11月11日「独身の日」の中国で大規模セール 節約志向も…

中国では、11月11日は「独身の日」と呼ばれ、毎年、ネット通販各社による大規模なセールが行われています。景気の先行きに不透明感が広がる中、中国の消費者の間では節約志向が強まっていて、セールの動向は経済の行方を占う上で注目されます。

11月11日は、中国では独身を意味する数字の「1」が並ぶため、「独身の日」と呼ばれ、この日にあわせネット通販各社が毎年、大規模な値引きセールを行っています。

最近はセールが10月下旬から前倒しで開始されるようになり、中国の調査会社によりますと、去年のセール期間中の通販大手3社の取り引き額は、日本円で19兆3000億円余りにのぼりました。

中国では、ここ数年、インターネットの生中継で商品を販売する「ライブコマース」が消費者の間で急速に普及し、セールでも各社が取り組みを強化しています。

さらに、動画投稿アプリやSNSなどを手がける会社も通販ビジネスに参入して販売を伸ばすなど、顧客獲得の競争は激しさを増しています。

ただ、中国では、不動産市場の低迷の長期化で景気の先行きに不透明感が広がり、厳しい雇用情勢が続いていることから、消費者の間で節約志向が強まっていて、セールの動向は経済の行方を占う上で注目されます。

節約志向が強まり 消費に慎重に

「独身の日」のセールについて、中国最大の経済都市・上海で話を聞くと、市民が消費に慎重になっていることがうかがえました。

20代の女性は「2つのサイトのうち、どちらが割り引きしているかを見て選んでいます」と話していました。

また、20代の男性も「買いたいものはありますが今は稼ぎが少ないので買えません。以前はしませんでしたが、今は細かく価格を比較して買えないなら諦めます」と話していました。

中国では、若い世代を中心に厳しい雇用情勢が続くなど、先行きへの不透明感から、消費者の間では、節約志向が強まっています。

中国の中央銀行がことし4月から6月に行ったアンケート調査では、お金の使い方について「消費を増やす」と答えた人が24.5%だった一方、「貯蓄を増やす」と答えた人は58%と高い水準となっています。

「ゼロコロナ」終了で消費は回復傾向も力強さ欠く

中国では、「ゼロコロナ」政策の終了以降、消費は回復傾向にはあるものの、力強さを欠く状況が続いています。

百貨店やスーパー、インターネット販売などを合計した「小売業の売上高」は9月、去年の同じ月と比べて5.5%の増加となり、伸び率は、2か月連続で拡大しました。ただ、ことし3月から5月が、新型コロナの感染対策で上海などで厳しい行動制限が行われた去年の同じ時期と比べて10%以上の高い伸びだったのに対し、その勢いは鈍化しています。

旅行需要などの高まりで、飲食や宿泊などのサービス消費が伸びる一方、住宅販売の低迷で、家電製品の販売は低調なほか、価格の高い自動車なども伸び悩んでいます。

背景には、若者を中心とした厳しい雇用情勢があるとされていて、ことし6月の16歳から24歳までの失業率は21.3%と過去最悪を更新しました。中国国家統計局は、7月分から若者の失業率の公表を停止しましたが、依然として高い水準にあるとみられています。

国内の需要回復が鈍化する中、物価も停滞していて、中国の先月の消費者物価指数は去年の同じ月と比べて、0.2%下落しました。消費者の間で節約志向が広がるなか自動車やスマートフォンなどが値下がりしていて、デフレへの懸念もくすぶっています。

企業はネット通販を積極的に活用

中国では、通販サイトに加えて、動画投稿アプリやSNSなどネット通販を行うプラットフォームが多様化していて、企業側は積極的な活用を進めています。

日系の家具日用品大手ニトリは、ネット通販大手のアプリなどで、店舗から従業員が商品を紹介するライブコマースを毎日、行っていて、「独身の日」のセール期間中も割引クーポンを発行するなどして販売に力を入れています。

また会社では、日本で「TikTok」という名前で知られる動画投稿アプリの、商品を通販できる機能を活用することにしています。

ネット通販市場で、動画投稿アプリのシェアが急速に高まっているためで、紹介する商品を同業他社が扱っていない機能性が高いものに絞り込むなど、消費者のニーズを捉えて売り上げを伸ばしたい考えです。

このほか、中国版「インスタグラム」とも呼ばれ、若い女性を中心に人気がある写真などを投稿するSNSでも、投稿ページから商品を購入できる機能をいかし、今月から販売を始めるなど対応を強化しています。

ニトリ中国広告宣伝・EC事業部の米沢剛志部長は「プラットフォームによって客層や買うものは違うので自分たちの商売に合うのはどれなのか見極めは必要です。中国の消費者も安いからではなく、本当に必要か、良い質かを意識して買うようにもなっていて競争はますます激しくなっています」と話していました。

リアル店舗で勝負 “滞在してもらう場所に”

ネット通販が急速に拡大する一方、コロナ禍のあとの消費の回復を見込んで、リアルの店舗で勝負しようという企業もあります。

日系の流通大手イオンは、今月1日、中国の湖北省武漢にショッピングモールを開業しました。中国での出店は2年ぶりになります。

延べ床面積は、28万8000平方メートルとアジアでは最大規模で、およそ260の店舗が入っています。

そして、最大の特徴は、1万2000平方メートルに及ぶ体験エリアです。映画館やゲームなどを楽しめるエンターテインメント施設、それに、屋内遊具のほか、屋上にはバスケットボールのコートやイベント広場、それに芝生が広がる公園などを設けています。

ネット通販が急速に拡大する中、ショッピングモールを単なる買い物の場所としてだけでなく体験を通して滞在してもらう場所と位置づけ、その中で消費につなげてもらおうというねらいです。

訪れた人は「屋上もにぎやかで子どもの遊び場もあるし、そのほかにもたくさん遊べるところがあり、朝から晩まで過ごすことができると思います」と話していました。

イオンモールの岩村康次社長は「ECの世界は人の世界をある意味、狭くしていってしまうと思う。集う場所やきっかけ、コミュニティを作ることに徹底的にこだわり、結果として地域に選ばれる、お客さまに選ばれると信じて取り組んでいる」と話していました。

専門家に聞く 中国の消費動向は? 日本への影響は?

中国の消費の動向や「独身の日」のセールの注目点などについて、大和総研経済調査部の齋藤尚登部長に聞きました。

Q1.今の中国の消費の動向をどう捉えているか?

A1.ひと言で言うと、期待外れだ。中国は、2022年末まで3年にわたって「ゼロコロナ」政策を続けたが、2023年からはウィズコロナ政策に転換し、過去3年分のリベンジ消費に大きな期待が高まっていた。このため、小売売上高はことしは対前年比で10%以上の増加が期待されていたが、1月から9月までは6.8%増となっていて、リベンジ消費は不発に終わっている。

Q2.「独身の日」のネットセールでは、安売りをアピールする広告が目立つが、どう見ているか?

A2.若者の間で節約志向がとても高まっている。かつて若者たちは「月光族」と呼ばれた。「光」は中国語で「し尽くす」という意味だが、毎月の給料を使い果たす、消費性向が高い人たちだった。若者たちが節約志向に走り、消費性向ではなく、貯蓄性向を高めているのが現状かと思う。「ゼロコロナ」政策によって雇用への不安や給料があまり上がらないのではないかという意識が根づき、消費の行動自体が内向きになり、消費行動が変わってしまった。

Q3.「独身の日」のネットセールの注目点は?

A3.各社が大幅なディスカウントをしてセールに臨んでいるので、活況を呈したとなると消費が回復している印象を持たれるかもしれない。ただ、安い品物を大量に購入した反動でしばらくモノを買わないという状況になりかねず、消費を抑制してしまう可能性が高い。このため、ネットセールが活況だったというのは素直に喜べないのではないか。活況であればあるほど、節約志向の高まりや、消費の弱さの裏返しと捉えることも可能で、活況すぎると、逆に心配だというのが正直な感想だ。

Q4.中国の個人消費の見通しをどう見ている?

A4.消費市場として中国を見たときに、いろいろな耐久消費財の普及が一段落してしまっている。新規需要が期待できず、買い替え需要ということになるので、消費が爆発的に増えていくのが厳しくなっている。また、将来に対して楽観的になれず、財布のひもが堅くなってしまっているので、明るい展望が描けないというところがリスク要因だ。今後は、雇用の8割以上を担っているとされる民営企業をいかに活性化させていくかが課題になる。ただ、残念ながら、習近平指導部が国有企業重視ということもあり、民営企業への強力なサポート策を打ち出せておらず、仮に打ち出せるとしても、果たして長期的に維持できるか、疑問符がつく。このため、消費はこの先も厳しい状況が続くのではないかと見ている。

Q5.中国の消費動向、日本への影響は?

A5.今は円安の効果があるので、日本製品が非常に安く買える、インバウンドということも考えても、大陸からの訪日観光客が戻りつつある。ただ、かつてのような中国人による爆買いという話はあまり聞かなくなった。過去3年の「ゼロコロナ」の影響で消費行動が大きく変化し、内向き化した可能性がある。さらに、かつて日本の製品は質やデザインがよいなどと言われたが、今は中国製品の品質やデザイン、ブランドイメージが向上しつつある。円安効果が支えているが、これが一巡すると、日本の消費財の対中輸出、インバウンドが厳しい局面を迎える可能性があると心配している。