男性の育休進む?両親が取得で実質10割給付の案示す 厚労省

男性の育児休業の取得を促そうと、厚生労働省が育児休業給付を引き上げる新たな制度の案を示しました。

そもそも男性の取得率の現状は?
男性が育休を取得しなかった理由は何か
取得していても実は課題が…

男性育休の現状と課題を詳しくまとめました。

両親が育休取得で実質10割給付の案示す

政府は少子化対策の一環として男性の取得率を2025年に50%、2030年に85%にすることを目指すとしていて、13日、厚生労働省は労使などで作る審議会で、育児休業給付を拡充する案を示しました。

現在の給付率は休業前の賃金の67%で、社会保険料が免除されるため、手取り収入は実質的には8割となっています。これを両親が14日以上取得した場合は休業前の賃金の80%程度に引き上げ、手取り収入が実質的に10割となるようにするとしています。

男性の場合は子どもが生まれて8週間以内、女性の場合は産休後8週間以内に育児休業を取得した場合で、いずれも28日間を上限に給付率を引き上げるということです。

審議会ではこのほか、子どもが2歳未満で時短勤務をしている人に対する新たな給付制度について、時短勤務中の賃金の一定割合を給付するほか、労働時間や日数については制限を設けないなどとする案が示されました。

審議会の委員からは「育児休業を14日だけ取得すればよいととられないようにすべきだ」や、「時短勤務への新たな給付でフルタイムでの復帰が阻害されないようにすべきだ」などといった意見が出されました。

厚生労働省は、財源も含め、具体的な制度設計を進めたうえで来年の通常国会で関連法案を提出する方針で、再来年度(2025年度)からの開始を目指すとしています。

男性の育休取得率 過去最高も女性と大きな開き

育児休業給付の給付率を引き上げる背景には男性の取得率の低さがあります。

厚生労働省の調査では、男性の育児休業の取得率は昨年度(2022年度)は17.13%で前の年の(2021年度)の13.97%に比べて3.16ポイント増え、過去最高となりましたが、女性の育児休業の取得率は昨年度は80.2%で、男女では取得率に大きく差があります。

一方で、政府が6月に策定した「次元の異なる少子化対策」の方針では男性の育児休業の取得率の目標を2025年に50%、2030年に85%と明記されています。

取得しない理由は?背景に収入や仕事への懸念

厚生労働省が昨年度、小学4年生未満の子どもの育児を行いながら仕事をしている人を対象に行った調査で男性の正社員が育児休業を取得しなかった理由についてきいたところ、
▽「収入を減らしたくなかった」が最も多い39.9%。
▽「職場が育休を取得しづらい雰囲気だった」または、
 「会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」が22.5%、
▽「自分にしかできない仕事や担当している仕事がある」が22%、
▽「残業が多いなど業務が繁忙であった」が21.9%などとなっています。

期間の短さも課題

さらに男性については、育児休業を取得しても短期間にとどまり、家事や育児に十分な時間をさけないケースも懸念されています。

厚生労働省が2021年度に行った調査では、育児休業を、6か月以上取得したのは女性が95.3%だったのに対し男性は5.5%でした。

男性は5日未満が25%、5日以上2週間未満が26.5%で、半数あまりが2週間未満の取得となっていて、育児休業の期間の短さも課題となっています。

男性社員の育休取得率 約60%の企業も

東京・千代田区にある従業員およそ150人のIT関連企業では、育児休業を取得したことがある男性が自身の経験を話すセミナーや座談会を定期的に開催しているほか、子どもが生まれた男性社員には個別に面談を行うなど制度を利用しやすい環境の整備に取り組んでいます。

入社15年目の日比野峻佑さんは、2人の子どもの育児で5年前と3年前にそれぞれおよそ1か月とおよそ1週間、育児休業を取得したといい、社内のセミナーでは講師も務めています。

日比野さん
「自分が育児休業を取得する前は長期で休んだことがある社員は少なく、嫌な顔をされないか不安もありましたが、上司に背中を押して頂き不安が払拭されました。育児休業期間は子どもの生まれたばかりの貴重な時間を一緒に送ることができ、妻とも育児の大変さを共有することができました」と話していました。

こうした取り組みの結果、この会社では2013年までは育児休業を取得する男性社員はいませんでしたが、2014年以降の男性社員の取得率はおよそ60%にまで増えたということです。

一方で、育児休業の取得期間については女性が平均で262日なのに対し、男性は平均で54日にとどまり、賞与を含めた給料が減ることを懸念し育児休業ではなく有給休暇にする人もいるといいます。また子育て中の時短勤務についても女性の利用が12人に対して男性は1人と、こちらも女性の利用が多いといいます。

IT企業「コーソル」の松浪曉子管理部長
「育休や時短勤務を男性も取りやすくなることはいいことですが経営の立場に立つと1人抜ける分の仕事を別の人がやらないといけないので人手不足もあり大企業より中小企業の方が影響が大きいと感じる。仕事を引き継いだ同僚への手当のなども検討していく必要があるのではないか」

専門家「女性のキャリア選択の幅 広げるためにも」

企業の人材管理に詳しい東京大学の佐藤博樹名誉教授
「企業にとって男性の育休取得率の公表が必要となっている中、それに対応するために取得率だけ高めるのではなく、女性のキャリア選択の幅を広げるという点でも、男性が継続的に子育てに関わることができるような環境を整備していくべきだ。また、男性も女性もフレックス勤務やテレワークなどを活用して、フルタイムでも子どもの送り迎えなど育児に関わることができるようにするための環境整備も求められる」

ポイント解説【1】育児休業と給付

育児休業は育児・介護休業法で定められた制度で、原則、子どもが1歳に達するまで取得できますが子どもが保育所に入所できないなどの理由がある場合には2歳まで取得できます。

給付率は育児休業の開始から半年間は休む前の賃金の67%、その後は50%です。

育児休業中は社会保険料が免除されるため、取得から半年間は手取り収入が休業前の実質8割となります。

今回、厚生労働省が示した案では、両親がともに14日以上取得した場合は、28日間を上限に給付率を80%程度に引き上げ、手取り収入を休業前と変わらないようにするとしています。

また、配偶者がいない場合や、フリーランスなどで雇用保険に加入しておらず片方の親しか育児休業を取得できない場合も、14日以上の取得をしていれば給付率を引き上げる方向で検討しています。

ポイント解説【2】時短勤務と給付

また、育児・介護休業法では、3歳未満の子どもがいる従業員が希望すれば、事業者側は所定の労働時間を原則1日6時間まで短縮する措置を設けなくてはいけないことになっています。

ただ、この時短勤務に対する国からの給付はこれまでありませんでした。

これに対して厚生労働省が13日に示した案では子どもが2歳未満の期間に時短勤務をした場合、一定割合の給付を支給するとしています。

給付の割合についてはまだ決まっていませんが、時短勤務前の賃金を超えない形で今後、検討していくとしています。