GDPが3期ぶりマイナスに 日本経済の成長のカギは

ことし7月から9月までのGDP=国内総生産は、前の3か月と比べた伸び率が実質の年率換算でマイナス2.1%と、3期ぶりのマイナスとなりました。

この先、日本の成長力をどう引き上げていくのか。カギを握るのは、企業の生産性を高め供給力を強化する「設備投資」です。

日本経済は長年、デフレと低成長が続き、成長力の引き上げが課題となっています。

IMF=国際通貨基金によりますと、日本はデータの残る1980年以降、ドル換算した名目GDPでアメリカに次ぐ世界2位の経済大国の地位を保っていました。

しかし、2000年代に入ると中国が「世界の工場」として急速な成長を続け、2010年には2位の座を奪われました。

その後、3位を維持していますが、米中に大きく水を開けられています。

日本の名目GDP ドイツに逆転され世界4位の見通し

こうした中、IMFは、ことしの日本の名目GDPが去年より0.2%減り、ドイツに逆転されて世界4位になるという見通しを示しています。

名目GDPは物価の変動に左右されるためドイツの物価上昇率の高さが反映されることや、円安ドル高の影響で日本のGDPをドル換算すると目減りすることもあってドイツの実質成長率がマイナスと予測される中でも逆転が見込まれていますが、日本経済が長くデフレに陥り低成長が続いていることも要因です。

こうした状況は、国の経済の実力を表すとも言われる「潜在成長率」の低さにも現れています。

潜在成長率は、労働と資本、それに生産性で算出され、生産活動に必要なすべての要素を使った場合にどれだけ供給力を増やせるかを示す指標です。

OECD=経済協力開発機構によりますと、去年の各国の潜在成長率は、アメリカが1.8%、フランスが1.2%、ドイツが0.9%であるのに対し日本は0.5%にとどまっています。

少子高齢化による労働力の減少やバブル崩壊以降のデフレのもとでの投資の低迷、それに生産性が伸びていないことが要因です。

政府の新たな経済対策 企業の設備投資支援など盛り込む

政府は、今月2日にとりまとめた新たな経済対策で、日本経済を成長軌道に乗せるための「供給力の強化」を柱の一つに掲げ、業務の省力化のための設備投資への支援や「リスキニング」と呼ばれる労働者の学び直しの環境整備などを盛り込みました。

人口減少で労働人口の増加が見込めない中、デジタル化への投資などによって生産性を引き上げるとともにより付加価値が高い分野へ労働移動がしやすくなるよう環境整備を進めていくことが求められます。

中小の製造業 設備投資に踏み切れない企業も

実質GDPが3期ぶりにマイナスとなった要因の1つが、企業の「設備投資」です。マイナス0.6%でした。

原材料費の上昇などを背景に、中小の製造業の中には経営環境の先行きが見通せないとして設備投資に踏み切れない企業もあります。

大田区にある社員10人の町工場では、プラスチックやゴムの加工を行っていて、機械のカバーや小型のショーケースなどを製造しています。

会社によりますと、コロナ禍で飛まつ対策として需要が高まったアクリルパネルの製造がなくなり売り上げが伸び悩んでいるほか、円安の進行を背景に原材料費が上昇するなどし、利益を圧迫している状況だということです。

会社としては収益の改善には古い機械の買い替えや作業を自動化できる機械の導入など生産性を向上させるための設備投資が必要だと考えています。

経営環境の先行き見通しづらく設備投資に踏み切れず

ただ機械は安いものでも500万円、高いものでは数千万円以上するため、経営環境の先行きが見通しづらい中、新たな設備投資に踏み切ることは難しいとしています。

この会社では、ことし4月以降、全社員を対象に手当の支給を増やしていて、年収を平均で3%引き上げたということです。

会社ではこうした取り組みを通じ、人材の確保などに注力するとともに、売り上げの拡大に向け、新規顧客の開拓にも力を入れることにしています。

「設備投資のためには利益が必要 ジレンマを感じる」

「豊樹脂」の大山茂樹社長は「設備投資をしたいが、そのためには売り上げや利益を上げていかないといけないので日々ジレンマを感じている。現在はよりよい人材の確保や新規の顧客の開拓などに力を入れている」と話していました。

大手企業には積極的な設備投資で供給力強化の動きも

需要の増加を見込んで大手企業の間では積極的に設備投資を行って供給力を強化する動きが出ています。

大手冷凍食品メーカーの「ニチレイフーズ」はおよそ115億円を投資し、主力商品の冷凍チャーハンを製造する新工場を福岡県宗像市に建設し、ことし4月に稼働を始めました。

今後も伸びが見込まれる冷凍チャーハンの需要に対応するためで、新工場では、家庭用と業務用をあわせて1日、およそ70トン生産できます。

会社によりますと、これまでも国内2つの工場で生産する体制をとってきましたが、新工場の稼働で供給力の強化につながったということです。

設備投資は生産性の向上も目的としています。

工場では、ごはんや卵などの具材を炒めるとき焦げ目がつくことがあり、これまでは温度が高い環境で作業員が目視で見つけ、手作業で取り除いていました。

新工場では、その作業を自動化する設備が導入されていて、AIが焦げ目がついたものを検知し、ロボットアームに取り付けられたノズルで吸い取ることができます。

さらに、AIを活用したこの設備ではごはんや卵などの具材の割合も確認することができるということで、品質を確保するための工程での食材のロスを大幅に抑えられます。

このほか、工場内の倉庫前まで原材料や資材を自動で運搬するフォークリフトも導入され、従業員の負担を減らしたということです。

会社では需要の増加に対応できる供給力の強化と生産性の向上で利益を生み出し、新たな設備投資につなげたいとしています。

「AIやDXに投資して高付加価値の商品提供したい」

新工場を運営するグループ会社の平賀忠之社長は「冷凍食品は今後ますます需要が高まっていくと思う。一方で、労働人口は減少していくので、人手不足に対応するためにもAIやDXに投資することで、付加価値の高いより良い商品を提供し続けたい」と話しています。

物価高と人手不足 DXで克服を試みる中小企業

長期化する物価高を、DX=デジタルトランスフォーメーションによって乗り越えようという中小企業があります。

飲食店などを展開する福岡県久留米市の「ボーテックス」。

社員は合わせて20人で、地元で捕れた新鮮な魚介類が店の売りですが、原材料高と人手不足が経営の課題になっていました。

客の注文 スタッフの代わりに通信アプリで受け付け

そこで、この会社が始めたのが徹底したDXです。

まず、客の注文はホールスタッフが取るのをやめて、通信アプリのLINEで受け付けるようにしました。

ちゅう房のタブレット端末に直接届く仕組みで、注文から料理を提供するまでの時間を短縮できたと言います。

客の回転も速くなり、ランチタイムの客数は一日当たりおよそ70人と、コロナ禍前と比べても20人ほど増えたということです。

この仕組みの導入によって、およそ1万3000人の客が通信アプリの「友だち」に登録。

客の年齢や好みなどに合わせて宣伝のメッセージを送ったり、クーポンを発行したりするなど、広告費をなるべくかけずにリピーターを増やす取り組みも行っています。

この日、旬のかきを使ったメニューを通信アプリで配信すると、5時間で既読した割合が半分ほどになり、客の関心が高いという手応えを得ました。

注文データを蓄積 需要予測の精度上がり利益率が改善

さらに、注文をデータとして蓄積することで、需要の予測の精度が上がったと言います。

以前は、食材の発注や在庫はノートで管理していましたが、データによる予測を基に毎日の発注量を調整して食品ロスを削減。

利益率の改善につながっているということです。

一連のDXは、福岡市のIT企業と連携して進めています。

今後は、納品書の作成や経費の処理といった事務作業もデジタル化する計画です。

会社では、業務の効率化で生まれた余力も生かし、これまで駐車場だった場所にテイクアウト専門店を設けました。

主要な食材が軒並み値上がりし、コロナ禍前との比較で仕入れコストは3割ほど上がったと言いますが、会社全体の年間の売り上げは2倍に、利益は5倍に増やせているということです。

こうして「稼ぐ力」を引き上げた結果、ことし2月には平均で5%の賃上げを実現させました。

「小さな会社でも本気で取り組めば結果が出る」

堀江圭二社長は「物価高や人手不足の克服にはDXしかないと考えました。私たちのような小さな会社であっても、本気で取り組めばよい結果が出ると実感しています」と話していました。

専門家「経済が回復続けるために民需中心に成長が必要」

今回のGDPの結果について、大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「内容もあまりよくなかった。個人消費は物価高の影響もあって食料品が振るわなかった。設備投資も海外経済が減速している中で手控える動きが強かった」と話していました。

また、今後の見通しについては「サービス消費や自動車のばん回生産などもあり、来年にかけて緩やかな景気の回復基調が続くだろう。日本経済が回復を続けるためには民需が中心になって成長をし続ける必要がある。賃上げの機運を高めて賃上げにかなうような企業の収益を上げるための生産性の向上をしっかりやっていく必要がある」と指摘していました。