中国不動産不況 地方が火種 三セクか?【中国発経済コラム】

「三セク破綻」「第三セクターが巨額赤字」と聞くと、日本の各地で起きた昔のニュースを思い出す方もいるかもしれません。

今、中国では、似たような「三セク問題」が、桁違いに大きな負債を抱えて発火しようとしています。それは「融資平台」と呼ばれる投資会社です。

地方の財政危機を招き、世界の金融市場を揺るがすおそれもある中国版三セク問題。いったいどのようなものなのでしょうか。
(中国総局記者 下村直人)

取り付け騒ぎが…

中国河北省の地方銀行の支店を埋め尽くす人、人、人。

10月上旬、経営危機に陥っている不動産大手の「恒大グループ」に、この銀行が巨額の融資をしているとの偽のリストが出回り、預金者が殺到。取り付け騒ぎが起きました。

銀行は床に大量の札束を積んで「お金は十分あります。ご安心ください」と呼びかけ、沈静化をはかったといいます。

不動産不況が深刻化

今、中国は住宅価格の下落が続き、深刻な不動産不況に陥っています。

先に紹介した銀行の取り付け騒ぎで偽のリストが作成された「恒大グループ」は、債務の再編交渉が難航。10月下旬には、不動産最大手の「碧桂園」がデフォルト=債務不履行に陥ったと国際的な金融委員会に認定されるなど、企業の経営や資金繰りが急速に悪化しています。

中国版三セク 膨らむ債務

その不動産不況をさらに拡大させかねない火薬庫のような存在が、地方にある「融資平台」と呼ばれる中国版の三セクです。道路や地下鉄などインフラを整備する資金を調達するために地方政府が出資・設立した投資会社のことを指します。

「融資平台」は英語ではLGFVと呼ばれています。Local Government Financing Vehiclesの略で、Vehicles=乗り物、器、組織体を意味する単語のとおり、ある目的をもってつくられた組織です。

それは何かというと、地方政府がインフラ投資を行う資金を集めるためのものです。中国では、地方政府は中央から認可された債券発行以外、資金調達が認められていません。それを回避して、資金をより集めるためのVehiclesなのです。

地方政府による暗黙の保証を背景に、「別働隊」として低コストで資金を調達。民間では難しい不採算の大規模プロジェクトも手がけ、地方の“通知表”である、地域のGDPを押し上げてきました。

そもそも中国では、土地は国が所有しており、地方政府が土地の使用権を不動産開発会社に売って、その収入をインフラ開発などにあててきました。

不動産価格が上昇すれば、使用権の売却収入で財政は潤い、さらに「融資平台」の投資によって成長が加速し、また不動産価格が上昇する。

この好循環のビジネスモデルは、地方政府にとって「打ち出の小づち」となりました。「融資平台」の借金、債務の額は公的債務として公表されないまま、年々膨らみ、「隠れ債務」と呼ばれるようになったのです。

始まった逆回転

不動産価格が上昇していれば、この「隠れ債務」が問題になることはありませんでした。しかし、不動産不況が起きて不動産価格が下落、好循環が逆回転を始めたことで、「隠れ債務」が一気に表面化しました。

財政がひっ迫した地方政府に、巨額の債務を抱える「融資平台」を支援する余力はもはやありません。各地で工事がストップし、建設作業員への賃金の未払いも相次ぐなど、「融資平台」の資金繰りは急速に悪化。債務の返済を繰り延べる事例も出てきています。

IMF=国際通貨基金は、「融資平台」の債務がことしは66兆人民元、1350兆円余りにのぼると推計しています。

債務は右肩上がりで増え続け、5年前の2018年からほぼ倍増。「融資平台」がデフォルトに陥れば、金融市場は大混乱に陥るとの懸念が強まっています。

地方銀行は資本不足も

デフォルトで懸念されるのが金融システムへの影響です。大手格付け会社、「S&Pグローバル」は、中国の地方銀行が去年末の時点で抱える「融資平台」に対する債権が12兆人民元、日本円で246兆円にのぼると推計しています。

取り付け騒ぎのきっかけとなった「恒大グループ」の負債総額はおよそ49兆円。単純に比較はできませんが、地方銀行の「融資平台」の債権はその5倍の規模です。

格付け会社では「融資平台」がデフォルトした場合、5分の1の銀行で資本不足に陥り、その不足額は45兆円余りにのぼる可能性があると指摘。地方や中央からの公的資金の投入など、抜本的な対策が必要になるとしています。

限界近づく

「融資平台」を起点にした地方での隠れ債務とデフォルトリスク。バブル期に日本の各地に設立された「三セク」は、不動産バブルの崩壊とともに巨額の負債を抱え、相次いで破綻。地域経済の長期低迷を招きました。

桁違いの負債を抱える「融資平台」がデフォルトに陥れば、影響は日本の比ではありません。野放図な資金調達と過剰なインフラ投資を長年「見て見ぬふり」してきた地方政府と中央政府は、ここに来てようやく解決に向けて本腰を入れ始めています。

しかし、巨額に膨らんだ債務のツケはあまりに大きく、危機を防ぐために残された時間は、それほど長くないかもしれません。

来週は14日と15日、アメリカで消費者物価指数と小売売上高が発表されます。FRBが2会合連続で利上げを見送る中、政策の先行きを占う上で、インフレや個人消費の動向が注目されます。