国立科学博物館 クラファン9億円余集まる 館長らが会見

国立科学博物館は、収蔵している国内最大規模の標本の管理に充てるためにことし8月から行ったクラウドファンディングについて、6日会見を開き、目標額を大幅に上回る9億円余りが集まったことに感謝を示すとともに、収蔵庫を増築するための建設費やコレクションのさらなる充実など今後の活用方針を明らかにしました。

光熱費の高騰など受け 資金が危機的状況に

国立科学博物館は、光熱費の高騰などを受けて国内最大規模の500万点以上に上る動植物の標本や化石などのコレクションを収集・保管する資金が危機的な状況にあるとして、ことし8月7日から今月5日夜にかけてクラウドファンディングを実施しました。

一夜明けた6日、篠田謙一館長らが記者会見を開き、クラウドファンディングを実施した結果、5万6000人余りからおよそ9億2000万円が集まったと明らかにしました。

集まった資金のうち3億円余りは返礼品や手数料などとして使う予定ですが、残りは年々増えている標本などを適切に管理するため、茨城県つくば市にある収蔵庫を増築するための建設費や、コレクションのさらなる充実などに充てる方針だと説明しました。

国立科学博物館 篠田謙一館長
「結果は大成功で、支援者の数も予想よりはるかに多く、ご支援をいただきありがとうございました。博物館が経営的に危機だということが見えるようになったことが大きかったと分析しています。今後は賛助会員などからの継続的な寄付を増やしていくことで資金の確保につなげたいです」

クラウドファンディングの支援額・支援者数ともに過去最高更新

クラウドファンディングを運営する企業によりますと、これまでに実施されてきたおよそ2万5000件のクラウドファンディングのプロジェクトのうち支援額が最も多かったのは、3年前の2020年に行われた新型コロナウイルスの感染拡大防止活動の基金を募るプロジェクトで8億7249万円でした。

今回の国立科学博物館のプロジェクトで集まった資金は、6日午前7時半の時点で9億1556万円に上り、過去最高額を更新したということです。

支援を行った人の数も5万6000人余りと、1件のプロジェクトの支援者の数としては過去最多だということです。

今回のプロジェクトはことし8月7日、募集を開始したその日のうちに目標額の1億円を超え、2週間余りで7億円が集まりました。

支援の動きはその後も途切れることはなく、募集が締め切られた5日までで、さらに2億円余りが寄せられました。

支援者の思いは

なぜこれほど多くの人たちに支援の動きが広がったのか。

4日、3連休でにぎわう国立科学博物館で、実際に支援した人たちから話を聞くことができました。

都内に住む真保義子さん(78)

国立科学博物館へはこれまでに子どもや孫を連れて何度も訪れており、家族との思い出が詰まった特別な場所だといいます。

「ここの展示を見ていると幼いときの子どもたち孫たちの姿がよみがえります。たびたび訪れるなかで標本はきちんと保存していくものだと思い、支援させていただきました。費用がかかっても次の世代につないでいかないといけないということは、1人2人の上の人が思ってもなかなか進みません。まわりの人がみんな意識を少しでも持つことが大切で、それが1つのきっかけとなれば」

同じく博物館の窮状を知り支援を決めたという西村淳さん(80)

「博物館の人たちの熱意やことばが心にしみてクラウドファンディングに応じました。日本には寄付を行って助けようという文化がありませんから、これを機会に日本の寄付文化が育てばいいと思います」

岩佐高明さん(72)

多くの人の間に支援の動きが広がったことについて、
「博物館が残ってほしい、今の状況がきちっと次の世代に伝わってほしいと思ったことが、一番胸を打った部分じゃないかと思います」

「クラウドファンディングもそうですが、それ以外にも民間の力をプラスする方法はあると思うので、少しでも国民全体が関心を持って関与していくことが大事だと思います」

大学や研究機関にも広がるクラウドファンディング 資金難が背景

資金面の厳しさを背景に、クラウドファンディングを活用する動きは国立科学博物館にとどまらず、大学や研究機関にも広がっています。

9月には、仙台市にある東北大学の植物園も、標本を管理する資金が危機的な状況にあるとしてクラウドファンディングを始めています。

これまでに当初の目標額である400万円を大きく上回るおよそ1500万円が集まっていて、植物園は標本がカビなどで劣化しないための除湿機の購入費や標本をデジタル化するための費用などに充てたいとしています。

また、茨城県つくば市にある国立環境研究所も絶滅危惧種の動物に関する国内最大の「遺伝資源バンク」の管理に充てる資金面の厳しさから、8月にかけてクラウドファンディングで支援を呼びかけ、目標額を上回る900万円余りを集めました。

「遺伝資源バンク」では、沖縄本島に固有の鳥で、外来種や交通事故の影響で個体数が減少するリスクがある「ヤンバルクイナ」や、小笠原諸島にのみ生息するチョウで、ここ数年、野外での目撃例がない「オガサワラシジミ」といった絶滅危惧種の100種以上の細胞などが凍結保存され、「遺伝的な多様性」を残す取り組みを行っています。

集まった資金を活用して、災害などで一度にすべてが失われるリスクを回避するため、「遺伝資源バンク」を北海道に新たに設け、分散して管理する計画を進めることにしています。

東北大学の植物園も国立環境研究所も、今回はクラウドファンディングで目標額を上回る資金集めに成功し、当面の活動にめどがつく形になりますが、標本や資料を次の世代に残していくには安定した財源が必要となります。

多様な財源の1つとしてクラウドファンディングも重要ですが、一過性に終わらない息の長い取り組みが求められています。

専門家 “やれば成功するとは限らず 知恵を出すべき時代に”

国立科学博物館が、資金が危機的な状況だとしてクラウドファンディングを呼びかけたことは、結果として多くの人が国内の博物館の現状を知ることにつながり、大きな関心が集まりました。

日本博物館協会の半田昌之専務理事は、今回の結果について、「まさか1億円という金額を始まった日のうちに達成して終了してみたら9億円以上集まったというのは、博物館界のことしのセンセーショナルなトップニュースの1つだというふうに思う」と驚いていました。

その上で国の予算が限られるなかで多様な財源が求められる時代になっているとして「利用する人たちが自分たちの“宝物”を守り、未来の世代につなげていくという1つの機能として博物館が必要だという気持ちを共有し、自分ができる支援を寄付などさまざまな形で考えていけるような方向が望ましいのではないか」と話していました。

一方、博物館の側に対しては、いままで以上に未来のために何ができるのかを真剣に考え、情報発信をしていくことが求められていると指摘しました。

また、今回の国立科学博物館の成功については「国立科学博物館のように予算規模も大きく、コレクションも膨大というところはむしろほとんどなく、日本の博物館を支えているのは中小規模の地域の博物館が大半だ。そういう博物館が同じようなクラウドファンディングをやれば成功するということは全くないと思う」と冷静に受け止めていました。

最後に今後の展望については、「これから博物館も含めた公共施設、公益性のある文化施設の運営のあり方というのは、いろいろと知恵を出して考えていくべき時代なのではないか。自分たちのステイクホルダーとしての地域の住民や利用者に、自分たちは何ができるのかという必要性や存在意義をもっとアピールしながら、規模は小さいなりに寄付を募ったり、運営への参画をお願いしたりしながら、一緒に博物館という社会資本を未来に向けて作っていくというような動きが日本の中でもっともっと活発になると未来は明るいのではないかと思う」と話していました。

盛山文科相 “多くの方々に感謝 どうしていくべきか検討”

盛山文部科学大臣は7日午前の記者会見で「多くの方々に科博のあり方や存在意義を理解し寄付していただいたことに感謝申し上げます。われわれが本当は頑張って予算措置を講じなければいけないが、不十分だからこそなっている。どうしていくべきなのかは大きな課題で、検討していかなければいけない問題だ」と述べました。