障害者向けグループホーム 3県16市町の施設で食材費過大徴収か

東京・港区にある会社が各地で運営する障害者向けのグループホームが、利用者から食材費を過大に徴収していた疑いがあるなどとして、国や自治体の監査を受けている問題で、愛知県など3つの県の16の市や町にあるこの運営会社の施設で、過大徴収の疑いがあることがわかりました。

ほかにも、複数の施設で、障害福祉サービスの報酬を不正に請求していた疑いがあることがわかり、自治体ではさらに詳しく調べて必要に応じて行政指導や行政処分を検討することにしています。

利用者から実費より過大に徴収か 「経済的虐待」の可能性も

東京・港区に本社があり、各地で障害者向けのグループホームを展開する「恵」をめぐっては、食材費を実費よりも過大に利用者から徴収していた疑いがあり、「経済的虐待」にあたる可能性があるなどとして、国や自治体の監査や調査が行われています。

NHKが1日までに、この会社のグループホームを法律に基づいて指定し、監査の権限がある全国29の都県や市に取材したところ、これまでに、愛知県の13の市や町と、川崎市、それに群馬県の前橋市・高崎市の、あわせて16の市や町にある施設で、食材費の過大徴収の疑いがあることがわかりました。
すでに利用者への返金が行われている施設もあるということです。

また、愛知県内の一部の施設では、定められた「個別支援計画」を作っていなかったり、「サービス管理責任者」などの必要な人員を配置しなかったりしたまま、障害福祉サービスの報酬を不正に請求していた疑いがあるということです。

一方、神奈川県によりますと県内の自治体がこれまでに行った調査で、障害者の虐待にあたる「ネグレクト」と判断されたケースがあったということです。

自治体ではさらに詳しく調べて国に報告するとともに、必要に応じて行政指導や行政処分を検討することにしています。

グループホームを運営する「恵」は、「現在、会社でも調査を行っているが、自治体の監査や調査を受けている最中なので、事実関係などを答えることはできない」と話しています。

「恵」の施設職員が証言 “1食 数十円しか使えず”

この問題をめぐり、関東地方の施設の職員がNHKの取材に応じ、会社から支給される食材費は1食あたり数十円しか当てられず十分な食事が提供できていなかったと証言しました。

取材に応じたのは、「恵」が運営する障害者向けのグループホームの関東地方の施設に勤めている男性職員です。

職員によりますと、施設では毎月利用者から2万数千円の食材費を集めていますが、会社から施設に支給される食材費は、去年までは4分の1以下の1人あたり6000円ほどだったということです。

職員によりますと、現在、支給額は改善されているということですが当時は1食あたり60円から70円ほどしか当てられず、ごはんと汁物と簡単なおかずが2品などと十分な食事が提供できていなかったといいます。

職員は、「全然予算が足りなかったです。足りない分を補うため、職員が食材を持ってきて食事をかさ増しするなどしていました」と当時の状況を振り返りました。

また、キッチンの前で食事を待つ利用者が立っていることもあったほか、家族から「帰ってくるたびやせている」などとクレームが入ることもあったということです。

そして、数か月前には会社から急に差額分を返金すると連絡があり、指示どおりそれぞれの返金額を記載した書面を利用者の家族に渡したということです。

しかし、書面には詳しい内訳などはなく、会社に問い合わせても明確な回答がなかったということです。

施設のサービス内容について、職員の間でも経済的な虐待にあたるのではないかという声も上がっていたということです。

職員は「私の立場ではどうすることもできず利用者には申し訳ない気持ちでいっぱいです。会社には間違った部分を出し切り、よい方向に向かってほしい」と話していました。

相談支援専門員 “ほかに空きがなく 恵の利用勧めた”

関東地方で障害者と福祉サービスをつなげる「相談支援専門員」を務め、障害者に「恵」のグループホームの「相談支援専門員」ことがあるという男性がNHKの取材に応じ、食事など支援の質に疑問を感じながらも、「ほかのグループホームや入所施設に空きがなく、勧めるしかなかった」と話しました。

この男性は15年あまりにわたって、関東地方で、障害者やその家族の相談に乗り、福祉サービスにつなげる「相談支援専門員」を務めていてこれまでに担当する障害者7人に「恵」のグループホームを勧めて、このうち5人は現在も入居しているということです。

担当する障害者の支援について話し合うため、「恵」の複数のグループホームに足を運んでいるということですが男性は、そのときに見た状況を振り返り、「食事はどこもごはん、汁もの、副菜の3品程度と少なかったです。家族からは『子どもがどんどんやせてしまって心配だ』と相談が寄せられたこともありました。スタッフの人数も少なく、10人の男性利用者を女性スタッフ1人が担当しているケースもあり、利用者が暴れていても放置している状態でした」と話しました。

男性が担当する5人は、親が病気で入院するなどしたため緊急で住まいを確保する必要がありましたが、ほかのグループホームや入所施設に空きがなく、利用を断られたということです。

一方、「恵」のグループホームは、障害の程度が重い人であっても利用を断ることなく受け入れていたということで、男性は、支援の質に疑問を感じながらも、入居を勧めるしかなかったということです。

男性は、「通常、施設の設備やスタッフの経験などに応じて受け入れる障害の程度や人数を決めますが、『恵』のグループホームは断らずに障害者を受け入れていました。食事の質が悪く、支援も事実上放任状態であることはわかっていましたが、ほかに選択肢もなく、預けるしかありませんでした。自分も人権侵害に加担しているのではないかと自己嫌悪になっています」と話していました。

その上で、「暮らしの場を求める障害者の相談は増えていると感じていますが、支援の質がよいグループホームや入所施設は空きがありません。両親ともに亡くなって行き場を失った障害者も少なくなく、質が悪いと感じるグループホームであっても入居を勧めるしかない現状があり、負の連鎖になっていると思います」と話していました。

グループホーム急増も 重度障害者向けは不足

グループホームは障害者が地域の一般の住宅やアパートなどを活用して数人で共同生活を送る障害福祉サービスで、事業所の数は近年、急速に増加しています。

障害者の暮らしの場を巡っては、身近な地域で尊厳をもって生活してもらうため、国は郊外などにある大規模な入所施設から、地域への移行を進めていて、グループホームの整備を推進しています。

厚生労働省によりますと、ことし3月末時点で、グループホームの事業所数は1万2673か所と、5年前と比べて4879か所増加しています。

利用者数は、ことし3月末時点で、17万1651人と、5年前と比べて5万6829人増えました。

増加の背景には民間企業の参入が大きく影響していて、ことし3月末の時点では営利法人が運営するグループホームの事業所は4390か所あり、5年前の819か所と比べて5倍余りに増加しています。

一方、おととし国の事業として行われた全国の市区町村を対象とした調査によりますと、回答があったおよそ1000の市区町村のうち、4割余りが「重度の障害者向けのグループホームが特に不足している」と答えていて、重度の障害者が利用できるグループホームのニーズが高まる一方で、入居できる事業所は不足しているという声が自治体や障害者の家族などからあがっています。

また、これまで障害福祉分野の経験がない企業の参入が相次ぐ中、支援の質が確保できるのか、懸念の声も上がっています。

調査に回答した自治体からは、グループホームの支援の質について、「障害福祉に関わりのない新規事業者の参入が目立つ。ノウハウやスキルがないため問題を起こす事業所が多い」とか、「営利法人の参入で事業所が増えており、支援の質を低下させないため実地指導などを行うべき」といった回答が寄せられました。

不足の背景は 運営法人の人手不足と経営難

社会福祉法人「日和田会」が運営するグループホーム

グループホームが不足している背景には、運営法人の経営状況が厳しく、十分な職員の人数を確保できないことがあるといいます。

埼玉県日高市の社会福祉法人「日和田会」は、中古の住宅を活用するなどして県内で18のグループホームを運営し、重度の障害者も積極的に受け入れています。

現在は70人余りの障害者が暮らしていますが、このうち6割以上が重度の知的障害者だということです。

法人では、利用者が安全に暮らせるよう、ここ数年で、グループホームを改修してバリアフリー化したり、浴室に体を支えるための専用のリフトを整備したりしていて、1軒あたり1500万円以上の改修費がかかっているといいます。

また、24時間の介助が必要な入居者もいるため、夜勤を含め、職員やパートスタッフを法律で義務づけられた人数よりも多く配置しています。

このように安全性を高め支援の質を維持しようとすると、国の障害福祉サービスの報酬と1人月5万円ほどの利用料だけでは経営が厳しく、人件費にあてる資金を十分確保できないため、人手不足が続いているといいます。

法人には、両親が高齢になり自宅での生活が困難になった障害者の家族などから入居したいという問い合わせが相次いでいますが、新たに障害者を受け入れることは難しく、現在、法人全体で10人以上の待機者がいるということです。

社会福祉法人「日和田会」の萩原政行理事長は、「重度の障害者をさらに受け入れるためには、十分な設備と専門的な知識のある職員が必要ですが、支援の質を維持するためにはこれ以上の受け入れは困難で、いまの経営状態では実現できません」と話していました。

今回の一連の不正の疑いについては、「障害者は限られた年金で暮らしている人も多く、不正が事実だとすると運営の方法としては全然ダメで『なんでそうなってしまったの』と感じてしまいます。営利法人のすべてが悪いということではありませんが、営利を目的に全国展開を目指すということには、違和感を感じます。行政には、福祉の質を底上げするような対策をとってほしいです」と話していました。

専門家 “透明性の確保と人手不足の解消策を”

今回の一連の不正の疑いについて、障害者福祉に詳しい日本社会事業大学専門職大学院の曽根直樹教授は、「グループホームの利用者の多くは知的障害者や精神障害者で、食材費の金額などについても、障害の特性もあり不正に気づきづらく、発覚しにくい状態だったのではないかと考えられる。まずは事実を明らかにし、被害の回復を行わせるなど、行政による適切な対応が求められる」と指摘しました。

また、近年のグループホームの現状について「ここ数年で営利法人の参入が増えている。ネット上では『福祉で資産形成をしましょう』というようなうたい文句でグループホーム事業に関するセミナーが開かれている。すべての営利法人がそうだというわけではないが、『稼ぐ』ということのみを目的に参入している事業者は一定程度存在すると考えられる。障害者の住まいをどうするか、特に質の高い住まいをどのように増やしていくかが大きな課題になっている」と話しました。

その上で、「悪質な事業者に対しては適切に行政処分したり、地域の住民や福祉の専門家などに運営の内部を見てもらい、必要があれば報告を求めるなど透明性を確保したりすることが重要だ。その上で、長期的には、重度の障害者が暮らせる環境を増やすために人手不足を解消していくための対策も求められる」と話していました。