デザインで誘導される?!「ダークパターン」の落とし穴

「無料トライアルだと思っていたら、知らないうちに定期購入になっていた」
「飛行機のチケットを買おうと思ったら、最後の最後で『手数料3000円』」

それ、サイトやアプリのデザインに誘導されたのかもしれません。
「ダークパターン」、あなたは聞いたことありますか?

(デジタルでだまされない取材班 芋野達郎)

いつの間に有料会員に…

「気付かないうちに4万5000円を支払っていた」

NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に寄せられた声です。

連絡をくれたのは関西地方に住む千晶さん(仮名・30代)。

いったい何があったのか、直接話をうかがいました。

千晶さん

6年ほど前から、ある音楽配信サービスを「無料会員」として利用していた千晶さん。

ところが、ことし8月、「会費」を支払っていることに気付きました。

よくよく確認してみると、5年前の11月には音楽配信サービスの「有料会員」になっていました。

そして、無料期間のあと、約4年半の間にあわせておよそ4万5000円の会費を支払っていたのです。

月に1回、数曲程度を聞くだけで、有料会員になるつもりはまったくなかったという千晶さん。

「フィッシング詐欺などで誰かに勝手に登録されてしまったのかも…」

不安になってネットで調べてみると、同じような経験をしたという書き込みを数多く見つけました。

そこに記されていたのが「知らない間にポップアップを押してしまったのが原因だと思う」という経験談でした。

千晶さんが有料会員になった5年前に使われていたとみられるポップアップは、このようなもの。

「△△曲が聴き放題」という文言とともに、「無料体験」のボタンが目立つように表示されていました。

一方、無料期間のあとに自動で有料会員になることは明示されていないうえ、会費は小さな文字で書かれていました。

このようなポップアップ、千晶さん自身も見た記憶がありました。

有料会員に登録を促すものには拒否するボタンを押していたつもりでしたが、さまざまな種類のポップアップが何度も表示されるため、何らかのタイミングで「無料体験」のボタンを押してしまったのではないかと千晶さんは考えています。

クレジットカードの明細では、音楽サービスの会費とは明示されていなかったことも気づくのが遅れた原因でした。

会社に連絡を取り、直近の1か月分の会費は支払わずにすむと言われましたが、それ以前の分は戻ってくることはありませんでした。

千晶さん
「最近収入が減り、電化製品のコンセントをこまめに抜くなど、少しでも生活費を削ろうと努力をしていたところだったので、呆然としました。法律には違反しないのかもしれませんが、だまされたようで悔しく、もうこのサービスを使うことはないと思います」

「7つの類型」あなたも経験ありませんか?

こうした、消費者が気付かないうちに不利な判断に誘導する仕組みのウェブデザインは、ダークパターンと呼ばれています。

消費者が気付かない間に不利な判断・意思決定をしてしまうよう誘導する仕組みのウェブデザインなどを指す」(消費者庁のホームページより)。

欧米では法整備が進む一方、日本では一部の悪質なものを除いてダークパターン全体を規制する法律はありません。

OECD(経済協力機構)は去年出した報告書で、ダークパターンには7つの類型があるとしています。

<強制>
ユーザー登録や個人情報の開示を強要する、など

<インターフェース干渉>
事業者に都合のよい選択肢を事前に選択している、視覚的に目立たせている、など

<執ような繰り返し(ナギング)>
通知や位置情報の取得など事業者に都合のよい設定に変えるように何度も要求する

<妨害>
解約やプライバシーに配慮した設定に戻すことなどを妨害する行為

<こっそり(スニーキング)>
取り引きの最後に手数料を追加する、トライアル期間後に自動で定期購入に移行する、など

<社会的証明>
ほかの消費者のうその感想や行動などを通知する

<緊急性>
うそのカウントダウンタイマー、在庫が少ない、需要が高いなどの表示

複数の専門家に確認したところ、千晶さんのケースは、2つ目の「インターフェース干渉」に当たるということです。

そのほか、皆さんも「あれもダークパターンか…」と思う経験、1つぐらいはあるのではないでしょうか。

93%のアプリで確認 「日本は大きなリスク」

ダークパターンがどれほど広がっているのか、その実態も明らかになってきています。

東工大のケイティー・シーボーン准教授(左)と研究室のメンバー

東京工業大学の研究室がことし4月に発表した調査結果では、ショッピングや音楽などの分野でダウンロード数の多い、あわせて200のアプリのうち、93.5%ものアプリでダークパターンが使われていたことが分かったというのです。

最も多い55%のアプリで見られたのが、運営者に都合の良い選択肢が事前に選択されているというもの。

たとえば、ネットでの買い物や旅行予約などの際に、「メールマガジンへの登録」が初期設定になっていて、そのことに気づかず、知らないうちに大量のメールが届くようになったというようなケースがこれにあたります。

次に多かったのが、「受け入れる」とか「購入する」など、運営者にとって都合の良い選択肢の文字を大きくしたり、目立つ色にしたりする手法です。

「偽の階層」とも呼ばれるこの手法も、半数以上、53%のアプリで確認されました。

このほか、「執拗な繰り返し」(43%)、必要以上にアカウントの登録をさせるといった「強制的な行為」(20%)、最後に手数料を求めるなどの「隠れた情報」(19%)などが続きました。

ダークパターンに“だまされない”ためには

これだけダークパターンが広がる中、身を守るためには、どうすればいいんでしょうか。

ユーザーがウェブサイトなどを快適に使えるよう言葉遣いを考えるUXライターで、ダークパターンについての著書もある、仲野佑希さんに聞きました。

UXライターの仲野佑希さん

当たり前のように思いますが、まずはダークパターンというものが存在すること、その種類や手法にはどんなものがあるのかを正しく知ってください。
「期間限定セール」「○人が予約しました」などと書かれていると焦ってしまいがちですが、その時に「これって、もしかしたらダークパターン?」と考えられると、論理的に判断できます。

さらに、商品を購入する時などは、取り引きの内容や解約するための条件を「最終確認画面」でしっかり確認してください。
ウェブサイト全体は長くて確認することが難しい場合でも、最終確認画面は大切な情報が比較的コンパクトにまとめられており、しっかり目を通すようにしてください。
トラブルになった場合のために、最終確認画面の画像を保存しておくことも身を守るためには有効です。

また、初めて利用するウェブサイトなら、評判を確認することも有効です。
多くの人が「だまされた」などと感じている場合には、口コミサイトやSNSなどで悪い評判が広がっているケースが多いです。

社会の隅々にまでネットサービスが広がる今、ダークパターンから完全に逃れることは簡単ではありません。

でも、どんな事例があるのか、どうすれば身を守ることができるのかを知ることによって、みなさんの身を守る助けにしていただければと思います。

(※記事で使用している画像の一部は、仲野さんの資料をもとに作成しました)