神社の絵馬に“個人情報保護シール”が 願い事や氏名を隠す

願い事などを書いて神社に奉納する「絵馬」ですが、兵庫県西宮市の神社では、最近、この願い事や氏名の上にシールを貼って見えないようにするケースが出てきています。この神社ではシールは販売していないため、参拝者がSNSなどで広まるのを防ごうと、個人で持っていたものを貼りつけているとみられています。

兵庫 西宮神社 参拝者が個人で“シール”貼ったか

「えべっさん」の愛称でも知られる兵庫県西宮市の西宮神社では、現在、七五三参りがピークとなっていて、境内の一角にはおよそ300個の絵馬が奉納されています。

神社によりますと、この絵馬に書いた願い事や氏名などの上にシールを貼って見えないようにするケースが、ことし9月下旬から確認されているということです。

シールにはいずれも、「情報保護シール」とか、「個人情報保護のため」などと書かれていますが、神社ではシールの販売や配付はしていないということです。

このため、絵馬に書いた内容が他人に見られたりSNSなどで広まったりするのを防ぐため、参拝者が個人で持っていたものを貼りつけているとみられています。

参拝に訪れた神奈川県の女子大学生は「はじめて見ました。願い事を書くときは、個人情報も多いので、シールを貼るのはよい方法だと思います」と話していました。

一方、東京から訪れた40代の女性は「絵馬にまでシールを貼るんだなと、違和感を感じました。神様に願い事を気付いてもらえないのではないでしょうか」と話していました。

神社「特に問題視はしていない」

西宮神社の権禰宜の松井秀興さんは「誰もが気軽にSNSなどで情報発信できる時代になり、気にする人もいると思うので、特に問題視はしていません。シールを貼りたい人もいれば、無いほうがよいと言う人もいると思うので、シールを貼った絵馬は別の場所に奉納するなど、参拝者の声をもとに、今後、対応を検討していきたいです」と話していました。

京都 下鴨神社 約15年前から「目隠しシール」配付

絵馬に書いた願い事や氏名などをほかの参拝者に見られないよう、絵馬を手渡す際にシールを配っている神社もあります。

世界遺産に登録されている京都市の下鴨神社では、境内の一角に縁結びの神を祭った「相生社」があり、絵馬に貼るための「目隠しシール」を無料で配付しています。

神社によりますと、恋愛に関する願い事を絵馬に書いた修学旅行生から「同級生に内容を見られた」といった意見を聞いたことなどをきっかけに、およそ15年前からシールを配るようになったということです。

スマートフォンやSNSが普及した近年は、およそ9割の人がシールを貼っているということです。

神社は境内やホームページでも絵馬の奉納の手順を漫画で紹介していて、「願い事が見られないよう、上から目隠しシールを貼ってください」などと呼びかけています。

修学旅行で訪れ、絵馬を奉納した女子高校生2人は「プライバシーに配慮していてすごいなと思いました」とか、「他人に見られたり写真を撮られたりするのは抵抗感があるので、こうしたシールがあれば心配もなくなります」と話していました。

下鴨神社の広報担当の大塚高史さんは「目隠しシールを配るようになった当時は、個人がインターネットで情報発信できるようになりだしたころでした。その動きが活発化し、現在はSNSなどで瞬く間に情報が拡散されるリスクもあります。絵馬にシールを貼ったとしても願い事は神様に届くという考えが、今後広まればよいなと思います」と話していました。

情報化社会の問題の識者 “安心して奉納できる取り組みを”

情報化社会の問題に詳しい関西学院大学社会学部の鈴木謙介 准教授は「絵馬に書いた個人情報などがネット上で拡散するかもしれないとか、誰もが見られる場所に奉納してもよいのだろうかといった、さまざまなことを気にする時代になっていることが、背景にあるとみられる」と指摘しています。

そのうえで「シールを貼るなどの対策もあると思うが、参拝者に対して『プライバシーに関することは書かなくても神様には伝わります』と周知するなど、安心して絵馬を奉納することができるよう、簡単な取り組みから始めるのもよいのではないか」と話しています。

宗教社会学の専門家 “これまでに柔軟に形を変えてきた歴史”

宗教社会学が専門で皇學館大学文学部の板井正斉 教授は「古くは願かけの際に生きた馬を奉納する習わしがあったが、時代の流れによって次第に簡略化されて、今の絵馬が誕生したとされている。これまでに柔軟に形を変えてきた歴史を踏まえると、今後、参拝者のニーズにあわせた対応が神社側にも求められる」と指摘しています。

そのうえで「絵馬は参拝者すべてに見てもらう必要があるわけではないので、ほかの参拝者に見られたくない人のため、別のスペースを設けて参拝者側が選択できるようにするのも、ひとつの考え方だと思う」と話しています。