「空はドローンやミサイルを眺める場ではない」【動画】

北斗七星は日本では「ひしゃくぼし」とも呼ばれますが、ウクライナでは荷車にたとえられます。
また、天の川は、かつてウクライナで塩を運んだ「チュマク」と呼ばれる商人たちが、塩を道に落としてできた跡に形が似ているとして、「チュマクの道」とも呼ばれてきました。

しかし、ウクライナでは今美しい星空を楽しむ機会すら失われています。

そうしたウクライナの人々に、星空を通じて少しでも希望を届けたいと活動を続ける1人のプラネタリウム解説員の思いを取材しました。

※11月1日「国際報道2023」で放送した内容です
※動画は6分36秒、データ放送ではご覧になれません

キーウの夕暮れ。
満天の星空も、もう以前のようには楽しむことができません。

執ように続くミサイルやドローンによる攻撃で、空に恐怖心や嫌悪感をもつ市民も大勢います。「外出禁止令」が出され、夜に外を歩くことができない日もあります。

以前ほど星空は見ていません、空に対して不安や恐れがあります、安全が第一です。

71年前に開業したキーウプラネタリウムです。
ヨーロッパ最大級を誇るドームに映し出される星空は長年、市民に親しまれてきました。

20年以上、解説員をつとめるオクサナ・チェルヌソワさん。
「こんにちは、プラネタリウムにようこそ」
戦時下の今も、人々に星空の魅力を伝え続けています。

「こちらは冬のオリオン座。最も美しい星座です」
「この赤い星は太陽より何千倍も大きな星です」

「はじめて見ましたが、おもしろかったです」
「多くの星座を覚えました」

「空の上には未知の世界がある」
かつて、子どもたちはチェルヌソワさんらが映し出す満天の星空に熱狂しました。
この場所で、科学や宇宙への好奇心を育んでいったといいます。

しかし、ロシアによる軍事侵攻以降、授業で訪れる学校もほとんどなくなりました。
「安全のため、学校の先生たちは、子どもたちを外に連れ出すことにためらいがあります」

軍事侵攻の直後は、一時、閉館せざるをえませんでしたが、3か月後には営業を再開させました。

「子どもたちには学びと楽しみが必要です。だから行動しているのです」

設備に今のところ被害はありません。しかし、来館者は大幅に減り、以前の3分の1以下に。多くの不安を抱えながら、投影を続けています。

投影装置です老朽化していますが大切にしながら今でも稼働しています。もしこのプラネタリウムが破壊されたら今後数十年間キーウで星空を映し出すことはできなくなるでしょう。

ウクライナ東部など今も攻撃が続く地域ではプラネタリウムが置かれた状況はもっと深刻です。

ハルキウにあるプラネタリウムの解説員、オレナ・ゼムリャチェンコさん。軍事侵攻後、去年から日本に一時避難しています。
「ほらガラスが割れているでしょう」

ウクライナの主要都市にあるプラネタリウムのうち、ハルキウやドネツクでは施設が損傷。現在も放置されたままで再開の見通しは立っていないといいます。

他の解説員が避難してしまいプラネタリウムがどうなっているかわかりません。
子どもたちにとってもよい教育の場しかし残念ながら子どもたちにはその機会がないのです。

こうした中、キーウプラネタリウムでは毎週1回、東部からの避難者や前線にいた兵士などを無料で招待しています。

去年、戦闘中に片足を失った元兵士は息子を連れて訪れました。

とても楽しい、星が大好き。

今も兵士たちは塹壕で暗視カメラをのぞくか空をみることしかできません。戦争を忘れるべきではありませんが、人々が緊張から解放される時間が必要なのです。

ロシアに占領された地域から避難してきた親子です。

「流れ星をまれに見ますが、願いを込めるんです『戦争が終わり平和が訪れますように』と」

出口の見えない暮らしが続く中、プラネタリウムは、子どもたちをはじめ多くの市民に癒やしや希望を与えられるとチェルヌソワさんは考えています。

星空を眺めると誰もが興奮しワクワクします、動き出すと特にそうです。星をみると、自分の土地を愛し、世界とは何かを感じてもらうことができると信じています。
「空」はドローンやミサイルを眺める場ではないのです。

星空への憧れを忘れないでほしい。チェルヌソワさんはいつか心おきなく星々の輝きを楽しめる日が来ることを待ち望んでいます。

キーウは北緯50度付近。実はウクライナでは、日本とほぼ同じ星座が見られるということです。

その星空を映すプラネタリウムですが、設置には日本円で億単位の資金が必要です。復興ではインフラや病院などがまず優先されることから、チェルヌソワさんたちはもし破壊されたら数十年間は星空を投影できなくなると話していました。

だからこそ、一刻も早く、そんな心配をしなくていい状況になることを願っているということでした。