おもちゃの誤飲事故相次ぐ 強制力ある規制整備へ

クリスマスも近づき、こどもにおもちゃの購入を考えている家庭もあるかと思います。ただ、おもちゃを誤って飲み込んで手術につながるような事故も相次いでいます。

ネット通販で海外ではリコールなどの対象となっているおもちゃの流入も懸念される中、国は事実上、これまでなかった販売禁止などの強制力のある規制の整備に乗り出しました。

記事の後半では、おもちゃを購入する際にどんな点に気をつけるべきか、注意点をまとめています。

11歳女の子が開腹手術 腸に穴が

子どもがおもちゃを誤って飲み込み手術が必要になる事故が起きています。

11歳の女の子が飲み込んでしまったのはネオジム磁石と呼ばれる強力な磁石を使った直径3ミリと5ミリのボール状のおもちゃで「マグネットセット」と呼ばれています。

医師の所見では小腸と大腸の2か所にそれぞれ複数の磁石が入っていて、強力な磁力でお互いが引き寄せられ、腸の壁に穴があいてしまったということです。

当時、海外ではこうしたマグネット玩具の危険性がすでに指摘され、販売が禁止されている国もありました。川口医師が女の子の親から聞き取ったところ、誤って飲み込んだ磁石のおもちゃはネット通販で購入したもので当時、出回っていた海外製のおもちゃと特徴が似ていたことから輸入品と見られるということです。

聖マリアンナ医科大学 小児外科 川口皓平医師
「かなり小さいので食べ物とか飲み物に混入し、間違って飲み込んでしまったとみられる。輸入品だったと思うが、小さい子は触らないようにという説明書きはあっても日本語の説明としてはわかりにくいところがあった。電池や磁石のたぐいは飲むと手術になる可能性もあるので意識して触らせないようにすることが大事だと思う」

誤飲事故あとを絶たず 死亡例も

身近なものが原因で起きる事故を調査している消費者安全調査委員会が2017年にまとめた報告書によりますと、子どもがおもちゃを誤って飲み込み気道を詰まらせたとして日本小児科学会に報告された事故は2008年3月から2017年9月までのおよそ10年間で少なくとも7件あり、このうち3件が死亡事故だったということです。

また、東京都がおととし、都内に住む乳幼児の保護者3000人を対象にアンケート調査を行ったところ、乳幼児がおもちゃや食品を誤って飲み込んだり飲み込みそうになったりした経験がある保護者は1875人で、全体の6割以上だったということです。

海外でリコール対象のおもちゃ 国内に流入する懸念も

おもちゃについては事故を未然に防ぐため、EUやアメリカ、韓国など海外の多くの国で安全規制の対象となっています。

このうちEUでは遵守が義務づけられている規格に違反しているおもちゃなどを「セーフティー・ゲート」(Safety Gate)というWEBサイトに掲載しています。

各国の当局がリコールなどの措置を取った商品をEU内で迅速に共有する仕組みで、製品の種類や原産国、リスクの説明、当局が取った措置などが書かれています。

経済産業省は日本では規制がないため、近年のネット通販の普及によりEUなどではリコールなどの対象となっているおもちゃが国内に流入する懸念があるとしています。

実際、国内のネット通販サイトを調べると、EUの規格に違反しているとしてセーフティー・ゲートに掲載されているおもちゃと形状やパッケージが類似する商品が複数見つかりました。

このうち、子どもが小さい部品を口に入れて窒息するおそれがあると指摘され販売中止やリコールなどの措置が取られているものと類似する商品を実際に購入しセーフティー・ゲートの写真と比較しました。

すると、まったく同一のものかどうかは確認できませんでしたが、製品名や製造工場、それに製造年月日などパッケージに記載されていたほぼすべての項目が一致しました。

日本の安全基準は任意 マーク表示は6,7割にとどまる

日本には、およそ50年前から業界が自主的に策定した玩具安全基準(ST基準)があります。

製品が基準に適合しているかどうか第三者検査機関による検査を受け、合格すれば安全面で業界が推奨するおもちゃとして「STマーク」の表示が認められます。

基準は大きくわけておもちゃの形状や強度に関する物理的安全性、燃えやすい材料が使われていないか確認する可燃安全性、それに有害な物質が使われていないか調べる化学的特性について定めていて、数十項目の検査を行い、国際的な基準と同じ程度の安全性を求めているということです。

ただ、任意ということもあり、日本玩具協会によりますと、国内で販売されているおもちゃのうちSTマークが付いているものは6割から7割ほどだということで、それ以外のおもちゃについては消費者が安全性を確認できないのが現状です。

日本玩具協会の菅家勝専務理事は「マニュアルと違う使い方をしても安全が確保されるようにST基準はいろいろな試験がされている。引き続きこのマークをできるだけ使ってもらえるよう私たちも努力をしていきたい」と話していました。

このほか、乳幼児ベッドやベビーカーなど一部の子ども用製品については、製品安全協会が安全基準(SG基準)を作っています。

基準は学識経験者や消費者、それに検査機関などが関わって定めていて、検査に合格した製品には「SGマーク」を付けることができます。

専門家「安いと飛びつかず 安全基準が守られているか確認を」

国際的な商取引に詳しい立教大学の早川吉尚教授は「子ども向け製品に関してこれまで日本は業界の中で規格を作ってそれにみんなが従って安全性を確保してきた。ところが、グローバル化が進展して一般の消費者が海外の事業者からネット通販で製品を買えるようになっていて、業界内部の自主的ルールを通じた安全性の確保が実効的ではなくなっているのが問題の背景にある」と指摘します。

その上で「海外の事業者に任意の検査を受けてくれと言っても難しいので、日本としても例えば子どもの玩具の安全性に関する海外の規格に合うような形で強制的に守らせる規格を用意しないといけない状況になってきた」と話していました。

また、規制の実効性をどう確保するかについては「官の力だけでなく、民の力の協力も非常に大きい。ネット通販事業者にとっても危険な製品を売るのは本意ではないので、規格に合わないものについては協力して消費者の手に渡らないようにしてもらうことが考えられている。また、消費者の方もこの製品は安いと飛びつくのではなく、日本や世界の安全基準が守られているかをマーク等で確認した上で購入する行動が求められる」と述べました。

おもちゃを買うとき 何に気をつければ?

おもちゃを購入する際、どんな点に気をつけるべきか。日本玩具協会のST基準を参考にいくつか紹介します。

1つが誤飲のリスクです。

ST基準では直径4.45センチ以下のボール状のおもちゃについて3歳未満の子どもが飲み込み窒息する恐れがあるとしていて、検査でこの大きさの穴を通過してしまうと、合格できません。

政府広報オンラインによりますと3歳児の子どもの口の大きさはおよそ4センチで、トイレットペーパーの芯の直径とほぼ同じだということで、これより小さいものは子どもの周りに置かないよう呼びかけています。

また、おもちゃにひもが付いている場合も窒息のリスクがあります。

ST基準では、先端に部品が付いていて子どもの首にからまって輪を作る可能性がある場合、長さの上限は原則として対象年齢が1歳半までは20センチ、1歳半から3歳までは30センチになっているということです。

このほか、ST基準ではけがをするような鋭い先端が無いことや、誤飲した時の危険性が高いボタン電池が簡単に取り出せないようフタにねじ止めがされていることなどを求めているということです。

その上で、基準は対象年齢によって異なるため適切な対象年齢のおもちゃを選んでもらうことが重要だとしています。