グーグルマップ“不当なクチコミ投稿”で都内の医師が提訴準備

利用者の数が日本で最も多いとされるグーグルマップをめぐり、地図上に表示される「クチコミ」に不当な内容が投稿されても削除してもらえず利益が侵害されたなどとして都内の医師がグーグルに対し損害賠償を求める訴えを起こす準備を進めていることがわかりました。

グーグルマップには、表示される施設や場所などに「クチコミ」として個人の感想を投稿したり、星の数で評価したりできる機能が搭載され、利用シーンが拡大しています。

都内のクリニックはこの「クチコミ」で「門前払いされた」といった事実と異なる内容の投稿や理由を書かずに最低評価をつけるなどの不当な投稿が繰り返されているということです。

グーグルに削除を依頼しても「裁判所の命令が必要だ」などとして対応してもらえずクリニックの医師は運営に支障が出ているとして、損害賠償を求めて訴えを起こす方針を決めました。

代理人弁護士によりますと医療機関の場合、患者の希望と適切な治療方法が異なるケースなどで不満を持たれることがあるものの守秘義務の関係からクチコミで反論することは現実的ではないということで、裁判では削除要求への対応が不十分で利益が侵害されていることや削除基準をより明確にすることなどを主張するということです。

不当なクチコミに苦慮する医師は複数いるということで、弁護士は今後、医療関係者を募って集団で訴えを起こすことも検討したいとしています。

これについてグーグルは「様々な場所に関する信頼できる情報を見つけやすくし、不正確な内容や誤解を招く内容を減らすよう努めています。人間のオペレーターと機械を組み合わせて、24時間体制で企業プロフィールを保護し、不正なレビューを削除しています」などとコメントしています。

アプリの「クチコミ」内容で来店避けられてしまう場合も

グーグルマップに代表される地図アプリは、目的地の場所や道順を調べる地図としての役割だけにとどまらず、日常のさまざまなシーンで使われています。

例えば「レストラン」と検索すると、住所や電話番号、写真のほか料理などの感想や評価が書かれた「クチコミ」を確認できます。

また、クチコミの内容などから状況や目的にあった場所が表示され「子連れカフェ」などと検索すると子どもを連れて入店可能な店が表示されます。

地図アプリには、飲食店だけでなく交番や病院などさまざまな施設も掲載され、最近では富山県内の消防署がグーグルマップで地域の消火栓などの場所を紹介する取り組みも始めています。

利用者が最多とされるグーグルマップは世界で月に10億人以上が使っていて、クチコミ関連のサービスを提供する都内の会社によりますと、飲食店を探す時にどのサイトを使うかをランキング形式で尋ねたところ、10代と20代が1位にあげたのはグーグルマップで、専用のサイトに比べて2倍以上多かったということです。

グーグルマップをよく使うという20代の女性は「近くにあるカフェを検索して、レビューを見てお店を選んでいます。『店員さんの態度が怖かった』とかマイナスな意見が多いところは避けるようにしています」と話していました。

身に覚えのない内容や悪口 削除できず「フェアではない」

グーグルマップのクチコミには身に覚えのない内容や明らかな悪口を書かれたという人たちもいます。

長野県内で美容院を経営している男性は「刃が当たったのに謝らない」とか「髪型をばかにする」などといった身に覚えのないクチコミを書き込まれました。星の数で示す評価も星1つで、5段階で最低だったということです。

このためグーグルにこのクチコミを削除するよう依頼しましたが、当事者で話し合うか、裁判所の削除命令がないと対応できないとメールで返答があったということです。

男性は「投稿者に返信すると言い合いになって炎上するリスクがあると考え、できなかった。証拠があるものでもないし、法的な対応に出ることも難しいと考えた」と話していました。そのうえで「店に行こうと場所を調べて『こんなクチコミが書かれているなら別の店にしよう』という人もいると思う。身に覚えのないクチコミが投稿されてもお手上げではとても困るので対応を改善してほしい」と話していました。

また、30年以上前から横浜市内で歯の治療や矯正を行う歯科医師の稲毛滋自さんは自身のクリニックに対して「ゴミ未満」や「高齢のお局事務員」などのクチコミが書き込まれ、いまも残り続けています。

スタッフや患者から心配する声が寄せられましたが、誰が投稿したのかわからず、反論することもできなかったということです。

稲毛さんは「ひどいクチコミを書かれるとスタッフも私もみんな精神的にダメージを受ける。本当に患者なのかわからない他人から事実関係の定かではない投稿をされるのはフェアでは無いと思う。『ゴミ未満』など明らかに悪口と言える言葉は投稿できないようにするなど対応してほしい」と話していました。

弁護士「クチコミには勘違いや事実でないものも」

グーグルマップを含むクチコミをめぐっては「削除したい」とか「発信者を特定したい」といった相談が弁護士や国の窓口などに寄せられています。

情報法などの研究者らで作る「情報法制研究所」の上席研究員を務め、ネット上のひぼう中傷の問題に詳しい中澤佑一弁護士によりますと「グーグルマップの口コミが事実と異なる」などという相談は医療関係者からが目立っているということです。

具体的な投稿内容としては「反社会的勢力と関係している」「職員の容姿を侮辱された」「診断が間違っていた」などといったもので、医療関係者は守秘義務もありクチコミ上での反論は現実的ではないということです。

そのためグーグルに削除を依頼するものの「裁判所の削除命令が必要」などとして対応してもらえないことが多いということです。

中澤弁護士は「書く側は一瞬だが書かれた方は消そうとすると裁判に関する手続きの費用として数十万円かかり、お金も手間も必要になる。利用者もクチコミには勘違いによるものや事実と異なるものもたくさんあるということを知っておいてほしい」と話していました。

またクチコミの投稿に関する相談件数も増加傾向が続いていてインターネット上のひぼう中傷などについて対応を案内している総務省の「違法・有害情報相談センター」には昨年度 令和4年度は5年前の2倍近い249件の相談が寄せられ統計を取り始めて最も多くなりました。

グーグル「クチコミ意見に相違がある場合 判断には関与しない」

クチコミなどの投稿についてグーグルはユーザーに禁止の基準を示しています。

具体的には「実際の経験や情報に基づいていない投稿」「意図的に偽造されたコンテンツ」「中傷的な言葉や個人攻撃」「不正確なコンテンツ」などとしています。

グーグルによりますと実際に、去年1億1500万件以上のクチコミが基準に違反しているとして削除したり、投稿が表示されないようにしたりしたということです。

一方で、クチコミに関して投稿した側とされた側で事実に関して意見の相違がある場合はグーグル自身はどちらが妥当かなどの判断には関与しないとしています。

グーグルは「グーグルマップでは、様々な場所に関する信頼できる情報を見つけやすくし、不正確な内容や誤解を招く内容を減らすよう努めています。グーグルのチームは、人間のオペレーターと機械を組み合わせて、24時間体制で企業プロフィールを保護し、不正なレビューを削除しています。システムを積極的に監視し、ポリシー違反のコンテンツを削除しています」とコメントしています。