実は“プラネタリウム大国”の日本 トレンドは?

実は“プラネタリウム大国”の日本 トレンドは?
近代的なプラネタリウムが誕生して、ことしで100年。日本は施設の数が世界有数で、全国47都道府県に最低1つは存在する“プラネタリウム大国”と言われています。

「一度は行ったことがある」という人も多いと思いますが、最近では天体学習にとどまらず、さまざまな活用法も広がっています。

(サタデーウオッチ9ディレクター 井上聡一郎)

“日本一の来場者数” 人気の理由

年間30万人超。

全国でも随一の来場者数(2021年度)を誇るプラネタリウムが名古屋市科学館です。
世界最大級とされる直径35メートルのドームでは中央にある投影機で星を映し出し、一度に350人が観覧できます。

人気の秘密は常に更新されていく学芸員の「生解説」です。
季節の星座や最新の宇宙研究など毎月テーマを変えるだけでなく、その日の星空や天候、宇宙ステーションが付近上空を通過する日にはその話題も即興で盛り込みます。

また7人の学芸員は切り口も語り口も異なるため、同じ内容の日はありません。
来場者
「ライブ感っていうか、その場その時だけの空気があって、すごいいいと思います」
来場者
「何回か来てるんですけど、やっぱり星空が出たら、おお!って感動する」

「本当の空に、つなげる」

実は学芸員による生解説は日本のプラネタリウムでは決して特別というわけではありません。

しかし、名古屋市科学館の学芸員は旬の話題や観客の反応を大切にする解説スタイルを61年前の開業当時から代々、引き継いでいるといいます。
名古屋市科学館 毛利 天文主幹
「同じ言い方を繰り返してしまうと、それは生解説ではなくて生音声でやっているということになります。季節によって星空も違うし、その日その状況で話し方や内容を臨機応変に変えていけるのが本当の生解説だと思っています」
そのこだわりは投影機器の操作にも徹底されています。

取材の時に解説を担当した学芸員の持田大作さん。解説に合わせて卓上の機械にある数多くのボタンやレバーを器用に使い分けながら、星や星座を映し出したり時間を進めたりしていきます。

解説に台本はありません。
学芸員 持田大作さん
「暗い中なので紙を持ってきても見えません。きょうの日の入りの時刻や、次に満月になるのがいつとか、数値で覚えられなかったりするのはモニターで表示していますが、話の内容とか、例えば神話の物語の筋書きとかは、もう頭の中に入れてあります」
さらにこの科学館では投影する映像まで学芸員自身が作っています。

観客に伝わりやすいよう、シーンの展開や間の取り方、音楽も含め、プログラミングをみずから担当します。

館内の制作室には手がけた映像のできばえを確認できるよう、上映用の7分の1サイズの試写用のドームまで備え付けられています。
名古屋市科学館 毛利 天文主幹
「新しい話題を入れるのは、それなりに手間もかかりますしプレッシャーもかかるわけですけれども、一期一会なので、その時の最高のものをお話したい。プラネタリウムで見たあとに本物を見てほしいですし、本当の空とつながって私たちがいるということをちゃんと認識していただければ、それがプラネタリウムのありうる姿だと思っています」

“プラネタリウム大国” 課題も

近代的なプラネタリウムは今から100年前、ドイツの博物館で初めて披露され、14年後の1937年(昭和12年)には大阪に国内初の施設が完成しました。

戦後、学校教育に取り入れられたこともあって各地に広がり、現在はあわせて296か所が稼働しています。
観覧者数は2018年度には889万人まで増加し、コロナ禍で大きく落ち込んだものの、回復傾向にあります。

また、技術も進歩しています。100年前に投影できた星の数は4500個でしたが、今では肉眼では見えない星も含め10億個以上を映し出せる投影機が登場。3D眼鏡をかけて立体映像を楽しめる施設もあります。

一方で、課題もあります。プラネタリウムはその大半が公営で、自治体の財政事情によっては老朽化する設備を更新できなくなるケースも。

実際、日本でこれまでに作られた478施設のうち3分の1以上が、閉鎖したり休館したりして現在は稼働していません。

日本プラネタリウム協議会の調査では全国の施設の観覧料金は有効な回答があった211施設の平均で一般が458円。

専門家は、施設の維持に向けて、こうした現状への対応が必要だと指摘します。
コスモプラネタリウム渋谷 永田 チーフ解説員
「公共施設なので、そんなに料金を高くするわけにはいかないというのが基本的に根づいている。日本にプラネタリウムがこれだけあるのは文化でもあるとも言えるので、それを守っていく意味では、もう少し料金を上げてもいいかなと思う」

多様な楽しみ方 広がる

こうした中、プラネタリウムを“学び”以外の新たな観点で活用しようという動きが広がっています。

例えば東京・渋谷区の施設ではドームを貸し切って、結婚式を行えるサービスを提供しています。
出会った日の思い出の星空を投影しながら式を挙げるケースがあるということで、ほかにもコンサート会場としても利用されているということです。
また、小型で高性能な投影機の開発が進んだことで船内でプラネタリウムを投影するサービスも登場していて、神奈川県と福岡県を結ぶフェリーで導入されています。

SNS映え 癒やしの空間に

さらに、民間のプラネタリウム機器のメーカーが運営する施設ではユニークなプラネタリウム体験を提供しています。

キーワードは「エンターテインメント性」。去年、横浜にオープンし、料金は大人が1600円。子どもは1000円です。
併設するカフェで販売する、宇宙をモチーフにしたドリンクやアイスを楽しみながらベッドのような席でゆったりくつろげるスタイルで癒やしを前面に押し出しています。

最大の特徴は、通常のプラネタリウムには欠かせない投影機がないことです。その代わり、ドームに2000万個以上のLEDを並べて映像を映し出すのです。
従来に比べて建設費が2倍程度に高くなりますが、みずから光を発するLEDの特徴を生かして色鮮やかで迫力ある映像が表現できるといいます。

「そういえば、彼女も星を見るの好きだったな…」

この日上映されていたのは、仕事や恋に疲れた男女が星空を見上げることで前向きになるというドラマ仕立ての作品。
SNS映えするような写真を来場者が自由に撮影できるプログラムもあります。
来場者
「プラネタリウムっていうよりも映画館。映像もきれいだし」
来場者
「またあしたから頑張ろうという気持ちになりましたね。最高でした」
コニカミノルタ プラネタリウム 広報 今井美穂さん
「映像の体験技術が向上したことによって、エンターテインメント性の高いプラネタリウムも楽しんでいただける現状になった。ふだんプラネタリウムや星になじみのないお客様にも、興味を持ってもらうきっかけになればと思っています」

見上げてみれば…

誕生から100年。気軽に天文ショーを楽しめる場所として日本に根づいたプラネタリウムは、その可能性を広げています。

秋の夜長に、ふと月を眺めていた、という人も多いと思いますが、たまにプラネタリウムに足を運んで思いっきり“星空”を見上げてみると新たな気付きがあるかもしれません。
サタデーウオッチ9ディレクター
井上 聡一郎
NHK「ニュース地球まるわかり」などの制作に携わったのち、2022年4月より「サタデーウオッチ9」を担当