【詳細】日中首脳会談“意思疎通重ね 新時代の関係切り開く”

岸田総理大臣は訪問先のアメリカで、中国の習近平国家主席と会談し「戦略的互恵関係」の推進を再確認するとともに、新たな時代の日中関係を切り開いていくため、意思疎通を重ねていくことで一致しました。

一方、日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃を改めて求め、双方の立場の隔たりを認識しつつ、対話を通じて問題の解決方法を見いだしていくことになったとしています。

岸田首相と習主席 1年ぶりの会談は約1時間

去年11月以来、1年ぶりとなった岸田総理大臣と中国の習近平国家主席との首脳会談は、日本時間の午前10時40分すぎから、およそ1時間行われました。

習主席「意見の隔たり 適切に管理を」

冒頭、まず習主席が「国際情勢の変化が激しい中、平和共存や世代をこえた友好、それに互いに利益のある協力や共同発展は、中日両国の人々の利益に合致する正しい方向だ。日中双方は歴史の大勢と時代の流れを把握し、意見の隔たりを適切に管理しなければならない」と述べました。

岸田首相「明るい日中関係の未来を」

これに対し岸田総理大臣は「国際社会は対立と協力の様相が複雑に絡み合う歴史的な転換点にある。日中両国は地域と国際社会をリードする大国として、世界の平和と繁栄に貢献していく責任を有している。次世代のためにより明るい日中関係の未来を切りひらけるよう力を合わせていきたい」と述べました。

習主席の詳しい発言は?

中国の習近平国家主席は会談の冒頭で「ことしは両国の平和友好条約の締結から45周年にあたる。45年間、この条約を含む4つの政治文書のもと、両国関係は、風雨にもかかわらず、全体的に発展の勢いを保ち、両国の人々に幸福をもたらし、地域の平和と発展、繁栄の促進に積極的な役割を果たしてきた」と述べ、これまでの日中関係を振り返りました。

その上で「国際情勢の変化が激しい中、平和共存や世代をこえた友好、それに互いに利益のある協力や共同発展は、中日両国の人々の利益に合致する正しい方向だ。双方は、歴史の大勢と時代の流れを把握し、意見の隔たりを適切に管理しなければならない。そして、4つの政治文書の原則を順守し戦略的互恵関係の位置づけを再確認し、新しい時代の要求にふさわしい関係の構築に尽力すべきだ」と述べ、両国関係の重要性を強調しました。

会談の内容は?

会談で両首脳は、日中両国が過去にまとめた4つの政治文書の原則と共通認識を堅持し、双方が共通の利益を拡大する「戦略的互恵関係」を包括的に推進していく立場を再確認しました。

その上で「建設的かつ安定的な日中関係」の構築に向けて、新たな時代の関係を切り開いていくため、首脳を含むあらゆるレベルで緊密に意思疎通を重ねていくことで一致しました。

また、岸田総理大臣が、正当なビジネス活動が保障される環境を確保する必要性を呼びかけ、両首脳は、グリーン経済や医療・介護などの分野で具体的な成果を出していくため、日中ハイレベル経済対話を適切な時期に開催することになりました。

さらに両首脳は、共に責任ある大国として、気候変動などのグローバル課題についても協働していくことで一致したほか、ハイレベルでの人的・文化交流対話を適切な時期に開くことも確認しました。

一方、岸田総理大臣は、ことし5月に日中防衛当局間の連絡メカニズムのもとで、ホットラインの運用を開始したことを歓迎しつつ、安全保障分野での意思疎通の重要性を指摘しました。

その上で、沖縄県の尖閣諸島を含めた東シナ海の情勢について、深刻な懸念を改めて伝えたほか、日本のEEZ=排他的経済水域内に設置された中国のブイの即時撤去を求めました。

そして、ロシアとの連携を含めた中国による日本周辺での軍事活動の活発化にも深刻な懸念を重ねて表明しました。

このほか、台湾海峡の平和と安定が日本を含めた国際社会にとっても極めて重要だと強調するとともに、台湾との関係に関する日本の立場は、昭和47年=1972年の日中共同声明にあるとおりで、一切変更はないと伝えました。

また、岸田総理大臣は、中国国内で相次いで拘束された日本人の早期解放を求めました。

さらに、福島第一原発の処理水放出をめぐり、科学的根拠に基づく対応とともに、日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃を改めて求め、日中双方は、互いの立場に隔たりがあることを認識しながら建設的な態度をもって、協議と対話を通じ、問題解決の方法を見いだしていくことになったとしています。

このほか両首脳は、北朝鮮や中東、ウクライナを含めた国際情勢に関しても意見を交わし、緊密に意思疎通を行っていくことも確認しました。

岸田首相「日本産食品輸入規制 即時撤廃強く求めた」

岸田総理大臣は会談のあと記者団に対し「習主席と会談するのは、昨年11月以来であり、今回も大局的な観点から率直かつ建設的なやりとりを行うことができた。日中間にはさまざまな協力の可能性がある一方、懸案や課題が存在する。ことしは日中平和友好条約締結45周年の節目に当たり『建設的かつ安定的な日中関係』の構築という大きな方向性を習主席との間で確認した。『戦略的互恵関係』を包括的に推進していくこと、その上で引き続き首脳レベルを含むあらゆるレベルで緊密な意思疎通を重ねていくことで一致した」と述べました。

また、「『ALPS(アルプス)処理水』の海洋放出について、私から科学的根拠に基づく冷静な対応と、中国による日本産食品の輸入規制の即時撤廃を強く求めた。日中両国は建設的な態度をもって協議と対話を通じ、問題を解決する方法を見いだしていくことで一致した。今後、専門家のレベルで科学に立脚した議論を行っていくことになる」と述べました。

さらに「尖閣諸島を含む東シナ海情勢について、私から深刻な懸念を改めて表明し、日本のEEZ=排他的経済水域に設置されたブイの即時撤去を求めた。ロシアとの連携を含む、中国による日本周辺での軍事活動の活発化についても深刻な懸念を表明するとともに、台湾海峡の平和と安定が、わが国を含む国際社会にとっても極めて重要であると強調した」と述べました。

一方で「中国における邦人拘束事案について、邦人の早期解放を改めて求めた。同時に安全保障分野の意思疎通の強化で一致した」と述べました。

そして「詳細は事務方から説明させるが『日中ハイレベル経済対話』や『日中輸出管理対話』といった2国間協力、グローバルな課題についての協働、そして国民交流、さらには地域情勢など幅広く議論を行った」と述べたうえで「日中両国は地域と国際社会をリードする大国として世界の平和と安定に貢献していく責任がある。本日は建設的かつ、安定的な日中関係という共通の目標に向かって、大局的な方向性を確認することができ、非常に有意義な会談となった。今後とも、両国の首脳どうしで緊密な会談、意思疎通を図るということで一致をした」と述べました。

立民 泉代表「日本産水産物の輸入停止措置撤回 実現を」

立憲民主党の泉代表は記者会見で「会談を機会に、日本産水産物の輸入停止措置の撤回を実現してもらいたい。また、台湾周辺の環境を現状を変えずに鎮静化させていくことが大事であり、沖縄県の尖閣諸島周辺での行動も含め、中国側に自制を求めていくべきだ」と述べました。

国民 榛葉幹事長「帰国後 成果や内容の説明を」

国民民主党の榛葉幹事長は記者会見で「日本の海産物や農産物に対する さまざまな規制に加え、中国で不当に拘束されている日本人も少なからずいる。こうした問題から国際情勢までさまざまな交渉があったと思うが、 岸田総理大臣は帰国後に、われわれに対し、成果や内容を説明してもらいたい」と述べました。

松野官房長官「大局的な方向性を確認でき 非常に有意義な会談」

松野官房長官は午後の記者会見で「建設的かつ安定的な日中関係という共通の目標に向かって大局的な方向性を確認でき、非常に有意義な会談になった。両国間にはさまざまな可能性とともに数多くの課題や懸案があるが、今後とも緊密な意思疎通を図っていきたい」と述べました。

また、中国による日本産水産物の輸入停止措置をめぐり、岸田総理大臣が「専門家のレベルで科学に立脚した議論を行っていく」と述べたことについて、「発言は、これまで日本側から中国側に求めてきた専門家間の対話が今後、調整を経て行えるようになっていくだろうとの見通しを述べたものだ。政府としてはこうした対話も活用し、引き続き、中国側に処理水の海洋放出に関する取り組みについて丁寧かつ透明性をもって説明し、輸入規制の即時撤廃を強く求めていく」と述べました。

中国外務省報道官 水産物の輸入停止措置 解決策見つける考え示す

岸田総理大臣が中国の習近平国家主席との首脳会談で日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃を改めて求めたことについて、中国外務省の報道官は17日の記者会見で「中国側の措置は合理的だ」と述べる一方で、日本側との協議を通じて適切な解決策を見つけたいとする考えを示しました。

このなかで、中国外務省の毛寧報道官は「中国を含む各国が相応の予防と対応の措置をとって、食品の安全と国民の健康を守るのは、完全に正当かつ合理的で必要だ」と述べ、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を受けて、中国側が実施している日本産水産物の輸入停止措置の正当性を主張しました。

毛報道官は処理水を「核汚染水」と呼んだ一方で、「協議と交渉を通じて問題を解決する適切な方法を見いだすことを望む」と述べました。

そして、首脳会談について「『戦略的互恵関係』を包括的に推進する両国関係の位置づけを改めて確認した」と述べ、一定の成果があったとする考えを示しました。

ただ岸田総理大臣が台湾海峡の平和と安定の重要性に言及したことについて、毛報道官は「台湾問題は中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない。台湾海峡の平和と安定を守るために最も重要なのは『1つの中国』の原則を堅持することだ」と述べ、日本側をけん制しました。

中国外務省 習主席の発言内容発表 両首脳の意思疎通継続で一致

中国外務省は、日中首脳会談での習近平国家主席の冒頭発言に加えて、それに続く発言内容について発表しました。

それによりますと、東京電力福島第一原子力発電所にたまる処理水の海洋放出について習主席は、処理水を「核汚染水」と呼んで「福島の『核汚染水』の海への放出は全人類の健康や世界の海洋環境、それに国際的な公共利益に関わることだ。日本側は国内外の合理的な懸念に真摯に対応し、責任ある建設的な態度で適切に処理するべきだ」と述べたとしています。

中国は処理水を「核汚染水」と呼んで、放出に反対し、ことし8月からは日本産水産物の輸入停止措置を続けていますが、習主席の処理水についての発言が公に伝えられるのは今回が初めてです。

そして会談で両首脳は「建設的な方法による協議と対話を通じて『核汚染水』の放出問題を解決する適切な方法を見いだすことに合意した」としています。

また、習主席は「歴史、台湾など重大な原則問題は両国関係の政治的基礎に関わるものであり、日本側は、信義を守り、両国関係の基礎を損なわせたり、揺るがしたりしないことを確実に保証しなければならない」と述べたとしています。

中国が「核心的利益」と位置づけている台湾について日本側が関与しないようけん制した形です。

また習主席は「両国の経済的な利益とサプライチェーンは深く結びついていて、特定の技術の囲い込みやデカップリングは誰の利益にもならない」とも言及したということです。

日本が先端半導体の製造装置を中国などに輸出する際、輸出管理を厳しくする措置を始めたことなどを中国は、アメリカなどと連携して中国を封じ込めようとする動きだととらえており、こうした動きをけん制したものとみられます。

そして両首脳はハイレベルでの意思疎通を続けていくことやハイレベル経済対話を適切な時期に開催することなどで一致したとしています。