時効とは…15年前、彼の左目を刺した男は今も逃げ続けている

それは、会社から自転車で帰宅している時のことでした。
2人組の男に襲われ、傘のようなもので左目を刺されたのです。
一時、意識不明になり、今も後遺症に苦しめられている男性。
しかし事件は11月18日に時効となります。

「時効が来ても後遺症が治るわけでもない」
事件直後から支え続ける妻が、この15年を振り返りました。

(仙台放送局 記者 藤家亜里紗)

突然、左目を…

2008年11月18日午前1時ごろ。
39歳の菅原邦彦さんは、仙台市内の会社から自転車で帰宅していました。

突然、2人組の男にかさのようなもので左目を刺された菅原さん。
現場で倒れているのを見つかり、病院に運ばれましたが、意識不明の重体になりました。

事件現場

現場には20メートルにわたって血痕が残されていたといいます。

当時、現場付近では作業着のような服を着て、頭に白いタオルを巻き、菅原さんから奪ったとみられるショルダーバッグをかけた男が目撃されていました。

警察は強盗傷害事件として聞き込みや防犯カメラの解析など捜査を続けてきましたが、事件発生から15年となる11月18日に時効が迫っています。

殺人事件などは時効が廃止されましたが、強盗傷害事件には時効があるのです。

サッカー好きだったのに…

サッカーが好きで、社会人チームでもプレーしていたという菅原さん。
当時、交際していたのが恵子さんです。

事件が起きたのは、サッカーに夢中になって足の指に黒い血まめができたことを恵子さんに話していた数日後のことでした。

当時の菅原さん

連絡を受けて、恵子さんが病院に駆けつけた時、菅原さんは頭から足まで全身ガーゼのようなもので包まれた状態でした。

わずかに見えた足の指に血まめを見つけ、本人だとわかったといいます。
意識はなく、何度呼びかけても反応がありません。

恵子さんは現実をすぐに受け止めることができなかったといいます。

恵子さん
「顔も本当に彼なのか分からなかった。一瞬にしてこんな風な人生になるんだと思って、頭の中は『なんで?なんで?』というのがずっと続いていました」

それでもそばにいたい

菅原さんは一命をとりとめ、数か月後に意識は回復しました。

しかし、重い後遺症が残り、寝たきりで介護が必要な状態となりました。
長いことばを話したりすることもできなくなりました。

それでも菅原さんのそばにいたい。
恵子さんは菅原さんを支えていく決意をします。

菅原さんが東京の病院でリハビリをしていた時は、金曜日に仕事が終わると夜行バスに乗って宮城から東京まで会いに行っていたといいます。

およそ2年後、東京でのリハビリを終えたタイミングで、2人は一緒に暮らし始めました。

菅原さんは、自宅に戻った後も、介護が必要な状態でした。
恵子さんは日中は仕事、帰宅したら訪問のヘルパーと交代し、介護にあたりました。

ヘルパーと情報交換のために使っていた連絡用のノートは、22冊にのぼります。

「本日も文章レベルでの会話を楽しめました」
「調子がいいと右手右足の操作もスムーズです」

ノートには菅原さんのその日の様子がつづられています。

一つ一つできることが増えていくたびに、回復に向かっていることを実感したといいます。

結婚後も続く入院生活

事件から3年余りたった、邦彦さんの誕生日。
2人は結婚しました。

しかし、事件による脳の損傷でけいれんを起こすことも多く、救急車で搬送されることも。

菅原さんの体調に一喜一憂する日々が続いているといいます。

恵子さん
「絶望的な感情になったり、それとは反して、彼の頑張りでまた前向きに気持ちが高まったりとか、そういう波が激しかったような気がしますね」

菅原さんの体調が安定している時は、2人で旅行に出かけることもあったといいます。

しかし、ことし8月。菅原さんは体調を崩して、再び入院してしまいました。

病室の菅原さんと

病院で面会できるのは、週に1回15分間、家族一人だけ。
今は自宅で1人で過ごす時間が多いといいます。

そんな恵子さんが大切にとっているのが、3本のお酒の缶です。

恵子さん
「これは、邦彦くんが事件の前に家に来たときに置いていたもので。けがをする前のものなんです。なんか捨てられなくて」

事件から15年たった今も、残り続ける後遺症の影響。
会いたいときに会えない状況にさみしさが募るといいます。

事件はまもなく時効に…

今月18日になると、時効となり、捜査は終結します。

なぜ自分たちがこのような目にあわなければならないのか。
犯人が今もどこかで暮らしていることを考えると、憤りと悔しさが抑えきれないといいます。

恵子さん
「時効になったらそこで期限で終わらせられちゃうんだっていうことを考えると本当に悔しい。私たちは時効までに犯人が逮捕されることを望んでいるのに、それと真逆の考えでカウントダウンをしているとしたら、本当に許せない。時効が来ても後遺症は残るし、それを支える生活も続いていく。私たちだけが現実に取り残されるようで悔しい」

時効まで残された時間は短いですが、それでも恵子さんは犯人が罪をつぐなうことを願っています。

恵子さん
「自分たちが犯してしまったことに対して、きちんと罪を償って出頭してほしいです。罪を償わずに平然と生きていていいなんていう世の中であってはならないと思います」

時効が来ても後遺症は治らない

一つ一つの事件で捜査ができる時間は限られていますが、たとえ時効になったとしても被害を受けた事実はなくなりません。

菅原さんのように事件がその後の人生に大きな影響を与え、その傷に向き合い続けなければならない人もいます。

恵子さん
「時効が来ても、邦彦くんの後遺症が治るわけでもない。邦彦くんと彼を支える私の生活はずっと続いていく」

事件について、心当たりや目撃情報がある方は、宮城県警 若林警察署の0120-886-603まで情報をお寄せください。

(11月13日 てれまさ で放送)