富裕層の取り込み強化 日本政府観光局 中東の産油国ターゲット

インバウンド需要が世界的に回復する中、日本政府観光局は富裕層の取り込みを強化することになり、中東の産油国をターゲットにした取り組みを始めています。

日本政府は、外国人旅行者の消費額を2030年にはコロナ禍前の3倍となる15兆円に増やすことを目指していて、今後は旅行者の数を増やすだけでなく1人当たりの消費額をいかに引き上げるかが課題になっています。

こうした中、日本政府観光局は欧米に比べ出遅れが指摘されている中東産油国の富裕層をターゲットに新たな取り組みを始めています。

このうち11月にかけて初めて行われた、中東で人気の「インフルエンサー」を日本に招待する試みでは、東京や京都、それに三重県の伊勢志摩などを1週間かけて巡り、観光地の魅力を体験してもらいました。

中東の富裕層は、大家族で高級ホテルに長期間滞在し、高額な買い物などを楽しむ旅行を好むほか、移動や訪問先ではプライベート空間の確保を重視するといわれ、招待されたインフルエンサーは、こうした好みに合うかどうかチェックしていました。

UAE=アラブ首長国連邦から参加したインフルエンサーの女性は「食事などで、私たちの文化への配慮が行き届いていて、中東の富裕層に受け入れられると感じました。大都市だけでなく地方の観光地もすばらしく、日本の魅力を発見することができました」と話していました。

日本政府観光局ドバイ事務所の小林大祐所長は「中東の富裕層は世界規模のマーケットになっているが、日本は誘致につなげられていない。情報発信を強化し、観光しやすい環境を整えていきたい」と話していました。

《中東の富裕層の市場規模と好みの傾向》

市場規模は

UAEやカタールなど、中東・湾岸地域の6か国は、コロナ禍の前に年間で3600万人余りが海外に旅行し、市場規模は世界5位に相当する10兆円に上るとされています。

このうち、日本に訪れたのは1%未満のおよそ3万人とごくわずかで、日本への誘致はヨーロッパやアメリカなどに比べ、出遅れています。

一方、日本への関心は高まっています。

日本政府観光局によりますと、湾岸6か国から観光目的で日本に訪れた旅行者は2010年、全体の49%でしたが、2019年には75%に増えていて、今後、急成長が見込める市場だと分析しています。

好みの傾向は

中東の富裕層の旅行は、家族で高級ホテルに長期間滞在しながら、ブランドショップで買い物を楽しむクラシックスタイルが一般的で、1人当たりの消費額が高いことが特徴です。

また、「VIP」として待遇されることを好むとされ、ホテルやレストラン、それに移動の車などではプライベート空間の確保を重視すると言われています。

日本側はこうしたニーズに対し、得意とする手厚い「おもてなし」で受け入れ、富裕層の取り込みを図りたいとしています。

《3つの重点で日本の魅力アピール》

今回のツアーで、日本側は「宿泊」「食事」それに、「移動」の3つを重点に、日本の魅力をアピールしました。

「宿泊施設」

まずは、宿泊。

中東の富裕層は、伝統と格式の高い欧米系の高級ホテルを好むと言われていますが、今回は、日系の高級ホテルを用意、日本の手厚い「おもてなし」を体験してもらうのがねらいです。

このうち、都内では、ことし5月にオープンしたばかりの新宿にある5つ星ホテルの、1泊およそ300万円のスイートルームを案内。

「バトラー」と呼ばれ、あらゆる要望を受け付ける専属の客室係がつけられ、快適に過ごせることをアピールしました。

「食事」

次に旅行のだいご味でもある「食事」。

中東は厳格なイスラム教徒も多く、保守的とも言われていますが、最近、日本食への関心が高まっています。

このため、ツアーでは日本の豊かな海の幸を体験できるコースを用意。

訪れた三重県鳥羽市の観光施設では、地元の高級食材、伊勢エビがふるまわれました。

「移動」

経済効果を国内全体に広げるには、都市部だけでなく、地方を訪れてもらうことも欠かせません。

このため、一部の移動にはヘリコプターを使用。

ヘリやプライベートジェットなどが離着陸できる空港が、国内各地に整備されていることを紹介。

富裕層が重視するプライベート空間を確保しながら、各地への旅行を楽しめることをアピールしました。

《さまざまな課題も》

中東の富裕層を日本に呼び込むには、さまざまな課題があります。

日本政府観光局によりますと、中東の富裕層は、費用がかかっても自分たちの要望をかなえてくれるオーダーメイド型の旅行を好むため、旅行会社には、顧客の要望を満たす力がより求められることになります。

現地のニーズを拾い上げ、魅力ある旅行を提案できる旅行会社や人材を育てることが急務となっています。

また、情報発信も課題です。

富裕層の誘致活動は、これまで欧米市場を中心に行っていたため、中東エリアは手付かずになっているのが現状です。

このため、日本政府観光局はおととし、UAEの最大都市ドバイに事務所を開設するなど、現地でのプロモーション活動を強化しています。