アレン所長によると、ガザ地区では現在およそ5万人の女性が妊娠中と推定され、1日におよそ150人が出産を予定しているとしています。
UNFPAが公開した先月26日のガザ地区最大級の医療機関、シファ病院内の映像にはNICU=新生児集中治療室の様子が映し出されています。
ガザ地区 “早産が増加”避難所で出産も 妊婦と赤ちゃん状況は
ガザ地区への攻撃が激しくなる中、妊娠している女性や生まれてくる赤ちゃんの状況について女性や子どもを支援しているUNFPA=国連人口基金のパレスチナ事務所、ドミニク・アレン所長が今回、NHKのオンラインインタビューに応じました。
アレン所長はガザ全体で早産が増加しており、妊婦や赤ちゃんが必要な医療支援を受けられていないと指摘しています。
“ガザ全体で早産が増加”
アレン所長は「医療システムの全体的な状況は極めて厳しく、考えられないような試練に直面しています」と話します。
その上で、この病院でも、ガザ全体でも赤ちゃんが低体重で生まれる状況が増えていると指摘しています。
アレン所長
「医師の話や報告書によると、シファ病院だけでなくガザ全体で早産が増えています。戦闘による恐怖や何度も避難しなければならない状況が影響していると言う医師もいます」
さらに自宅や避難所で出産するケースも報告されています。
「自宅や避難所で出産をしなければならない場合もあり、その際、必要な医療支援は受けられません。また何とか産科病棟に無事たどり着いた女性でも、出産からわずか3時間後に病院を退院して、別の妊婦のために場所を空けなければならないケースもありました」
また、現場では医療物資が足りず、過酷なケースが報告されていると言います。
アレン所長
「シファ病院の医師によると、亡くなる間際の母親の子宮から子どもを取り上げなければ行けなかったケースがありました。また、母親と子どもの安全と健康を確保するために、帝王切開を麻酔なしで行っているという報告もあります。妊婦や乳児にとって、とても痛ましい現実です。ガザ地区はとても恐ろしく厳しい状況にあります」
“支援物資はまったく足りず”
では、水や医療物資はどうなっているのか。
アレン所長
「ふだん必要な物資の量は、ガザ地区全体で1日にトラック500台分以上と考えられていますが、いま実際に入ってきているトラックは20~30台ほど。その程度の支援物資ではまったく足りず、大幅に増やす必要があります。特に出産後の女性は子どもに授乳するために、一般の人よりも多くの水を必要とします。しかし、1~2本の小さなボトルに入った水しか得られない人もいて、その水さえも黒っぽかったり、塩分を含んでいたりすることがあります。それらが安全な飲料水か否か、私たちには確認できません。ガザ地区に、医薬品や物資を大量かつ緊急に届けなければなりません」
幼い子どもと避難している母親は
出産だけでなく、幼い子どもと避難する母親も非常に厳しい状況に置かれています。
JVC=日本国際ボランティアセンターエルサレム事務所の現地代表、木村万里子さんは、ガザ地区で活動する別の支援団体と協力して、現地の子どもの栄養状態の改善や、母親の育児相談などに取り組んできました。
木村さんのもとには、小さい子どもを連れて避難する母親から、窮状を訴えるメッセージが届いています。
その女性は生後半年の子どもと避難しており、一度は南部に避難したものの、何度も避難先を変えざるを得なかったと言います。
その女性からのメッセージには「数本の水はあるが、パンはない」「子どもは(1日)一食のみ」とありました。
また、木村さんの友人で、先月出産したばかりのアマルさんからは、避難先のガザ地区中部の映像が送られてきました。
そこには、隣家が爆撃を受けたため避難していた住宅が大きく壊れた様子が映し出されています。隣家の住民は亡くなったといいます。
木村万里子さん
「アマルさんには生後半年の娘と3歳の息子がいて、『怖い』と言ってずっと母親にしがみついてくるそうです。赤ちゃんを片手で抱え、もう一方の手で息子の頭と手をなでながら『大丈夫だよ』と言い聞かせているそうです。でも、本当はとても大丈夫ではなく、自分が怖い顔をして子どもをさらに不安にさせているのではないか、とアマルさんは心配していました」
「一瞬一瞬、死を覚悟するような状況下で、何とか生きながらえているということなんです。お母さん自身が健康でないと、母乳も出づらくなります。長くこの状況が続くことで、心身の健康を損ねてしまう可能性が高まります、それも心配です」
(取材/おはよう日本 山田剛史ディレクター・福岡由梨記者)