“不安”感じる人が増えています なぜいま?あなたは大丈夫?

“不安”感じる人が増えています なぜいま?あなたは大丈夫?
いま、社会のさまざまな出来事に“不安”を感じるという人が増えているといいます。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻やパレスチナ問題。そして、いつ襲われるのか分からない自然災害や止まらない物価高…。

その不安を過剰に抱いてしまうのが「不安症」という精神疾患です。動悸や呼吸困難などの身体症状が出てしまうことも。
「不安症」あなたは大丈夫ですか?
(おはよう日本ディレクター 小田翔子/上定涼乃)

記事の中で「不安症」のチェックリストも掲載しています。1度、確認してみてはいかがでしょうか。

「死んでしまうかも…」と過度な不安に駆られた

「あのとき自分はコロナにかかったら『絶対死ぬに違いない』ってパニック状態でした…」

都内の心療内科に通う30代の女性は3年前に「不安症」と診断されました。

フリーのライターとして働く一方、生計を立てるためにスーパーでパートとして働いていた女性。

新型コロナウイルスが蔓延する中、感染への恐怖でこれまで感じたことのないストレスから体の不調に襲われたといいます。
30代女性
「お客さんが来るたびに消毒をワンプッシュして、手にすりこんだり、カウンターにもアルコールを噴射したりしていました。仕事中に、突然めまいがして、何か足元がグラって揺れて転びそうになることも何度もありました。そういう時にはお手洗いに行くと言ってごまかしていました」
いまも2週間に1回ほどのペースで心療内科の受診を続けている女性。
少しずつ体調が回復しているといいます。
女性を診断した精神科医の浅川雅晴医師は、誰もが「不安症」になる可能性があると指摘します。
浅川クリニック 浅川雅晴医師
「数年前に比べると、初診患者の割合がすごく増えています。物価が上がったり、戦争が始まったり、先の見えない不安、そういう外的要因がここ数年より増えていると思います。誰でも『不安症』になる時代になっているような気がします」

ニュースを見るのが辛い…寄せられた不安

NHKの朝のニュース番組「おはよう日本」では、視聴者の皆さんから不安についてのご意見を募集しました。

ご意見投稿のフォームはこちらから↓
これまでに100件を超える意見が寄せられています。
「物価高騰、SNSやAIの世の中に不安を感じてしまう」
「ニュース、新聞、ネットなどのメディアで見聞きした情報により不安になる」
「異常気象による山火事・干ばつ・水害、紛争・戦争・テロ、プラスチックによる環境汚染、食べられるものがあと数年でなくなるのではと不安が募る」
「ウクライナ、ガザなど人間どうしの殺し合いが続き、良識ある世界でなくなっていくのはと思うと、何とも恐ろしい」
実際、多くの方が日々のニュースや出来事に不安を感じていることが分かりました。

不眠に悩まされたり、食事が取れなかったりするなど、身体的な症状に悩まされ医療機関を受診しているという人もいました。

“不安症”チェックリスト あなたは何点?

国立精神・神経医療研究センターによると「不安症」とは差し迫った出来事に対する恐怖や、将来に対する不安が過剰になり、行動や社会生活に与える影響が、成人は6か月、子どもの場合は4週間、続いている状態です。また、動悸、呼吸困難、震え、発汗などの身体症状が生じることもあります。

「不安症」には、次のようなものがあります。
▽「社交不安症」
ほかの人の前に出たり、特に話をしたり、注目され、評価される状況に対して強い不安を感じる。
「パニック症」
急激な不安と、動悸などの身体症状を伴うパニック発作が突然生じることを繰り返す。
▽「全般不安症」
はっきりとした対象にではなく、いろいろなことに対して次々と過剰な不安を生じる。
など
眠れない、落ち着かない、集中できないなど、うつ病と症状が重なる部分もありますが、不安感が続く症状は「不安症」と診断されます。

日本不安症学会が専門家の協力のもとで公開し、臨床現場での使用を推奨しているチェックリストがあります。

7つ設問があり“不安”を確認する指標になるといいます。
【この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか?4段階でお答えください】

全くない=0点/数日=1点/半分以上=2点/ほとんど毎日=3点。

▼1:緊張感、不安感または神経過敏を感じる
▼2:心配することを止められない、または心配をコントロールできない
▼3:いろいろなことを心配しすぎる
▼4:くつろぐことが難しい
▼5:じっとしていることができないほど落ち着かない
▼6:いらいらしがちであり、怒りっぽい
▼7:何か恐ろしいことがおこるのではないかと恐れを感じる
【1~7の点数の合計】
▽0~4点 軽微
▽5~9点 軽度
▽10~14点 中等度
▽15~21点 重度
1~7の合計が10点以上の方は「不安症」の疑いがあるということです。

不安症の診断は専門の医療機関が行います。
その上で、7つの問題に1つでもチェックしている場合、それらの問題によって仕事をしたり、家事をしたり、ほかの人と仲良くやっていくことがどのくらい困難になっているかを次の4段階で回答を求めています。
(※この質問は日常生活・社会生活機能の“不安”の程度を把握するもので、点数にはカウントされません)

全く困難でない…0/やや困難…1/困難…2/極端に困難…3
日本不安症学会の評議員長で「不安症」に詳しい千葉大学大学院医学研究院の清水栄司教授は次のように話しています。
千葉大学大学院医学研究院 清水栄司教授
「チェックリストの結果から自身の不安の状態を知り、心の健康に気を配る機会にしてほしい。心の健康づくりを社会全体がシステムとして構築することが求められていいます」

実はうつ病よりも患者数が多いかもしれない“不安症”

国の調査によりますと「不安症」で、医療機関を受診する患者は近年増加していて、最新のデータではおよそ3万人に上っています。

2020年の患者数は2014年の約1.4倍になっています。
清水教授は、すべての患者が医療機関を受診しているわけではなく、不安症の患者はもっと多いのではないかと指摘しています。
千葉大学大学院医学研究院 清水栄司教授
「潜在的には7割の不安症の患者が受診しておらず、精神疾患ではうつ病よりも患者の数が多いとも言えます。ただの不安から病的な不安、そしてそこから不眠、あるいはうつ病といったように、複数の病気がどんどん雪ダルマ式に悪くなっていってしまうこともあります。不安症は本当に身近な精神疾患で、相談の窓口を増やすなど、不安に対する心のケアが必要です」

海外では“気候”に不安を抱える若者が…

WHOが2022年に発表した報告書では、世界で8人に1人がメンタルヘルスに問題を抱えており、そのうち最も多い精神疾患が「不安症」だとしています。
さらに「不安症」が若い世代に与えている影響についての研究も進んでいます。
イギリスの研究者らが2021年に発表した論文では、不安の中でも、気候変動への不安について分析。世界10か国、25歳以下の若者1万人を対象に行った調査では、60%が気候変動により強い不安を感じ、45%は日常の生活に影響があると回答しています。
調査を行ったバース大学、講師のカロライン・ヒックマンさんは、今回の結果について
▽気候変動への不安について若者が相談をしても、聞いてもらえないこと
▽具体的な解決策が見えにくいことなど、先行きの不透明さが若者の不安を強くしている要因だと指摘しています。
バース大学講師 カロライン・ヒックマンさん
「若者たちは世の中で起こっていることを、テレビや新聞で見て影響を受けています。世界は、若者たちを心配させ不安にさせる脅威にあふれています。私たちの未来はどうなるのだろうと心配しているのです」

早期支援への新たな取り組みも

ではどうしたらいいのでしょうか。
東京 足立区では、いま若者の不安を受け止め、早期に支援しようという取り組みが始まっています。
15歳から25歳の若者を対象に無料で相談に応じている“SODA(そーだ)”。

もともと厚生労働省の研究・補助金によって始まった事業で、2022年から足立区の委託事業として続けられています。

精神科医や精神保健福祉士など専門スタッフが常駐し、必要に応じて医療機関や専門機関への橋渡しも行っています。
相談窓口の室長を務め、精神科専門医でもある内野敬さんは、不安を気軽に打ち明けることが、症状の悪化を防ぐことにつながると話します。
あだち若者サポートテラスSODA室長 内野敬さん
「病院を受診するよりもより手前の段階で、ある程度の専門的な相談が地域で受けられるような窓口が必要ではないかということで開設しました。困りごとがあったときに、早めに相談したり早めにサポートを受けたりということが必要だと思います」
コロナ禍のさなかにスーパーで働いていて「不安症」を発症してしまった30代の女性。当時、自分の周りには相談できる人がいなかったと話していました。

先行きの見えない時代を生きる私たち。

誰もが抱える不安を、互いに共有し“心の悲鳴”にそっと耳を傾ける。

そんなことができたら、少しだけ不安が和らぐのではないかと、取材を通して感じました。

(11月2日「おはよう日本」で放送)
おはよう日本ディレクター
小田翔子
2018年入局
長野放送局を経て 去年8月から現所属
おはよう日本ディレクター
上定涼乃
2022年入局
現在2年目