米中対立に歯止めは?1年ぶり首脳会談へ 日本時間16日早朝から

アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席による1年ぶりの首脳会談がアメリカ西海岸で日本時間の16日早朝、始まります。両国の対立が深まる中、不測の事態が衝突へと発展しないよう、軍どうしが連絡をとりあえる環境を築けるかが焦点です。

米中首脳会談は、アメリカ西海岸のサンフランシスコで行われるAPEC=アジア太平洋経済協力会議に合わせて、15日昼前、日本時間の16日早朝から行われます。

米中関係は、台湾海峡や南シナ海、経済安全保障分野などをめぐり対立が深まっていて、バイデン政権で安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は、会談を前に13日開いた会見で、現在の米中関係について「複雑に競争し合う関係にあり、簡単に衝突や対決に転じやすい」という認識を示しました。

バイデン大統領は14日、会談のねらいについて「中国との関係を危機の際に意思疎通ができる状態に戻し、軍どうしが確実に連絡をとれるようにすることだ」と述べました。

そのうえで「中国と『デカップリング』をするつもりはない」と述べて、中国と経済関係は維持する一方で軍事転用が可能な先端技術など分野を限定して輸出を規制していく考えを強調しました。

会談では、去年11月以降、行われていない対面での国防相会談の実現やアメリカの下院議長だったペロシ氏の台湾訪問をきっかけに去年夏から遮断されている軍のホットラインの再開など、両国の軍どうしが連絡をとりあえる環境を築けるかが焦点です。

また、台湾海峡の平和と安定についてや、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が続く中東情勢についても意見を交わす見通しで、米中の対立の深まりに歯止めをかける糸口を見いだせるのか注目されています。

習近平国家主席 訪米して首脳会談は約6年半ぶり

習近平国家主席は、これまでにアメリカで4回、首脳会談を行っています。

初めての首脳会談は、就任からおよそ3か月の2013年6月で、当時のオバマ大統領と西部カリフォルニア州パームスプリングス郊外にある保養地、サニーランズで2日間にわたって行われました。

アメリカ側が会談の会場に首都ワシントンから離れた保養施設を選んだのは、うち解けた雰囲気の中で首脳間の交流を深め、信頼関係の構築を進める狙いからでした。

このときの首脳会談では「相互の利益と尊重に基づいた新たな関係の構築を目指すこと」で一致し、北朝鮮の非核化に向けて、これまでより連携を強化していく方針などを確認しました。

2回目は2015年9月にワシントンで行われ、サイバーセキュリティーに関し、政府がサイバー攻撃で企業情報を盗む行為をしないことで一致しました。

3回目は2016年3月、ワシントンで開かれた核セキュリティーサミットへの出席にあわせて当時のオバマ大統領と首脳会談を行い、挑発行為を繰り返す北朝鮮に対し国連安全保障理事会の制裁決議を着実に実施するなど、米中両国が協力して取り組んでいくことを確認しました。

4回目は2017年4月で、当時のトランプ大統領と、南部フロリダ州にあるトランプ氏の邸宅「マー・アー・ラゴ」で2日間にわたって会談を行いました。

会談では、北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、国連の安保理決議の完全な履行に向け協力することを確認したものの、圧力の強化を迫るアメリカと対話を重視する中国との間で立場の違いが残りました。

習主席がアメリカを訪れて首脳会談を行うのは、2017年4月以来、およそ6年半ぶりとなります。

首脳会談の注目点 対米外交に詳しい中国の専門家に聞く

今回の米中首脳会談の注目点について、中国の対米外交に詳しい中国人民大学国際関係学院の王義※ガイ教授に聞きました。
※ガイは木偏に危

Q1.今回の首脳会談の注目点は?

A1.第1に、中国とアメリカが一定の対話のメカニズムを取り戻せるかどうかだ。
なぜなら、中国とアメリカの間には、100近い対話のメカニズムがあるが、バイデン政権下では5つにとどまっている。
両国間の航空便や人的交流などはまだ回復しておらず、回復は一歩一歩だ。
アメリカは、いまこそ協力すべきだ。

第2に、新たな成長分野の育成だ。
例えば、気候変動やAI=人工知能などは、中国とアメリカの新たな成長分野となり、ともに取り組むべき分野だ。
中国とアメリカが協力しなければ、世界は何も解決できない。

第3は、経済面での協力だ。
中国とアメリカにとっては、以前、経済と貿易が両国関係を安定させるおもしだったが、いまはそのおもしは明確でなくなった。
アメリカは現在、新たに半導体に関する規制を作る一方、中国との緊張を解いている。
やはり、経済協力が全体の流れになっていると思う。

Q2.中国にとって今回の会談の意義は?

A2.中国自身も経済発展を加速させなければならない。
新型コロナの3年は、地方政府の債務増加を招き、経済成長は鈍化して、失業率が高くなった。
いま中国は大規模な景気刺激策を導入し、アメリカとの関係の安定を望んでいる。
また、アメリカは来年大統領選挙がある。
バイデン大統領には中国との関係を処理する余裕はなくなるし、トランプ前大統領とどちらが中国に厳しいかを比較されることになるため、両国関係は来年はもっと面倒なことになる。
だから今、両国間にルールを設けることが必要だ。
トラブルが増える前にルールを決めた方がいい。

Q3.首脳会談のあと中国とアメリカの関係はどうなる?

A3.しばらくは、局地的で断続的な安定になる。
しかし、中国とアメリカが正しいつきあい方を見つけ、そのメカニズムを確立するには長いプロセスが必要になるだろう。
両国の競争は、習近平国家主席が言うように「死闘を繰り広げる『格闘技』ではなく、追いかけあい、互いに高めあっていく『陸上競技』であるべきだ」(2021年1月、世界経済フォーラムオンライン会合での発言)ということだ。
中国の台頭が、アメリカの市場や技術、ルールなどを何から何まで押しのけているという見方もあるが、全体的にみればグローバリゼーションが、アメリカと中国の双方に利益をもたらしている。
パイを大きくすることによってのみ、みんながさらに多くの分け前を得られるのだ。
勝ち負けは必ずあるが、それでも全体で見れば、中国もアメリカもみんなが、グローバリゼーションから利益を得ているのだ。

米元高官「目標は米中関係の下降を互いに認識し合うこと」

アメリカ国務省で対中国政策を統括する「チャイナ・ハウス」と呼ばれる部署の初代責任者を務めたリック・ウォーターズ氏が、NHKのインタビューに応じました。

この中で、ウォーターズ氏は「米中関係は、かつてのように何日も会談して共同声明を出していたような時からは、ほど遠い状況にある。10年、20年前のように両国関係の安定化と再構築を図るといった首脳会談にはならず、今回の目標は米中関係が管理された形で下降していく期間に入ったことを互いに認識し合うことにある」と指摘しました。

そのうえで「両首脳は、去年、インドネシアのバリ島で議論したことと同じ議題について意見を交わし、関係構築のための土台をどう作るか、互いの政策を明確に理解するための意思疎通のチャンネルをいかに確保するかを話し合う。大部分の議論は、台湾問題、技術競争、そして中東のガザ地区での衝突やウクライナでの戦闘といった重要課題に割かれることになるだろう」と述べました。

また、ことし夏以降、中国側もアメリカとの対話に前向きな姿勢を取り始めた背景について、ウォーターズ氏は「中国国内の経済がことし悪化したことと無関係ではないはずだ。そのことで中国側としても、対外的な関係の安定化を図り国内の課題に集中する環境を築きたいと考えた可能性がある」と分析しました。

さらに、中東で続く衝突の米中関係への影響については「現実にはいま、バイデン大統領とその国家安全保障チームの力はガザ地区に集中的に向けられている。そのことが、アメリカの対中国政策を変えるわけではないが、必然的に、片方で起きた危機に相当な注意を振り向けなければならないときには、もう片方で混乱が生じてほしくないと考えるのは当然なことだ」と指摘しました。

そのうえで「中国はアメリカのそうした状況を見て、東アジア地域やフィリピン周辺でアメリカやその同盟国の航空機などに対して危険な妨害行為をしている」と述べ、中国の台湾周辺や南シナ海での最近の行動は、アメリカが中東での衝突やウクライナでの戦闘への対応に追われていることと関係しているとの見方を示しました。

そして、首脳会談後の焦点についてウォーターズ氏は「構造的な関係悪化を管理していこうという試みはすぐにも試される。それはまず技術競争だ。アメリカが新たな行動に踏み切ることは確実で、中国はそれに対抗する必要を迫られるためだ。さらには来年1月の台湾総統選挙の結果、中国が新しい台湾総統に対してどのような行動をとるかという点も試されている」と述べて、経済安全保障分野での競争や台湾総統選挙がポイントになるという認識を示しました。

米企業からは両国の緊張緩和や関係強化を期待する声

今回の米中首脳会談について、中国と貿易を行うアメリカの企業や団体からは両国関係の緊張の緩和や関係の強化につながってほしいとの声が聞かれます。

今月、中国・上海では輸入品などを集めた大規模な国際見本市に、アメリカからもEV=電気自動車のメーカーや半導体関連の企業などが参加して中国市場に向けてアピールしました。

この見本市にはアメリカ政府が初めてパビリオンを出展し、アメリカ産の農産物や牛肉などを扱う企業や団体が参加しました。

このうちアメリカ、アイダホ州の代表団に加わり参加したマイク・アンダーソンさんは、アメリカ産の豆などを輸出する会社を経営しています。

中国ではグリーンピースを揚げたお菓子が人気で、中国はアンダーソンさんの会社で扱うアメリカ産グリーンピースの最大の輸出先になっているということです。

アンダーソンさんは「関税がかけられた際には売り上げが大きく落ち込んだように、両国の政治的な関係はビジネスに影響を与えます。米中は敵対的な関係であるべきではありません。顔を突き合わせての首脳会談が妥協点を見いだし、ビジネスにとって前向きな結果をもたらす機会になることを期待しています」と話していました。

また、アメリカの大豆の生産者などからなるアメリカ大豆輸出協会は、アメリカ政府のパビリオンとは別に独自に出展しました。

アメリカ大豆輸出協会のジム・サッターCEOは、最大の輸出先である中国との関係について「中国は大事な市場だが、政治的には緊張もあり両国関係は不安定な面がある。ことしも気球の問題が起きたとき緊張は高まり、中国の買い手を少し不安にさせたと思う。首脳会談が双方の利益につながるものになるよう期待している」と話していました。