来年度税制改正 自民・公明の税制調査会が総会 本格的議論開始

来年度の税制改正に向けて、自民・公明両党の税制調査会は総会を開き、本格的な議論を始めました。定額減税の制度設計や防衛費の財源確保に向けた増税の開始時期などが焦点で、自民党の宮沢税制調査会長は、来月半ばまでに与党の税制改正大綱をまとめる考えを示しました。

自民 来月半ばまでに与党の税制改正大綱まとめる考え

自民党の税制調査会は、宮沢会長のほか、甘利前幹事長、林前外務大臣らおよそ60人が出席して、党本部で総会を開きました。

冒頭、宮沢氏は「ことしは盛りだくさんで、所得税の減税だけでなく賃上げ税制や外形標準課税といった重い課題がある。大所高所から質の高い議論を行い、しっかりとした結論を導き出したい」と述べました。

そして会合では、政府側から経済情勢や税収の動向などについて説明を受け、来年度の税制改正に向けて本格的な議論に入りました。

税制調査会では、来年6月にも実施される、所得税などを1人当たり4万円差し引く定額減税の制度設計が議論される予定で、減税の回数や所得制限を設けるかどうかが焦点となります。

一方、防衛費の財源確保に向けた増税については、来年度は見送るものの、再来年度以降いつ開始するか検討される見通しです。

宮沢氏は記者団に対し「本格的に作業を進め、来月半ばまでには仕上げていきたい」と述べ、来月半ばまでに与党の税制改正大綱を取りまとめる考えを示しました。

低所得者への給付や子育て中の世帯への支援を検討

所得税と住民税の定額減税に関する与党の税制調査会での議論と並行して、政府は、減税とあわせて実施する低所得者への給付について具体的な検討を進めます。

まず、住民税が非課税となっている世帯には1世帯当たり7万円を給付する方針です。

また、住民税は納めているものの所得税は納めていないという人たちの世帯にも、住民税の非課税世帯と同じ水準を目安に給付を行います。

子育て中の世帯には支援の上乗せも検討する方向です。

さらに、年間の納税額が1人当たり4万円に届かず定額減税による還元が十分受けられない人に対しても、自治体などを通じて適切な支援を行えるよう、ことし中に具体策をまとめる方針です。

扶養控除の見直しも焦点

政府が少子化対策として行う児童手当の拡充に伴って、所得税や住民税の扶養控除の見直しも焦点となります。

政府は少子化対策の強化に向けて、児童手当の支給対象を18歳までの高校生などにも拡大する方針です。

現在、こうした年代の親族を扶養している場合、課税対象となる所得から、所得税は年間38万円、住民税は年間33万円が控除=差し引かれています。

一方で、児童手当がすでに支給されている15歳までの子どもについては、所得税と住民税の扶養控除の対象になっていません。

いまの制度との整合性の観点から、来年度の税制改正に向けた議論では、新たに児童手当が支給される18歳までの扶養控除を見直すかどうか検討される見通しです。

この中では、扶養控除の見直しに伴う税負担の増加をどう考えるかが焦点となります。

例えば夫婦のうち1人が働き、高校生1人を扶養している世帯で、仮に月1万円、年間12万円の児童手当を受け取ることになり、扶養控除がすべて廃止されたと想定します。

この場合、課税対象の所得がおよそ900万円を目安として、それより所得が高ければ、受け取る児童手当より税負担が重くなるという試算もあります。

夫婦の働き方や子どもの数などによっても変わってきます。

また、「対象の年代は教育費などの支出が多いことを考慮する必要がある」などと、控除をすべて廃止することに慎重な声も出ています。

こうした課題や意見を踏まえ、扶養控除をどこまで縮小するのか検討が進められる見通しです。

「賃上げ税制」の拡充も検討

賃上げの流れを後押しするため、「賃上げ税制」の拡充も検討されます。

現在の制度では、大企業や中堅企業が、継続して働く従業員の給与やボーナスの総額を前の年度より3%以上増やした場合、従業員全体の給与などの増額分の15%が法人税額から控除=差し引かれます。

賃上げ率の上乗せや従業員の教育訓練費の増額を条件に、控除額は増額分の最大30%まで認められています。

中小企業では、従業員全体の給与やボーナスの総額を前の年度より1.5%以上増やした場合、増額分の15%が法人税額から控除されるなど、増額分の最大40%まで控除が認められています。

この税制の期限は来年3月末となっていて、期限の延長や、基準となる賃上げ率の見直しが議論される見通しです。

物価上昇が続く中、より高い賃上げを促す必要があるとして、大企業の場合、賃上げ率の基準を5%以上に引き上げるべきだという意見も出ています。

一方、財務省の調査では、昨年度、賃上げ税制の優遇を受けたのは全法人の8%程度にとどまっています。

中小企業の6割程度が赤字で、法人税を納めていないことが要因のひとつとされ、実効性の乏しさが指摘されています。

このため、基準を超える賃上げを実施したものの赤字となった場合、その後、黒字を計上した年に控除額を繰り越せる措置を設ける方向で検討が進む見込みで、繰り越しを何年間認めるかが焦点のひとつとなります。

また賃上げとあわせて、女性活躍や子育て支援の環境整備を進める企業に対し、さらなる優遇を認める措置を設けるかどうかも議論される見通しです。

企業の成長や投資促すための税制措置も検討

日本経済の成長力の底上げが課題となる中、新たな経済対策に盛り込まれた企業の成長や投資を促すための税制措置も検討されます。

【戦略分野国内生産促進税制】
その1つが、脱炭素や経済安全保障の観点から重要となる「戦略物資」の国内生産を促す税制です。
初期の設備投資や維持にかかるコストが高くても、国として戦略的に重要な物資を国内で生産する企業に対して、法人税を優遇する措置を新たに設ける方向で議論が進む見込みです。
半導体や蓄電池、電気自動車などを念頭に、「戦略物資」の具体的な品目の選定が進められるほか、優遇税制を適用する期間などが議論されます。

【イノベーションボックス税制】
国内での研究開発を促す新たな税制措置も検討されます。
国内での研究開発の結果、取得した特許や著作権を得たソフトウエアなどを対象に、第三者が知的財産を使用した際のライセンス料や、知的財産を売却した際の所得について、優遇税率を適用することが検討されます。
一方、こうした知的財産を使った製品を販売した際の収益も対象とするよう求める意見もありますが、どこまでが知的財産によるかは明確に決められず、適用するのは困難だという見方もあります。
また、法人税にはすでに研究開発の費用の一部を納税額から差し引く「研究開発税制」もあり、こうした既存の税制との関係を整理する必要もあります。

【事業承継税制】
中小企業の円滑な事業承継を促すための事業承継税制についても議論されます。
この税制では、経営者から株式を相続したり贈与されたりして事業を承継する際に、それにかかる相続税や贈与税の納税を全額猶予し、ゼロにしています。
適用対象は、2027年までに相続や譲渡を受けた場合ですが、あらかじめ都道府県に事業計画を提出することが必要で、提出期限が来年3月末までとなっています。
このため事業計画の提出の期限をどのくらい延長するか検討される見込みです。