」と話していました。

また、井端監督から打席に入る前に声をかけられたことについて「ひとこと頂いていつも通り初心に戻れたのが大きかった。結果で恩返しができてよかった」と感謝していました。

そして、今後の日本代表への思いを聞かれると「さきざきの国際大会を見ていくのではなく、毎日やるべきことを積み重ねた結果、選ばれたらいいと思う」と、これからも地に足をつけてプレーしていく考えを示しました。

井端監督「誰もあきらめなかった」

日本代表の井端弘和監督は、「非常にたくさんのファンの前でこうやって勝つことできて非常にうれしい。ほっとしているし、選手の頑張りで勝つことができたので選手に感謝している」と笑顔で話していました。そして、韓国に先制され追う展開となった試合展開について「誰も諦めなかった。勝つことだけをみんな思ってやっていた。0対2から牧選手のホームランからベンチの雰囲気変わった」と振り返りました。

延長でサヨナラヒットを打った巨人の門脇誠選手については「最後は彼らしくセンター方向中心に打ち返してくれた。さすがのバッティングでよかった」とたたえました。また、今後に向けて「今回は若い選手で臨み、この大会を通じて国際大会の難しさを経験でき、成長につながると思う。来年は『プレミア12』もあるので1人でも多く代表に入ってもらいたい」と、今大会の優勝メンバーたちに期待を寄せました。

さらに試合後の会見でも、延長10回に門脇選手が打席に入る前にどんな声かけをしたのか聞かれ「空振り三振した前の打席で強引に引っ張りにいっていると感じたので、『いつも通りセンター中心に打っていこう』と話をして、力まないようにいいところを引き出そうとした。声かけよりも実際に打つことができることがすごい」と話していました。

また、1点を追う延長10回のタイブレークで、西武の古賀悠斗選手に代打でバントを指示したことについて「きょうの練習でもタイブレークでのバントはあると伝えていたが、人生で一番緊張したのではないかと思う。自分もオリンピックの予選で同じ経験をしたが、それに勝るものはなかった。しっかり決めてくれたことは感謝しかない」と話し、初球で送りバントを成功させサヨナラ勝ちのきっかけを作ったプレーをたたえていました。

そして「プレミア12やWBCではトップ選手も入ってくるので、これからどれだけ成長できるかが大事だ。欲を言えば半分以上が代表に入ってきて欲しい」と期待していました。

《新たな代表へ「井端カラー」も》

宮崎市で行われた強化合宿の直前には、アテネオリンピックの予選で日本代表の監督を務めた長嶋茂雄さんから「栗山さんとは違う『新しいジャパン』を作ってくれ」と激励の電話をもらったという井端監督、このことばで「気持ちが楽になった」と、今回のチームの中では随所に「井端カラー」も見えました。

栗山英樹前監督は、選手を信じて起用するという信念を貫いてWBCで優勝を果たし、井端監督も常々、取材で「選手を信頼することが大事」と話していました。

2人とも選手とコミュニケーションを密にはかるスタンスは変わりませんが、栗山前監督は選手のプレーやふだんの何気ないしぐさまでじっくり観察し、見守ることが多い“静”のイメージに対し、井端監督は選手とともにノックを受けたり、時には率先してバッティングピッチャーを務めたりして、みずから動いてより身近に選手のプレーをチェックするなど“動”の姿で指導する様子が何度も見られました。

48歳と選手と年齢も近く、文字どおり積極的に育成にも注力する井端監督ならではのカラーとも言えます。

ショートでゴールデン・グラブ賞を7回受賞した名手の井端監督から直接、指導を受けて全4試合にショートでフル出場し、ノーエラーだった広島の小園海斗選手は「試合でも教えてもらったことを継続してできているし、感覚も変わってきている」と手応えを口にしていました。

このことについて井端監督は「選んだ選手はシーズンのいいところも悪いところも見ているし、合宿や試合でも見ていたので、門脇選手がいつもと違っていたから声をかけた」と冷静に話していましたが、指揮官の選手ひとりひとりへのまなざしが結果につながったシーンでもありました。

その井端監督が日本代表の強化合宿初日のミーティングで選手たちに伝えたことばです。

「2017年の前回大会から5人がWBCに選ばれている。ここでの経験を生かしてプレミア12や次のWBCにつなげてほしい」

「育成」「勝利」の両立を掲げて臨んだ国際大会。ことし優勝を果たしたWBCを経験したのは牧秀悟選手だけで、ほとんどの選手が初選出という顔ぶれでした。連覇が期待されていましたが、単純に優勝すればいいというわけではなく「国際大会でのヒットは自信につながる。打っても打たなくてもその打席を次につなげて欲しい」と、この大会を未来の日本代表を担う若手の台頭のきっかけにしたいと考えていました。

その意図は、初めての采配となった予選リーグ初戦の台湾戦に表れました。6回途中まで1人のランナーも出せない苦しい展開となった試合。7回に阪神の森下翔太選手のソロホームランでなんとか先制した直後の8回でした。先頭バッターがヒットで出塁し、何としても追加点が欲しい場面。送りバントでチャンスを作るという手堅い選択肢もある中で、ヒッティングを選びました。

結果は無得点に終わりましたが、第2戦の韓国戦、第3戦のオーストラリア戦でも、先頭バッターが出塁しても送りバントを命じることはありませんでした。

予選リーグを振り返って、送りバントがなかったことについて「全く意図しないというわけではなく、結果的にバントのケースがなかった」と説明しましたが、育成に重きを置く思いをのぞかせる指揮でもありました。

その一方で、より重圧のかかる決勝では「勝利」を最優先に求めた戦い方を見せました。バッテリーはいずれも「オーバーエージ枠」で選び、実績のある西武の今井達也投手と広島の坂倉将吾選手を起用。今大会、初めて追いかける展開となった1対2の6回、ノーアウト二塁の場面では巨人の門脇誠選手に大会初となる送りバントのサインを出し、犠牲フライでの同点に結びつけました。

さらにタイブレーク方式の延長10回ウラ、ノーアウト一塁二塁から始まった場面では、1点を追う場面で森下選手に代わって西武の古賀悠斗選手の「代打バント」をサヨナラ勝ちにつなげ、状況に応じた柔軟な采配を見せました。

延長での戦術について井端監督は「タイブレークでなく、試合の流れの状況なら森下選手に打たせていたかもしれない。タイブレークなら1点差なら代打バント。2点差なら森下選手に打たせると決めていた」と臨機応変に対応策を考えていたことを明かしました。

関係者によりますと、プレーオフまで戦ったチームや長いシーズンを初めてプレーした若手投手に関しては、各球団の意向もあって内々で辞退したケースもあったということで「オーバーエージ」枠には経験豊富なピッチャー2人を充てました。

田口麗斗投手(ヤクルト)

選出したときから、ヤクルトの田口投手に抑えを、西武の今井投手に決勝の先発を任せると決めていたといいます。勝敗を左右する重圧のかかるポジションを実績ある投手に託し、経験の少ない若手が思いきってプレーしやすい環境を整える準備も怠りませんでした。

今井達也投手(西武)

12歳以下の日本代表で監督を務めた経験から、厳しい場面でも「のびのびプレーして欲しい」と考える井端監督の「育成」への思いと、厳しい戦いの中でも最善の策で「勝利」をもぎとっていくという2つの目標を追い求める中での周到な用兵とも言えました。

強化合宿から優勝をつかんだ大会までのおよそ2週間、チームを率いて優勝を果たした井端監督は「向上心も忘れず、上を目指す選手たちを見て、未来のプロ野球は明るいと思った。成功した選手も失敗した選手もいると思うが、この経験をシーズンに生かして日の丸を背負うという気持ちでやってくれたら、もっと日本は強くなる」と確かな手応えを感じていました。

大会では、予選リーグの3試合ですべての選手を起用するなど狙い通りに経験を積ませ、勝利だけでなく若手の成長も見据えながら優勝を果たしました。

随所ににじんだ「井端カラー」の中で国際大会のプレッシャーに打ち勝ち、優勝をつかみとった26人の若手メンバーたち。貴重な経験を生かし、3年後、2連覇がかかったWBCで日の丸を背負って活躍する姿が期待されます。