企業で利用増える“ファクタリング” 悪質業者とのトラブルも

企業で利用増える“ファクタリング” 悪質業者とのトラブルも
コロナ禍で借りた、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が始まっています。民間の信用調査会社によりますと、融資を利用した中小企業の倒産件数は10月までに545件と、去年1年間の件数をすでに100件あまり上回っています。

こうした中、銀行の融資などより早く手軽に資金調達ができると広がっているのが「ファクタリング」というサービス。利用した企業を取材すると「資金繰りが厳しい中で助かった」という声の一方、「麻薬のようで会社を潰しかねない」という声も。

どんなサービスなのか、仕組みと注意点を取材しました。

(社会部記者 倉岡洋平・清水彩奈)

広がる“ファクタリング”

有名アスリートの代理人を務める都内のマネージメント会社では、ことし3月、海外の取引先から入金されるはずだった1000万円ほどの振り込みが、金融機関側の事情で遅れる事態が起きました。中小企業にとっては資金繰りに影響しかねない規模です。

そこで、取引先の信用金庫から都内のファクタリング業者を紹介され、「2者間ファクタリング」というサービスを利用しました。
「ファクタリング」は、企業が取引の対価として支払われる予定の「売掛債権」を売買する取引です。さまざまな形態がありますが、いまは「2者間ファクタリング」が主流になっているといいます。マネージメント会社の例を紹介します。
(1) 会社は、数か月後に入金予定の売掛債権500万円分をファクタリング業者に売りました。

(2) すると、500万円から8%あまりの手数料を差し引いた約460万円が、即日でマネージメント会社の口座に振り込まれました。

(3) 2か月後、取引先から予定通り500万円が会社に入金されると、その金額をすべてファクタリング業者に送金しました。
利用した会社はすぐに必要な現金を得られ、ファクタリング業者は手数料分が利益になるという仕組みです。
マネージメント会社 古屋博史社長
「銀行の融資だとさまざまな手続きがあるのに比べ、ファクタリング業者の場合は契約して数時間後にはパソコン上で入金がわかる。『ああ、よかった』という安心感はある。手数料は高いが、お互いにメリットがある」

コロナ禍影響か 申し込みが急増

古屋さんが利用した都内のファクタリング会社では、コロナ禍をきっかけに利用する会社が急増し、コロナ禍前は毎月100件ほどだった申込件数が、最近は1000件を超す月もあるということです。売掛債権を扱う幅広い業種から相談が来ているといいます。
ファクタリング会社 武田修一副社長
「ゼロゼロ融資の返済で短期的な資金繰りに苦労している中小企業も多いので、問い合わせは殺到している。融資と比べ手数料は高いが、利用者からは『急場をしのげた』、『ありがたい』といった声も多くある。長期の資金は融資、突発的に必要な資金はファクタリングなど、組み合わせも大事ではないか」
業界団体の「オンライン型ファクタリング協会」が、加盟4社の2022年に買い取った売掛債権額をまとめたところ、2019年のおよそ5倍に増えていたということです。

「ファクタリングは麻薬」の声も

一方、ファクタリングの利用をきっかけに窮地に陥ったという中小企業もありました。

その建設会社を経営する男性が初めて利用したのは2019年。当時は東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて各地で工事が行われ、仕事の受注は増えていましたが、資金繰りは常に悩みの種でした。

受注した工事をやり遂げるには人や資材集めなど、ある程度の先行投資が必要です。このためインターネットでファクタリング業者を見つけ、およそ1000万円の売掛債権を売る契約をし、手数料などを差し引いた800万円ほどを得ました。
急場はしのいだものの、その後、契約に基づき元の債権額を支払う必要がありました。支払いなどに充てるため、社長は新たに別のファクタリング業者を探し、さらに手数料が高い契約を交わし、自転車操業の状態に。

こうしたことを繰り返すうちに経営が行き詰まり、一時は自殺を考えるまで追い詰められました。
建設会社社長
「資金がショートする中でも、なんとか乗り越えて会社を続けないといけない。そのための選択肢として、やむをえず利用した。毎日、自分はなんなんだろうと思うくらいに精神的に疲弊していた。建設業界では常に資金繰りに悩んでいる経営者がいる。ファクタリングは麻薬のようなもの。どこかで精算しないと、会社を潰しかねない事態につながってしまう」

ヤミ金融業者の偽装ファクタリングも

手数料をめぐるトラブルも相次いでいます。

金融庁は、ファクタリングを装ったヤミ金融業者の存在が確認されているとして「偽装ファクタリング」を利用しないよう、注意を呼びかけています。
ファクタリング業者が、無登録の貸金業者に当たると判断された裁判の判決も複数出てきています。

名古屋地方裁判所は2021年7月、契約の内容などから「ファクタリング業者が利用会社に金銭を渡したことは貸金業法や出資法にいう金銭の貸し付けにあたる」と判断し、この時の手数料が年利に換算すればおよそ265%からおよそ506%で、出資法の利息の上限を大幅に超えるため違法だとしました。その上で業者側に賠償を命じました。

一方、東京地方裁判所が2020年9月に出した判決では、「契約は債権の売買契約で出資法と貸金業法が適用される契約とはいえない」などとして貸金業には当たらないと判断されました。
金融庁によりますと、売掛債権が返済できなくなったときの規定など、契約書の内容のほか、経済的な側面や実態に照らして判断されているということです。

先に紹介した建設会社の社長も、ファクタリング業者との契約は実質的な貸金業に当たるとして賠償を求める裁判を起こしていて、訴えた3社のうち1社は和解。残る2社は貸金業には当たらないなどとして争っています。

弁護士 “相談先がなく抱え込んでしまう事業者も”

ファクタリングの利用者から依頼を受けて裁判をおこしている弁護士は、利用者は打ち明けづらい状況に置かれているため、トラブルが表面化しにくくなっているのではないかと指摘しています。
ファクタリングに詳しい 中谷仁亮弁護士
「悪質な業者を利用して窮地に陥っていても、その会社の信用問題に関わるため金融機関などには相談しづらい。ファクタリング会社に自分の売掛債権を握られているため、取引先に知られてしまうのではないかという恐怖感もある。誰にも相談できないまま経営が行き詰まってしまうのが実態だ」

大手ファクタリング会社ら 業界団体を設立

大手のファクタリング会社らはこうした状況を問題視し、業界団体を設立しました。

適切な水準の手数料の設定に努めるなどの内容を盛り込んだガイドラインを策定するなど、自主規制に努めるとしています。
オンライン型ファクタリング協会 家田明 代表理事
「ファクタリング事業者の中には、『ヤミ金』と呼ばれるような悪質な業者が存在していることも事実だ。悪質な業者と、きちんとした業者を線引きするための仕組みが必要だ。中小企業の経営者が安心してファクタリングを利用できることが最も重要だ」

専門家 国によるルール作りが必要

ファクタリングの問題に詳しい専門家は、国によるルール作りが必要だと指摘しています。
南山大学大学院法務研究科 深川裕佳教授
「中小企業の資金調達の手段として非常に重要なので、安心して利用できる環境整備が必要だ。裁判で違法だと明らかにされるような被害が拡大し、自主規制も働かない場合、貸金業法や出資法という法律を積極的に適用して規制する必要がある。裁判例は増えているが、まだ十分ではない。事業者側がビジネスを展開しやすくなり、利用者側も安心して取り引きができるようにするため、金融庁が主導するような形で、違法性の基準を明確にしていくのがよいのではないか」

ファクタリングの未来は

ファクタリングを適切に利用すれば、突発的な資金不足によるリスクを避けることもできることは確かです。

一方で、公的な規制がないことから、ヤミ金まがいの業者が「野放し」になっている現状もあります。対策の議論が進むことが期待されます。

(11月17日「おはよう日本」で放送予定)
社会部記者
倉岡洋平
2010年入局
松江局、青森局、札幌局を経て2019年から社会部
公正取引委員会を担当するほか、遊軍として幅広く事件取材に関わる
社会部記者
清水彩奈
2012年入局
福岡局、横浜局を経て2019年から社会部
最高裁判所を担当