【10日詳細】“イスラエル 1日4時間 戦闘休止” ガザ地区北部

アメリカのホワイトハウスは9日、地上侵攻が続くパレスチナのガザ地区北部で、イスラエル軍が人道目的のために1日4時間、戦闘を休止すると発表しました。

1日4時間の休止が人道状況の改善につながるかは極めて不透明です。

またイスラム組織ハマスは最高幹部が過去の軍事衝突でも仲介役を務めたエジプトを訪れて当局者と意見を交わしたと発表するなど、仲介をめぐる動きが活発化しています。

※11月10日(日本時間)のイスラエルやパレスチナに関する動きを随時更新でお伝えします。

米ホワイトハウス “9日から1日4時間 戦闘を休止” ガザ地区北部

アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は9日、記者団に対しイスラエル側との協議の結果、イスラエル軍が地上侵攻を続けるガザ地区の北部で1日4時間、戦闘を休止すると明らかにしました。

戦闘の休止は実施の3時間前に発表され、民間人の退避や人道支援物資の搬入を進めるためとしています。

対象となる地域についてカービー調整官はガザ地区北部の複数の地域だとしていますがどの程度の範囲にわたるかはイスラエル軍が答えるべき問題だとしています。

カービー調整官は戦闘の休止によって民間人の退避や人質の安全な解放、それに人道支援物資の搬入につながるとして「正しい方向への一歩だ」と述べてイスラエル側の決定を歓迎しました。

そして戦闘の休止が必要な期間、続けられることが望ましいという考えを示しました。

今回の休止についてカービー調整官はバイデン大統領やブリンケン国務長官ら、さまざまなレベルでイスラエル側との協議が行われた結果だとしています。

“人道回廊は2か所に設置” カービー調整官

カービー調整官は、ガザ地区北部からの住民の退避のために2か所の人道回廊が設置されると明らかにしました。

カービー調整官によりますと、1つ目のルートは数日前から1日4時間から5時間、通行が可能になっていて、すでに多くの人が南部の安全な地域に到着したとしています。

また、2つ目のルートは海岸沿いの道路に沿って設けられるとしていて「さらに何千人もの人びとが南部に移動することを可能にするだろう」と述べました。

ネタニヤフ首相“人質の解放なしには停戦実現しない”

一方、イスラエル側からはこれまでのところ戦闘の休止の時間や場所などに関する詳しい説明はありません。

イスラエルのネタニヤフ首相はアメリカのFOXニュースのインタビューで、「戦闘は継続する。ただ、特定の場所で数時間、戦地から住民を避難させたい」と述べたうえで、「人質の解放なしには停戦は実現しない」として改めて停戦に否定的な考えを示しました。

国連 デュジャリック報道官「すべての当事者の合意必要」

国連のデュジャリック報道官はこの発表について「人道目的に役立てるためには、タイミングや場所について国連との調整が必要だ。紛争のすべての当事者の合意が必要だ」と指摘し、関係機関の連携が重要だと指摘しました。

国連特別報告者「4時間の戦闘休止 人々をあざ笑う 残酷なもの」

アメリカが発表した、イスラエル軍による1日4時間の戦闘の休止について、国連の人権理事会からパレスチナの人権状況の特別報告者に任命されているフランチェスカ・アルバネーゼ氏は10日、「人々に一息つかせ、再び爆撃が始まるまで、爆撃のなかった生活の音を思い出させるだけにすぎない。人々をあざ笑うもので、残酷なものだ。パレスチナで集団虐殺が行われるおそれがあると指摘される中、アメリカはイスラエルを擁護している」と強く批判しました。アルバネーゼ氏は「パレスチナの人々をエジプトに避難させなければならないというある種の容認が広まっているが、これは強制移住にあたる危険性がある」と強制移住は国際法違反にあたると指摘したうえで、「国際社会、特に欧米諸国などに本当に失望している」と述べました。

「今すぐ停戦を」 ニューヨーク・マンハッタンでデモ

パレスチナのガザ地区でイスラエル軍が1日4時間、戦闘を休止するとアメリカのホワイトハウスが明らかにする中、ニューヨーク・マンハッタンでは9日、パレスチナを支持する人たちおよそ3000人が集まり、停戦を求めるデモが行われました。

参加した人たちはパレスチナの旗を手に持ったり、パレスチナの伝統の織物「クーフィーヤ」を身にまとったりして「今すぐ停戦を」などと声を上げていました。

隣接するニュージャージー州からデモに参加したという33歳の女性は「4時間の戦闘休止では全く意味がありません。それは停戦ではありません。大統領や議会の人々には意見を聞いてもらえていないと感じるので、街に出て声を上げることでガザの人々に連帯を示す必要があると思います」と話していました。

また別の32歳の男性は「パレスチナの人たちの安全のため、停戦を求めるためにきました。戦闘の休止で一時的にでも人が殺されないというのはいいことだと思いますが、それでは十分ではありません。停戦が必要です」と話していました。

集まった人たちはこのあとマンハッタンの街中を練り歩きました。

イスラエル軍 “ハマス拠点の病院”を攻撃 現地メディア報道

イスラエル軍は10日、ガザ地区北部での地上部隊の作戦でハマスの複数の司令官を殺害したと発表するとともに、トップのハレビ参謀総長がガザ地区に視察に入ったとする映像を公開し、地上作戦が進んでいることをアピールしました。

こうした中、複数の現地メディアは9日夜から10日朝にかけて、数千人以上の住民が避難しているガザ地区最大級の病院、「シファ病院」がイスラエル軍による攻撃を受け、死傷者が出ていると伝えました。イスラエル軍はシファ病院の地下にはハマスの重要な拠点があると主張しています。

現地からの映像には、病院の敷地内で子どもや大人が頭などから血を流し、地面に倒れている様子が確認できます。

一連の衝突で、ガザ地区の地元当局は10日、ガザ地区でこれまでに1万1078人死亡し、このうち4506人が子どもだと発表しました。イスラエル側では少なくとも1400人が死亡していて、双方の死者は1万2000人を超えています。

ガザ地区地元当局 “シファ病院への攻撃 これまで13人死亡”

ガザ地区の地元当局は、イスラエル軍が9日夜から10日にかけて行ったガザ地区最大級の医療機関でガザ市にあるシファ病院への攻撃で、これまでに13人が死亡したと明らかにしました。

また、ガザ地区の保健当局も、ガザ市中心部にある数千人の住民が避難しているランティシ病院やナスル病院などがイスラエル軍の戦車に包囲され、水や食料もなく危険な状態にあるとしています。

人質解放に向けた協議や仲介の動き 活発化

人質の解放などに向けた仲介の動きも活発化しています。

ハマス最高幹部 エジプト情報機関と会談 人質解放など進展に注目

ロイター通信は9日、アメリカのCIA=中央情報局とイスラエルの対外工作活動を担う情報機関モサドのトップが仲介努力を続けるカタールを訪問し、カタールの首相を交えた3者会談で人質の解放などに向けた協議を行ったと伝えました。

またハマスは、最高幹部のハニーヤ氏が9日、前任のマシャル氏らとともにエジプトを訪れ、エジプトの情報機関のトップと会談したと明らかにしました。

エジプトはイスラエルとハマスの過去の軍事衝突でも仲介役を務めてきた国で会談ではガザ地区での状況について意見を交わしたということです。

また、エジプトのメディアは、カタールのタミム首長が、10日にエジプトを訪れて、ガザ地区をめぐる情勢についてシシ大統領と意見を交わす見通しだと伝えています。

ガザ情勢をめぐり仲介役を担うエジプトやカタールの動きが活発化しているとみられ、人質の解放などで進展があるのか注目されます。

「これ以上待てない」人質女性の家族 パリで早期開放訴え

人質解放に向けた協議が関係国の間で続いていると伝えられるなか、ハマスの人質となっている女性の家族がフランスの首都パリを訪れ、早期の解放を訴えました。

パリのエッフェル塔前の公園でメディアの取材に応じたのは、フランス国籍を持ち、ハマスによって人質となっている21歳のミア・シェムさんの母親と兄です。

ハマスは10月16日、ガザ地区で拘束しているとする人質の映像を初めて公開し、そこに映っていたのがシェムさんでした。

母親のケレンさんは「娘の姿を最後に見たのはハマスが公開した動画です。娘がいま生きているかどうかもわからず、もうこれ以上待てません」と不安な気持ちを吐露していました。

そして「イスラエルで起きたテロはフランスや他の国でも起きるかもしれません。これは世界の問題で、私たちは結集して人質全員を連れ返さねばなりません」と述べ、各国の協力を呼びかけました。

また兄のイライさんは「人質の解放はすべてにおいて優先事項であるべきだ」と述べ、人質解放に向けてハマスに対し、さらに圧力をかけるべきだと訴えました。

公園には、パリのユダヤ系の団体の支援で人質の顔写真を大きく載せたポスターが貼られたいすが並べられ、全員の解放を訴えていました。

イスラエル軍 ガザ市の軍事拠点に展開 戦闘員50人殺害と発表

イスラエル軍は9日、ガザ地区最大の都市、ガザ市中心部にあるイスラム組織ハマスの主要な軍事拠点に地上部隊が展開し、戦闘員およそ50人を殺害したと発表しました。

この拠点はイスラエル軍が地下にハマスの幹部の本部があると主張するシファ病院の近くにあり、ハマスの内務省の建物や、情報部門の本部、武器庫や工場、それに市街戦の訓練施設が含まれているということです。

このほかガザ地区以外のイスラエルの戦線ではハマスと連帯するイエメンの反政府勢力「フーシ派」がイスラエル南部の都市エイラートに向けて弾道ミサイルを発射したと発表しイスラエル軍はこれを迎撃したとしています。

エイラート市内の高校には無人機が突っ込んで爆発がおき、校舎に被害も出ています。

ガザ地区 避難先過密状態 破壊された自宅に戻る人も

ガザ地区ではおよそ72万人が学校など国連の関係施設に身をよせていますが、避難先が過密状態になり、人道支援物資の提供も遅れる中、破壊された自宅に戻る人もいます。

ロイター通信は8日ガザ地区南部のハンユニスで撮影した映像を配信しました。

映像ではイスラエル軍の空爆で自宅が壊され、避難所に身をよせていた一家ががれきが散乱する自宅に戻り、洗濯物を干したり、タンクにためた水で顔や腕を洗ったりしています。

国連機関が運営する学校には受け入れ人数を大幅に上回る避難民が押し寄せていてトイレは160人に1か所、シャワーは700人に1か所しかないなど、深刻な状況です。

各地の避難所では下痢や呼吸器の症状を訴えるケースも相次いでいるということで衛生環境も悪化しています。

破壊された自宅に戻った一家の男性は「子どもたちが避難所の劣悪な環境で飢えや恐怖にさらされるよりもこの場所にいるほうがいいです。少なくとも自宅にいることができます」と話していました。

イスラエル軍 SNSを通じ 南部へ退避するよう通告

イスラエル軍は最近では11月4日以降、SNSを通じてガザ地区北部の住民に対し、南部へ退避するようアラビア語で通告を行っています。

4日以降は連日投稿していて住民に対し、▽1日3時間から最大で6時間に、▽ガザ地区を南北に貫くサラハディン通りで南部に退避するよう地図を添付して通告していました。

イスラエル軍 住民退避の様子をSNSに投稿

イスラエル軍は10日、ガザ地区北部から南部に向けて住民が退避する様子だとする動画をSNSにアラビア語で投稿しました。

投稿は現地時間の10日も午前10時から午後4時にかけてガザ地区を南北に縦断するサラハディン通りの通行を許可するという内容です。

投稿時間のおよそ30分前に撮影したとする動画には大勢の住民が白旗を掲げ長い列になって歩いています。

今回の動画は数日間にイスラエル軍が発表した同様の映像と比べてより多くの住民が退避する列に加わっているように見えます。

一方、投稿にはアメリカが発表した戦闘休止についての言及がなく、イスラエル側でも10日、戦闘休止についての新たな情報は確認できていません。

ヨルダン川西岸 18人が死亡

ヨルダン川西岸のパレスチナ暫定自治区のジェニンでは9日、イスラエル軍による攻撃がありパレスチナの保健当局は18人が死亡したと発表しました。

イスラエル軍の9日の発表によりますと、ジェニンで対テロ作戦を行ったとしています。

ロイター通信が9日にジェニンで撮影した映像には、街なかに銃撃音が響く中、人々が走って逃げている様子が映っています。

パレスチナの保健当局によりますと、10月7日に始まった一連の衝突で、ヨルダン川西岸では、11月8日までに163人のパレスチナ人の死亡が確認されているということです。

武装組織「イスラム聖戦」男女2人の人質 動画をSNSで公開

ハマスとともにイスラエルと戦うパレスチナの武装組織「イスラム聖戦」は9日、人質として拘束している男女2人の動画をSNSで公開しました。

およそ3分間の動画では、車椅子に乗った高齢の女性と13歳だとする男の子が、1人ずつ画面に向かって話す様子が記録されています。

このうち女性は「愛する家族全員が恋しい。来週にはみんなの顔を見れると願っている」と話しています。

その上でイスラエルのネタニヤフ首相に対し「国内および世界の混乱の責任がある」として、人質の解放に向けてハマス側との交渉を進めるようイスラエル政府に強く要求しています。

また13歳だとする男の子は「早く家に帰れるよう政府に働きかけてくれている人に感謝する。なるべく早く帰れることを願っている。時間がたてばたつほど、危険が大きくなる」と話しています。

そしてイスラエルによる空爆で子どもが死亡していることや、人質のための水や薬なども不足しているなどとして、ネタニヤフ首相を批判しています。

映像は複数回にわたって編集されているのが確認できます。

2人はハマスの管理下にあり、発言した内容はハマスが用意したものか了承した内容である可能性もあります。

これについてイスラエル軍は「心理的なテロだ」と非難しています。

フーシ派「イスラエル南部のエイラート攻撃」ビデオ声明

イスラム組織ハマスと連帯するイエメンの反政府勢力フーシ派は、9日、弾道ミサイルでイスラエルを攻撃したと発表しました。

フーシ派の報道官はビデオ声明で「複数の弾道ミサイルでイスラエル南部のエイラートにある軍事目標などを攻撃し、被害を与えた。ガザ地区で行われているイスラエル軍による攻撃がやまない限り、パレスチナ市民のために今後も攻撃を続ける」として、イスラエルを弾道ミサイルで攻撃したと明らかにしました。

フーシ派はこれまでもイスラエル南部に対して、繰り返し弾道ミサイルや無人機による攻撃を行っているほか、8日には、イエメン沖の紅海でアメリカ軍の無人偵察機「MQ9」を撃墜しています。

トルコから救急車や医薬品など支援物資輸送へ

トルコ政府は先月22日、ガザ地区南部のラファ検問所に野外病院を設置できないか検討するとして、エジプト当局と調整にあたってきました。

こうした中、トルコ西部のイズミルの港では9日、現地でけが人の搬送に役立てようと、トルコの保健省が用意した救急車20台や手術室を備えた野外病院の資材、それに医薬品や飲料水などの積み込み作業が行われていました。このうち救急車は1台ずつ港のクレーンで宙づりにして貨物船へと運び込まれていきました。

保健当局によりますと、貨物船は10日、支援物資などの積み込みが完了し、ガザ地区と境界を接するエジプトに向けて出発したということです。

これに先立ち、コジャ保健相は9日、イスラエルの保健相と前日に電話会談したとした上で、「治療を受けられなくなった小児がん患者の子どもたちをトルコで治療することについて 肯定的な見解を得た」と述べ、ガザ地区の患者の搬送についてイスラエル側と調整を続けていると明らかにしました。

ただ、イスラエル軍によるガザ地区への地上侵攻が続く中、こうした取り組みが実現するかは予断を許さない状況です。

“パレスチナ 軍事衝突1か月でGDP1200億円余減” 国連など発表

UNDP=国連開発計画などは9日、イスラエル軍とハマスによる軍事衝突がパレスチナにおよぼす経済的な影響をまとめた報告書を発表しました。

それによりますと、軍事衝突が始まってから1か月で、パレスチナ暫定自治区のGDPは軍事衝突前の予想値と比べて推計で4.2%減少したととしています。実額の損失は8億5700万ドル、日本円にして1280億円余りにのぼると分析しています。

さらに、軍事衝突が▽2か月間に及んだ場合はGDPが8.4%減少し、▽3か月間続いた場合は12.2%減少して損失は25億ドル、3700億円余りにのぼると分析しています。

ニューヨークの国連本部で記者会見したUNDPの担当者は「ウクライナは1年半でGDPが30%減少したが、パレスチナでは3か月で12%減少する可能性がある。これほど大規模な損失は前例がない」と指摘しました。

また、報告書では、衝突が3か月続いた場合、貧困率は当初の予測から45.3%上昇する可能性があると指摘し、人道目的での停戦が求められていると強調しました。