あなたの会社にも? なぜ男女の賃金に“説明できない格差”

あなたの会社にも? なぜ男女の賃金に“説明できない格差”
先月、フリマアプリでおなじみの“あの会社”が会見を開き、自社の男女間の賃金格差について公表しました。

同じグレードで同じ業務をしている男性と女性で約7%の賃金差があり、“説明できない格差”があったというのです。会社は、格差の是正に向けて対策を進めています。

同じ企業で働く男性と女性に賃金の格差がある……。これって当たり前の事なのでしょうか?(おはよう日本ディレクター 松尾聡子)

男女間の賃金格差を公表したメルカリ

フリマアプリなどを手がけるメルカリ(東京)は、先月の会見で自社の男女間の賃金格差について公表しました。

男女の平均賃金の差は37.5%。この差のおもな原因を、経営陣やエンジニアなど報酬の高いポジションに男性が多いことだと同社は分析しています。

“説明できない賃金差”も

さらに、ポジションや業務内容の違いでは説明のつかない賃金差も見られたといいます。客観的に要因を特定できない“説明できない格差”が、約7%あることが分かったのです。

これは、同じグレードで同じ業務をしていても、男性と女性で約7%の賃金差があるという状況です。
さまざまなバックグラウンドの社員が働きやすい職場作りを推進するプロジェクトチームの責任者である趙愛子さんは、自社で“説明できない格差”が生まれていたことに、驚きを隠せなかったといいます。
プロジェクトチームの責任者 趙愛子さん
「正直、意外な結果でした。弊社の評価や報酬の仕組みは、これまで改良を重ねてきました。フェアな状態だと自負がありましたので、そんなにジェンダーペイギャップが起こりえないだろうと思っていたのが正直なところです」
なぜ、この差が生まれてしまったのでしょうか。分析を進めたところ、同社では社員の9割以上が中途採用者で、入社の時点ですでに“説明できない格差”があったことがわかりました。
前に働いていた会社の給与を参考にして報酬を決めていたため、すでにあった男女の賃金格差が、継続されてしまったというのです。

先進国で最も差が大きい日本

そもそも、日本の男女間の賃金格差は世界的にみても大きく、その是正が求められています。去年発表されたOECD=経済協力開発機構の調査によると、加盟38か国の中で下から4番目、21.3%でした。先進国(G7)では最も差が大きいという結果が出ています。
各国が格差是正に取り組むなか、是正には何が必要なのかという研究も進んでいます。

今年のノーベル経済学賞は、男女の賃金格差の要因などを研究したハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授が受賞しました。
ゴールディン教授は、女性の労働市場への参加についてアメリカの200年以上にわたるデータを集め、男女間の格差是正には何が重要なのかを分析しました。

その結果、格差を是正するには、
・政府の介入
・男性の家庭参加
・時間外や長時間労働前提の働き方の改善
・企業が柔軟な働き方を認める
ことが効果的だと明らかにしました。

社員の反応は

社外に向け、格差の公表に踏み切ったメルカリ。社員に対しても“説明できない格差”を開示し、男性と比べ理由なく報酬が低かった女性に対してベースアップをすることで、7%あった格差をひとまず2.5%まで改善しました。

また、今後は前職の給与を参考にしてオファーを出さないようにするなど、いま社会にある格差を再生産しないよう、人事制度を改善していくとしています。
一方、男女間で賃金の格差があったと知らされた同社の社員は……。
女性社員
「今回是正があったとはいえ、それ以前に関しては(給料が)返ってくる訳ではないので、こういったことがないように見直すきっかけになったらうれしい」
プロジェクトチームの責任者 趙愛子さん
「格差を再生産しないためには、いいことだけではなくて悪いことも含めて開示し、そこに対して具体的にどのようなアクションを取るのかという所をつまびらかにしていく。何かしらのアクションにつなげていくっていうことを、社会全体の動きにしていくことが重要だと思います」

「企業の自発的な取り組みが大事」

同社で見られた「説明できない格差」ですが、日本の労働市場全体で観察され、他の企業にも存在することが専門家の研究から明らかになっています。
「説明できない格差」には「労働市場における女性への差別」が反映されていると考えられますが、それ以外にも

・女性は競争や賃金交渉を避ける傾向にあるという心理的要因の男女差
・子育ての負担を女性が多く負っているという現状
・「男性が外で働き、女性が家事をすべき」という社会規範が、無意識的に男女の評価の差につながる

など、複数の要因も関係しているとされています。
労働経済学が専門の明治大学の原ひろみ教授は、同じ生産性を持つ男女の間で賃金差がある「説明できない格差」はすぐに解消すべき問題とした上で、日本の現状を次のように指摘しています。
明治大学 原ひろみ教授
「同じ企業、同じ事業所で働く男女の間でも説明できない格差が大きいというのが、日本の特徴のひとつです。具体的な方法は各社しだいですが、自発的に企業が縮小に取り組むことが大事」

国の対策は?

国も対策に動き出しています。厚生労働省は格差是正策の一環として去年から301人以上の従業員がいる企業に対し、男女間で賃金にどれくらいの差があるのか公表を義務化しています。

また、「女性の活躍推進企業データベース」も作成。登録企業(2万9725社)の男女の賃金差異や、管理職に占める女性労働者の割合、育児休業取得率などを公表しています。
さらに厚生労働省は格差是正のために、各企業に今後の取り組みなどの情報公開を働きかけたり、企業の好事例の周知をしたりするなど、女性の継続就業のための環境整備を進めていくとしています。
原教授は、日本より先に公表を義務化しているデンマークやイギリスなどでは、この施策によって格差が是正されており、日本での格差縮小への効果も期待できるとしています。

格差是正に取り組む企業 増えるか

今回、自社の男女間の賃金格差について会見を開き公表したメルカリ。

担当者は「最初は社内外のネガティブな反応を懸念しました。しかし、結果的には事実を開示したことによって、女性社員だけでなく男性社員からも評価する声が上がり、採用面接時に入社希望のかたから会社を好意的に受け入れてもらえるなど、得られたことの方が圧倒的に多かった」と話していました。

こうした取り組みをきっかけに、賃金格差の是正に前向きに取り組む企業が増えることを期待したいです。

男女間の賃金格差、あなたの会社はどうなっていますか?

(10月19日「おはよう日本」で放送)
おはよう日本ディレクター
松尾聡子
令和1年入局
福岡局を経て現所属