“ホストから売春指示された” 急増「売掛金」トラブル

「家庭などに居場所がなく、路上で声をかけられたホストに洗脳されるようにのめり込んでいった」

ホストクラブで多額の売掛金を抱えた女性は、ホストから売春を指示されたといいます。

客の女性が高額な料金を請求され、それをホストが立て替える「売掛金」。返済をめぐるトラブルの相談が相次いでいます。

“ホストに洗脳された” 女性 売春繰り返す生活に

23歳の女性は、18歳のころ、家庭や周囲に居場所がなく、歌舞伎町を1人で訪れた際に路上でホストに声をかけられたといいます。

「初回1000円でどう?未成年でも大丈夫」と誘われ、断り切れずにホストクラブに行くと、かわるがわるホストがあいさつに訪れ、女性が親に頼れない状況だと打ち明けると、「この後、ご飯に行こう」と店の外に誘い出されたということです。

女性は当時の状況について、「当時はアフターということばも知らず、扱いやすい存在だったと思う。『仕事を紹介するから明日も来てよ』と言われ、ご飯をごちそうになったし、行かなきゃと思って必然的に通うようになった」と話します。

紹介されたのは売春のあっせん業者で、ホストクラブの営業時間中は店に通い、それ以外の時間は1日10人ほどの男性を相手に売春を繰り返す生活になったといいます。

女性は、「ある意味洗脳されていた。ホストはかっこよくて、それまで会った大人と違い私のことを否定しなかった。『お前は悪くない』と言われ、ホストクラブが居場所になってしまっていた」と振り返ります。

手に入れた現金は実質的にホストが管理していて、大半は売掛金の返済にあてられていたということです。

売春の客待ち 4割が「売掛金」などの目的で

ホストクラブが立ち並ぶ東京 歌舞伎町の路上では売春の客待ちが問題となっていて、警視庁によりますと、ことしは、11月13日までに116人の女性を売春を目的に客待ちをしていたとして売春防止法違反の疑いで逮捕したということです。

月別では、取り締まりを強化した9月が35人と最も多く、このうちの4割はホストクラブで抱えた売掛金の返済や遊興費などにあてる目的だったということです。

また35人のうち、▽20代が7割、▽30代が2割、▽40代が1割と若い世代が目立っていて、生活困窮の問題を抱える人もいたということです。

ホストから売春を指示されたと答えた人はいなかったということですが、ホストをかばうケースもあるということで、警視庁はホストクラブ側による違法な売掛金の回収がないか、警戒を強めています。

売掛金は500万円超 抜け出すきっかけは友人の死

女性は、1日に1食、弁当を食べる程度でやせほそり、ホストクラブの営業時間以外は男性を相手にしていたため、睡眠を取れるのは逆にホストクラブにいる時間だけだったといいます。

女性が寝ている間に担当のホストが高額な酒や飾りを注文することも多く、売掛金は500万円を過ぎたころから、総額がいくらなのかも分からなくなっていったといいます。

女性は「その頃、別のホストから言われた『君はホスト狂いの鏡だね』ということばが今も記憶に残っていますが、当時はそうした自分に疑問を感じることはなかった」と話します。

女性は2年ほどこうした生活を繰り返していましたが、友人がホストの売掛金に悩んで亡くなったことをきっかけに、「この街にいても未来はない」と思い、抜け出そうと考えるようになったということです。

いまは、NPOで活動していて、歌舞伎町の路上にいる若い女性に声をかけて悩みがないか話を聞いているということです。女性は「最近ではホストがSNSでの発信をするようになっているが、本当のことが書いていない、ある意味、偽りの姿を信じて居場所を求めて夜の街に来て搾取される若者たちが本当に多い。そうした人たちがいまの状況を被害だと気づける状況になった時に、社会がSOSに気づけたり、守ることができるような体制や支援の整備が必要ではないか」と話していました。

ホスト「売掛金」めぐる相談増加

ホストが立て替える「売掛金」の返済をめぐるトラブル。

民間の団体には、この4か月間に200件を超える相談が寄せられていて、中にはことば巧みに誘導され、返済を名目に売春をさせられるケースも目立つということです。

警視庁は歌舞伎町のすべてのホストクラブに対し、強引な売掛金の回収は違法だとする警告を行うなど警戒を強めています。

東京 歌舞伎町でホストクラブをめぐるトラブルの相談に応じている民間の団体、「青少年を守る父母の連絡協議会」によりますと、ホストクラブの客の女性が高額な料金を請求され、それをホストが立て替える「売掛金」の返済などをめぐるトラブルの相談がことし、急増しているということです。

ここ数年は月に平均して数件でしたが、夏休みが明けた9月と10月を中心にこの4か月はあわせて200件を超えているといいます。

相談の多くが10代後半から20代の女性やその家族からで、地方から都内に進学したばかりの大学生なども目立っていて、団体は、新型コロナの影響が収まり、新たにホストクラブを利用する若い女性が増加したことが背景にあるとみています。

中には、一晩で100万円近い売掛金を抱えさせられ、返済を名目にホストから売春を指示されたり風俗店で働かされたりするケースも目立つということです。

団体の玄秀盛代表は「SNSなどでホストが女性に接触し、初回は安い金額で入店させたうえで、ことば巧みに誘導してコントロールするような悪質なケースが目立っている」と話しています。

“鎖をかける” 巧みな接客でマインドコントロール 実態は

「青少年を守る父母の連絡協議会」の代表で、およそ20年にわたって歌舞伎町でホストクラブをめぐるトラブルの相談に応じている玄秀盛さんによりますと、一部のホストクラブでは、新人ホストに対し、客への「マインドコントロールテクニック」とする研修が行われているということです。

団体が入手した、研修を受けたホストの手書きのメモには、客を「姫」と表現した上で「好きな人を押し上げるために姫はお金を使う」とか、「クールな感じでいてもすぐ飽きられる」などと書かれています。

さらに「マインドコントロールテクニック」として、「鎖をかける」とか「地雷をおく」などのキーワードが記されていて、玄代表は「『鎖をかける』とはホストクラブから客が抜け出せなくすることで、客の良いところを褒めたり、『一目惚れした』とか『理解者だ』、『好きだ』など、ふだんは聞かないような言葉で客を持ち上げることで心が傾くようにしている」と指摘しています。

また、客の行動を否定することはだめだとされ、メモでは、客がほかのホストクラブに行かないよう求めるときには、「行くな」と言うのではなく、「ほかの店に行かないから俺も姫を大切にできる」などと表現するよう書かれています。

玄代表は「ブレーキをかけると客の反発を生むので、否定はせず、ホストのことを裏切れないと思わせ、ホストが嫌がることを客の深層心理で避けさせるためのテクニックだ」と指摘した上で、「こうした研修は最初の一歩で、女性をコントロールし、『沼にはまる』ような状態にもっていくための勉強をホスト側は毎日している。はまる方が悪いと女性をせめる意見もあるが、こうした巧みな手法から抜け出すのは簡単ではない」と話しています。

「売掛金」返済の問題 国会でも問題視

「売掛金」の返済をめぐる問題については、国会でも取り上げられています。

今月9日の参議院内閣委員会でこの問題が初めて取り上げられ、ホストクラブ側が客の女性に返済困難な借金を背負わせることについて、松村国家公安委員長は「常識的に考えて、問題ではないかと思う」という認識を示しました。

また、今月10日の衆議院厚生労働委員会では、悪質な接客をしているホストクラブへの対応について警察庁が「ホストクラブ側の違法行為に対する捜査や、法律の順守の徹底、注意喚起などの対策を引き続き講じていきたい」と述べました。

また、14日の参議院内閣委員会で加藤男女共同参画担当大臣が「立場の弱い若い女性たちが、選択肢のない状況に立たされ、性的搾取されるようなことはあってはならない。警察による取締りに加え、困難に直面する女性たちが相談し、必要な支援につながることができる環境を整備することも重要だ」と述べ関係省庁と連携して、女性の支援に取り組む考えを示しました。

16日の衆議院の特別委員会では立憲民主党の早稲田夕季氏は、「売掛金」を今の消費者契約法で規制できないか質問しました。

これに対し、自見消費者担当大臣は「今の法律は『売掛金』の上限や禁止などを定めた法律ではない」と説明しました。

一方で、悪質な場合、「売掛金」を請求するまでの一連のサービス形態そのものが、消費者契約法が定める客の恋愛感情につけ込む不当な契約、いわゆる「デート商法」に該当し、本人の意思で請求を取り消せる可能性があるとして、周知や啓発を強化していく考えを示しました。

“背後に「匿名・流動型犯罪グループ」も” 警察は取締り強化へ

ホストクラブを利用した客の女性が、店から高額な料金を請求され、それをホストが立て替える「売掛金」の返済をめぐってトラブルが相次いでいることについて、警察庁の露木康浩長官は「警察ではこれまで、ホストクラブの従業員が女性客を風俗店に紹介して売春をさせた事案などを検挙したり、ホストクラブに行政上の立ち入り検査を実施する取り組みを行っている」と述べました。

その上で、「闇バイト」で実行役を集め犯罪行為を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」が関与している可能性について言及し、「『匿名・流動型犯罪グループ』が、悪質なホストクラブの背後で不当に利益を得ている可能性も視野に入れて、対策を強化している。引き続き、法と証拠に基づいて、悪質なホストクラブの取締りを強化していきたい」と述べました。

警視庁もこうした事態を問題視していて、歌舞伎町のすべてのホストクラブに対し、客に売春をさせるなど強引に売掛金を回収することは違法だとする警告を出すなど、警戒を強めています。

弁護士「問題を抱え込まず 相談してほしい」

ホストクラブをめぐるトラブルの法律相談に取り組んでいる徳田玲亜 弁護士によりますと、客の女性からの相談のなかには、酒に酔った状態でホストからねだられ、無理だと伝えているにもかかわらず高額なボトルを注文されたというケースもあり、こうした場合はホスト側との交渉で売掛金が減額されることがあるということです。

ただ、相談の多くは、金銭トラブルだけではなく、ホストとの人間関係に悩んでいるケースが多く、徳田弁護士は「男女の感情の問題が絡むので売掛金を払う、払わないで相談が終わることはまずない。破産や分割払いも見据え、女性に寄り添いながら解決策を考えざるを得ないのが現状だ」と話しています。

徳田弁護士が所属するNPO「風テラス」ではこうした相談を弁護士が無料で受ける相談会を定期的に開催していて、自分で問題を抱え込まず、相談してほしいと呼びかけています。